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第224回。おばあちゃんカード

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掲載日2017年 09月16日 01時00分

私はおばあちゃん子だ。おじいちゃん子でもある。
横浜。丘の上にあるおしゃれなデカい家にひいばあちゃんが住んでた。
彼女との別れが私と横浜との別れでもあった。

そうして豊橋にやって来て、2組いた祖父母も、いまはおじいちゃんが1人だけになってしまった。
このおじいちゃんが凄くて、その昔、トラックに挟まれて肋骨を殆ど骨折する大怪我で生死の境をさ迷ったことがあるという。三途の川とかお花畑とか、おかしな夢をいっぱい見たそうだ。その夢に関しては別にまたお話するとして。

それ以外のおばあちゃん・おじいちゃんも強烈な人だった。
特に母方のおばあちゃん、ノリコは凄かった。
豪快で、怒る時は怒髪衝天の勢いで大激怒するが、機嫌がいいときは喫茶店にいるお客みんなの勘定を払ってしまったり、パチンコで物凄い大勝ちしたかと思えば倍以上大負けしたり。
糖尿で心筋梗塞で脳梗塞で、おまけに昔交通事故で思いっきりはねられたにもかかわらずピンピンしてて、家まで歩いて帰ってきたという伝説の、その後遺症で晩年は足腰が不自由になってしまった。それでも杖をついたり、あのおばあちゃんに付き物の小さなコロコロ車を押して歩いては、当時我が家の近所で長年営業していた深夜ラーメンのお店に行ったり。

夜23時ごろに、急に階下からコソコソ呼ぶ声がする。
「…オイ!オイ和哉!(キッドさんの本名)」
「なーにー?」
「ラーメンが食べたい」
それで不自由な体と不健康な内蔵もお構いなしにラーメンを食いに行く。
青ネギが死ぬほど嫌いで、顔なじみの店だがバイトが新入りだったりするとネギが入ってしまう。そういう時はものすげえ怒るが、怒りながら器用に、どんなに小さなネギも見逃さずに箸でつまんで私の丼に放り込んでくる。

これまた近所に出来たブロンコビリーのステーキも好きで、チラシが入ると必ず食べに行っていた。
おじいちゃんは物静かで小食な人だったので、一緒についてきて(というかおじいちゃんが運転してくれてた)一番小さなステーキのセットを頼み、ステーキとパンは私にくれて、自分はおかわり自由のコーンスープを
「わしゃあコレが一番好き」
と美味そうにすすっていた。

性格とか食事の好みは真逆のカップルの方がうまくいく、という生きた見本だった。おじいちゃんはおじいちゃんで、晩年は本当に細くて、物静かで、元高校教師でカメラと車が趣味。その昔は大型バイクも乗り回していたし、日本全国走ったことのない主要な国道は無いんじゃないかってぐらい何処にでも出かけていく人だった。行動力と経済力のある人が理知的な性格だとこうなる、という、素晴らしい老紳士だったと私は思うし、もうちょっとこのおじいちゃんに似ても良かったんじゃねえのってぐらい一緒にいる時間が長かった。それは幸せな事だった。とても。

でね。
こういう、いい思い出やいい味のあるおじいちゃん・おばあちゃんってカードにしたら面白いと思うんだよ。
もちろん、世の中いいジジババばかりじゃない。
まさに老害と呼ぶにふさわしい連中も少なくないわけで。
それは有名人に限らず、あなたの身内だったり、会社のジジイババアだったり。

だからまあ考えるとキリないんだけど、そうじゃなくて、こう、いい味出してる人っているじゃん。椎名誠さんが漁村で撮った写真みたいな。
でも、あれだってホンモノ過ぎるから、もっとこう、駅で自動改札に向かって
「あのー、東神奈川まで!」
って何度も言ってたおばあちゃんとか、平成の初め頃までギリギリ居た感じの。今でもデジタル非対応のおじいちゃん、おばあちゃんは真面目ゆえに突飛なことするしな。

そういうの集めてえなー。
それで自分も万が一長生きして70や80になったときに、どんなジジイになりてえか考えておくのもいい。

私は、近所のガキを集めてすぐ嘘を教えるジジイがいい。
ワシはな、昔はドイツでウィンナーをソーセージにする仕事をしとったんじゃよ。
とか
ウチの庭の井戸はブラジルに繋がってる
みたいな可愛いやつから、あとあとその場に居合わせたガキが陰謀論に目覚めて中二を真っ赤に煮込んだような人生を歩みかねないやつとか。
うまい具合の、いい塩梅の、信じちゃってあとで怒られるような面白い嘘ばっか言う。そういうポンコツジジイになりてえなー。どうせジジイになるならね。
んで誰にも相手されなくて、とうとう一人になった朝にぽっくり死んでてやりてえな。

ジジイって意外と楽しいのかもな。
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