305 / 1,299
11月10日松山座 女子祭典観戦記第五幕
しおりを挟む
第五幕「今来柳ケ瀬之風」(いまきたる やながせのかぜ)
柳ケ瀬プロレスLadius様提供試合
シングルマッチ20分1本勝負
沙恵選手VS杏夏選手
この試合が凄まじかった。大抜擢の第五幕でのシングルマッチに登場、そのわけが全部分かった気がする。
名古屋ドリームガールズというプロレス団体があった。で、少し前に活動休止になってしまった。このご時世、数多の団体がそうやって生まれては何処かへ行ってしまった。何処にも行かずに消えてしまうようなこともあった。
ずっとプロレスを見続けていると、もう滅多なことでは新団体旗揚げと聞いても諸手を挙げて歓迎出来なくなってくる。大丈夫なの?どうするの?やっていけるの…?心配しているようで無責任な、無情な、冷たい言葉ばかりが頭をよぎる。
若い選手、これからの人生を、今しかない青春をプロレスに賭けようという人を見ると猶更だ。もっと大きな団体に入る、誰か有名な選手のところへ行くなど道はほかにも色々ある。
若い選手と、篤志のある方と、ついてきてくれるお客さん。
みんなに寂しい思いを、これ以上してほしくなんかない。
だけど、自分だってプロレスラーになりたかったじゃないか
18歳だった私が33歳になった私を睨んでそう言って地団駄を踏む。
確かにそうだ、でも、あの時だって大変だったろうし今だって変わらないよ。景気も悪いし…
そして名古屋ドリームガールズに所属していた沙恵選手と杏夏(こなつ)選手、そして練習生の歩夢さんは柳ケ瀬プロレス預かり、となり、のちに女子プロレスのブランドLadiusとして進んでゆくことになった。
ここまでわずか1年か2年のことである。細かく言うとREINA女子プロレスとのダブル所属だったのが、なんかその辺もよくわからないまま柳ケ瀬プロレス預かりってことになっていた。もう正直こんなややこしいだけならダブル所属とかいいだろ、って思うけどその辺にも何かと事情があるのかもしれない。まあ、やってる方がそれでいいなら構わないというかこっちの口出しすることじゃないんだろう。
けど、なんにせよ自分の会社がなくなって、またよそ様のお世話になることが決まって、そこで責任を負う立場になったら。私だったらまたケツまくってしまったかもしれない。
だからそこで踏ん張ってる彼女たちがとても眩しかった。
そしてこの日、柳ケ瀬からやってきた4人。
青コーナーの杏夏選手
赤コーナーの沙恵選手
セコンドの歩夢さん
レフェリーの戸川さん
それぞれの胸に秘めた思いを見せるべくゴングが鳴った。
この試合をひとことで言うなら
「こうするしかなかった」
のだと思う。
沙恵選手も若くキャリアは浅いが、杏夏選手は同年デビューとはいえブランクが合った分さらに一枚若い。
だから、この試合には序盤のコールの要求以外には
攻められてる時と、攻めさせられてる時
しか存在しなかった。
杏夏選手はとにかく攻め続けるしかなかった。
沙恵選手はとにかく受け続けるしかなかった。
こうするしかなかったんだ、と思った。
いま繰り出す技に動きも、名前も、見てくれも関係ない。
杏夏選手の動きが止まると沙恵選手が強烈な一発をお見舞いする。
高さのあるボディスラム、豪快なギロチンドロップ、そしてどっしりと腰を落とした逆エビ固め。
苦悶の表情で絶叫しロープを目指す杏夏選手。そうはさせまいと締め上げる沙恵選手。そしてその二人に、リング下から懸命に声を飛ばす練習生の歩夢さん。
杏夏選手は攻めて攻めて攻め続けた。飛び上がってのクロスボディ、そしてコーナーに詰めてのドロップキック、いま出来る技で飛んで飛んで飛び続けた。何度も、何度も挑んだ。それら全てを沙恵選手は受け止めて
もっと来い!
と叫んだ。どんなデスマッチより凄惨で、どんな遺恨試合よりも激情の渦巻く戦いだった。攻めてる杏夏選手の方もキツそうだった。沙恵選手だってものすごい数のドロップキックを食らっていた。
だけど最後は、正直攻めてた杏夏選手が力尽きたのだと思った。やるだけのことは、やり過ぎるほどやった。
そして沙恵選手はそこからすっくと立ちあがって、自慢の豪快ファイトで杏夏選手を沈めた。ロープに磔にしてキック。さらに助走をつけ、飛び上がって蹴飛ばした。そのスピードと体重の乗った一撃が杏夏選手に命中する直前の一瞬がカメラに写っていた。
杏夏選手は、沙恵選手から目を逸らさずにキっと前を向き、対戦相手を睨みつけたままだった。
そこに思いっきり直撃した。
そして最後は沙恵選手得意のスパークリングボムでピンフォール。
リング下から懸命に杏夏選手にゲキを飛ばしていた歩夢さんも駆け上がってきて介抱する。
ああ、この人たちは今物凄い青春の渦の中にいる
そう思えて、なんだかとても眩しかった。
なんとなく全力で生きることや、毎日を精一杯やることから距離を置くようになる。そういうひたむきさが訳もなく眩しくて煙たくなる時期がある。
創作やってて青臭いこと言ってる人を見て、なんかそれを直視できないでいるときの精神状態と似ている。何にしても若い、という言葉で片づけて自分のことをそこから外してしまう。自分で自分の若さから目を逸らしてしまうのだ。
深々と頭を下げて、引き上げていく二人。そして歩夢さんはとても素晴らしく真っすぐで、確かにお客さんたちの心を打ったと思う。
熱心なファンの人も応援に来ていたけれど、それ以外の人にも響いたと思う。
座長の慧眼おそるべし。
そして柳ケ瀬プロレスLadiusの皆さん、物凄い試合をありがとうございます。
柳ケ瀬プロレスLadius様提供試合
シングルマッチ20分1本勝負
沙恵選手VS杏夏選手
この試合が凄まじかった。大抜擢の第五幕でのシングルマッチに登場、そのわけが全部分かった気がする。
名古屋ドリームガールズというプロレス団体があった。で、少し前に活動休止になってしまった。このご時世、数多の団体がそうやって生まれては何処かへ行ってしまった。何処にも行かずに消えてしまうようなこともあった。
ずっとプロレスを見続けていると、もう滅多なことでは新団体旗揚げと聞いても諸手を挙げて歓迎出来なくなってくる。大丈夫なの?どうするの?やっていけるの…?心配しているようで無責任な、無情な、冷たい言葉ばかりが頭をよぎる。
若い選手、これからの人生を、今しかない青春をプロレスに賭けようという人を見ると猶更だ。もっと大きな団体に入る、誰か有名な選手のところへ行くなど道はほかにも色々ある。
若い選手と、篤志のある方と、ついてきてくれるお客さん。
みんなに寂しい思いを、これ以上してほしくなんかない。
だけど、自分だってプロレスラーになりたかったじゃないか
18歳だった私が33歳になった私を睨んでそう言って地団駄を踏む。
確かにそうだ、でも、あの時だって大変だったろうし今だって変わらないよ。景気も悪いし…
そして名古屋ドリームガールズに所属していた沙恵選手と杏夏(こなつ)選手、そして練習生の歩夢さんは柳ケ瀬プロレス預かり、となり、のちに女子プロレスのブランドLadiusとして進んでゆくことになった。
ここまでわずか1年か2年のことである。細かく言うとREINA女子プロレスとのダブル所属だったのが、なんかその辺もよくわからないまま柳ケ瀬プロレス預かりってことになっていた。もう正直こんなややこしいだけならダブル所属とかいいだろ、って思うけどその辺にも何かと事情があるのかもしれない。まあ、やってる方がそれでいいなら構わないというかこっちの口出しすることじゃないんだろう。
けど、なんにせよ自分の会社がなくなって、またよそ様のお世話になることが決まって、そこで責任を負う立場になったら。私だったらまたケツまくってしまったかもしれない。
だからそこで踏ん張ってる彼女たちがとても眩しかった。
そしてこの日、柳ケ瀬からやってきた4人。
青コーナーの杏夏選手
赤コーナーの沙恵選手
セコンドの歩夢さん
レフェリーの戸川さん
それぞれの胸に秘めた思いを見せるべくゴングが鳴った。
この試合をひとことで言うなら
「こうするしかなかった」
のだと思う。
沙恵選手も若くキャリアは浅いが、杏夏選手は同年デビューとはいえブランクが合った分さらに一枚若い。
だから、この試合には序盤のコールの要求以外には
攻められてる時と、攻めさせられてる時
しか存在しなかった。
杏夏選手はとにかく攻め続けるしかなかった。
沙恵選手はとにかく受け続けるしかなかった。
こうするしかなかったんだ、と思った。
いま繰り出す技に動きも、名前も、見てくれも関係ない。
杏夏選手の動きが止まると沙恵選手が強烈な一発をお見舞いする。
高さのあるボディスラム、豪快なギロチンドロップ、そしてどっしりと腰を落とした逆エビ固め。
苦悶の表情で絶叫しロープを目指す杏夏選手。そうはさせまいと締め上げる沙恵選手。そしてその二人に、リング下から懸命に声を飛ばす練習生の歩夢さん。
杏夏選手は攻めて攻めて攻め続けた。飛び上がってのクロスボディ、そしてコーナーに詰めてのドロップキック、いま出来る技で飛んで飛んで飛び続けた。何度も、何度も挑んだ。それら全てを沙恵選手は受け止めて
もっと来い!
と叫んだ。どんなデスマッチより凄惨で、どんな遺恨試合よりも激情の渦巻く戦いだった。攻めてる杏夏選手の方もキツそうだった。沙恵選手だってものすごい数のドロップキックを食らっていた。
だけど最後は、正直攻めてた杏夏選手が力尽きたのだと思った。やるだけのことは、やり過ぎるほどやった。
そして沙恵選手はそこからすっくと立ちあがって、自慢の豪快ファイトで杏夏選手を沈めた。ロープに磔にしてキック。さらに助走をつけ、飛び上がって蹴飛ばした。そのスピードと体重の乗った一撃が杏夏選手に命中する直前の一瞬がカメラに写っていた。
杏夏選手は、沙恵選手から目を逸らさずにキっと前を向き、対戦相手を睨みつけたままだった。
そこに思いっきり直撃した。
そして最後は沙恵選手得意のスパークリングボムでピンフォール。
リング下から懸命に杏夏選手にゲキを飛ばしていた歩夢さんも駆け上がってきて介抱する。
ああ、この人たちは今物凄い青春の渦の中にいる
そう思えて、なんだかとても眩しかった。
なんとなく全力で生きることや、毎日を精一杯やることから距離を置くようになる。そういうひたむきさが訳もなく眩しくて煙たくなる時期がある。
創作やってて青臭いこと言ってる人を見て、なんかそれを直視できないでいるときの精神状態と似ている。何にしても若い、という言葉で片づけて自分のことをそこから外してしまう。自分で自分の若さから目を逸らしてしまうのだ。
深々と頭を下げて、引き上げていく二人。そして歩夢さんはとても素晴らしく真っすぐで、確かにお客さんたちの心を打ったと思う。
熱心なファンの人も応援に来ていたけれど、それ以外の人にも響いたと思う。
座長の慧眼おそるべし。
そして柳ケ瀬プロレスLadiusの皆さん、物凄い試合をありがとうございます。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる