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第455回。スティーブ・ライト大好き

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スティーブ・ライト。
皆さんご存知の通り、イギリスの名レスラーである。

皆さんお察しの通り今日はプロレスの話なので知らない人は置いてけぼりである。

スティーブ・ライト。
日本では80年代に初代タイガーマスクとの名勝負を残したことが知られているが、日本や本国イギリス以外でも各地で活躍した名選手だ。
ご存じない方にちょっとご紹介すると、見た目は
てっぺんハゲ頭に背が高く手足の長い、バランスの取れた体格で流れるようなテクニックの数々を持つ、
ホントに
典型的なイギリス人レスラー
って感じのプロレスラー。

胸板が分厚く広いうえに手足が長いのを活かした、とにかく相手に組み付いて離さないねちっこい試合運びが特徴。
初代タイガーマスクとのWWFジュニアヘビー級選手権では徹底的に密着し、タイガーマスクの代名詞であるキックや空中殺法を全然使わせなかった。これには当時のファンもヤキモキしただろう。私だってビデオを見てヤキモキしたもの。
何しろタイガーマスクがちょっと反撃してもすぐまた寝技、関節技に持ち込まれてしまう。
腕を取ったと思ったら引きずり倒されるし、背後を取られてスリーパーホールド。そのスリーパーホールドを振りほどいで投げつけても、また組み付いて離れない。
そしてジワジワと狙いをタイガーマスクの足に定めてゆく。
タイガーマスクが膝を負傷していることもちゃあんと知っているのだ。そして彼の最大の武器が鋭いキックと空中殺法、さらに美しいブリッヂを描いて決めるジャーマン・スープレックスホールドだということも。
つまりタイガーマスクの足を封じることは、彼の必殺技をも封じることになる。

ネチネチネチネチ足を狙う。
タイガーマスクが必死に切り返しを見せても、それをさらに切り返してまたネチネチネチネチ。
漸く飛び出したフライング・クロスチョップやローリング・ソバットを浴びても、慌てずまた組み付いてくる。とにかく近寄っちゃダメなのだ。あの長い手足の外側から攻めなくてはならない。が、銃や長物を振り回すわけにもいかず、また油断するとパっと組まれてネチネチネチネチ…。

私は、実際こういうネチネチしたプロレスも好きなので見ていてとても面白い。
技と技がシームレス、繋ぎ目が無いのだ。次々と決まる関節技が実にスマート。

ちなみに当の初代タイガーマスクご本人もイギリス遠征が長く、アマチュアレスリングの経験もあることからこの手の試合が嫌いじゃなかったようで、スティーブ・ライトのことは
「とにかく一つ一つの技をキチっと決めてくる、レスリングの先生みたいな選手だった」
とGスピリッツで述べていたことからかなり評価していると思われる。

何しろプロレスとはプロフェッショナルレスリング、魅せるレスリングという意味であるが、その根底にはやはり本物の強さ、本当の技術というものがあって然るべきだし、それこそが
スピリット
として息づいているべきであると私も思う。そこは昭和のマニアと同じだ。

問題は、その表現方法の好き嫌いだけでね。
スティーブ・ライトと初代タイガーマスクの試合は、その点で言えばかなり魅せる側ギリギリまで突き詰めたプロフェッショナルレスリング。イギリス伝統のスタイルであると言えよう。
そこに世界各国で培った様々な戦いをミックスしていく。
蹴りも、飛び技も、投げ技も色んな要素を象徴するものとして繰り出されている部分もある。
そうした様々な様式が渾然一体となった末に完成する戦う肉体芸術がプロレスである。

初代タイガーマスクVSスティーブ・ライトは、名作中の名作だと思う。

決して大型の選手ではなかったものの、資料によればかなりのヘビー級とも対戦しているスティーブ・ライト。
90年代ごろまでは現役だったようだ。
もっとも、彼がリタイアするくらいから欧州マットは壊滅状態であったため、これ以降の活躍はどっちみち望めなかったかもしれない。

派手な技こそあまり使わないが、だからこそ初代タイガーマスクのような軽量級の選手とも、スーパーヘビー級の選手とも幅広く戦うことが出来た。
寝かせてしまえばこっちのもん、という彼の戦い方そのものが武器であったというわけだ。
同じイギリス出身でもダイナマイト・キッドとはずいぶん違う。
あっちはガンガン向かっていく突貫殺法だが、そのキッドでも根っこの部分にはイギリス式のねちっこいレスリングがキチンと備わっている。彼の自伝を読むと、しっかりとしたレスリングの出来ない選手がかなり
「お気に召さない」
ご様子なのが多分に伺える。

また同じく初代タイガーマスクのライバル・ブラックタイガーとしても有名であり、イギリスではお互いに素顔でしのぎを削っていたマーク・ロコという選手も居る。こちらもこちらであの黒い虎のマスクと非常にマッチしたねちっこいレスリングが持ち味だった。
タイガーマスクを飛ばせない、飛べないように戦うライトとブラックに対し、タイガーマスクをぶっ壊さんばかりに挑むキッド。
それぞれの魅力は違っても、この4人の戦いには奥深くねちっこいレスリングが存在した。
今見ても飽きない、面白いと感じるのは、やはりそこがホンモノだからだろう。

こういった技術、緩急のある試合運びは現在でも確実に受け継がれている。
昔話ばかりしてうるさいだけの昭和マニアは知らないのだ。

形を変え、姿を変えて受け継がれているレスリングにおけるスピリット。
あのクールな英国戦士、スティーブ・ライトの背中にも確かにそれを見た。
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