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第181回。水道橋博士の異常な感情
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掲載日2017年 08月04日 01時00分
浅草キッドのお二人の著書
「キッドのもと」
を読み終わった。読んでる最中からちょこちょこツイッターで感想をこぼしたら、水道橋博士さんが拾って下さって嬉しいやら驚くやら。
86年生まれの私は「たけし軍団」と言われると、スーパージョッキーで日曜の昼間にやってた熱湯コマーシャルの印象と、あとは普通にクイズ番組やバラエティに出ていた感じ。体を張った芸もあったけど、ラッシャー板前さんやガナルカナル・タカさんなど、もうその次の段階に進んでいた人も多い気がする。井出らっきょさんはしょっちゅう裸になってたけど…。
浅草キッドさんは随分若いイメージのままだったけど、もう芸人としては重鎮と言える位置づけに居るんだな。伊集院さんと同年代というからそりゃそうか。
元々プロレスマニアの有名人の筆頭格で、カラっとして豪快な玉袋筋太郎さんのことは結構好きだった。
正直、水道橋博士はとっつきにくかった。名前からしてプロレスマニア!って感じ(格闘技の殿堂こと後楽園ホールも、多数のプロレスショップがひしめくのも東京は水道橋だから)でわかりやすいのだけれど、どこか影がある。
その影の正体が、この「キッドのもと」で明らかになった。
旧家で育ち、のどかな自然とおだやかな田舎町のいいところもそれ以外も全身で吸収した結果の屈折。
多かれ少なかれ、ネットでアマチュアの文学なんかやってると曲がった育ちの人が多い。
親がバカたれだったり(ウチもコレ)兄弟や縁者との不仲などなど枚挙にいとまがない。
だけど、ここでもやっぱりプロはプロ。
そんじょそこらの「闇深さ」では到底追いつけない。
別に闇が深けりゃえらいというわけじゃないけどね。
闇の深さや病みの長さ、厄介な自分を競い合うように自分で語り出すことほどダサいことはない。
このように先ず名を成して、そこからっていうなら話は別だと思うけど。
私の好きな椎名誠さんも、犬の系譜でご自分のことを書いている。
あの薄ら暗さ、千葉ののどかな海を見ながら曲がって行く過程は博士の文章と近いものを感じる。
玉袋筋太郎さんと交互に同じテーマを掘り下げていくという変則タッグマッチのこの本。
育ちも語り口調も正反対。
タマさんは、やっぱり「オレたちのタマさん」って感じ。
ざっくばらんで、酒を飲みながら話してくれているような。こういう先輩がいる会社っていいだろうなと思う。
博士は古い喫茶店の片隅でボソボソとオタク同士で語り合っているような感じ。
2行に1回は出てくる文学ギャグ、名作・名フレーズ・名場面に絡めた描写のオンパレードはまさに文学オタクのそれだ。根暗な古舘伊知郎さんが自らの暗い過去をマシンガン実況をしているような。ひとつひとつの事柄が深くしっかりと掘り下げられているにもかかわらず、その文学ネタで中和されて読みやすくなっている。そうそう!それ知ってる!!と言いたくてまたすぐ次を読んでしまう。たまに笑点を見ていて木久扇師匠の答えがわかっちゃって、舞台に向かって「屋(や)ー根(ね)ー!」と叫ぶバアさんがいるけど、あんな感じ。暗くて陰惨なんだけどしっかり参加している気分になる。
大体、根暗で鬱々と自分語りをする奴なんて周囲どころか自分のことも見えてないし、ただただ自分が気が済むまで自虐と慰めを乞うことの繰り返し。博士のそれは、そんじょそこらの根暗とどこがどう違うのか…。やっぱり「たけし軍団」という通過儀礼にしては物凄い世界を潜り抜けて、大人になったことなんだと思う。私は闘龍門メキシコという通過儀礼をバッくれてしまったので、大人になることから逃げた。その後ぜーんぜんお客さんの居ないライブハウスで歌ったりベースを弾いたり詞を書いたりもしたけどそれも続かなかった。
落語をドロップアウトし、高校もやめてしまった話をするときの伊集院さんに共鳴する部分がここで、水道橋博士が大人になれたんだなと思ったのもここだった。伊集院さんはその後ラジオで自己を確立したのだと思う。
自己を確立するということは、周囲から賞賛も批判も様々に受けるということになる。
そのための努力も猛烈なものになる。
31歳にもなって未だにアマチュアで、ここで物書きごっこをやっている自分には眩しい世界。
私が生まれた86年には、浅草キッドのお二人も伊集院さんもデビューしている。
ずっと何してる人なのかも知らずに名前だけ知ってた伊集院光という男にここまで心酔すると同時に、浅草キッドという漢(おとこ)2人に改めて畏敬の念を抱くには遅すぎただろうか。
生まれと育ちの話から始まり、芸人の世界へ。
そして最後は家族の話に還ってくる。
自らの授かった家族と、生まれ育った家族がリンクする。
一冊の本としてとてもいい物語であり、一人の男としてとてもかっこいい。
そんなふたりの本。キッドのもと。
面白かったです。水道橋博士さんの博識ぶり、緻密ぶりと、タマさんの豪快でざっくばらんな明るさ。
コンビっていいな、男っていいな、戦う元気とちょっぴり後ろめたい面白さ。
そんな感覚を授かります。
浅草キッドのお二人の著書
「キッドのもと」
を読み終わった。読んでる最中からちょこちょこツイッターで感想をこぼしたら、水道橋博士さんが拾って下さって嬉しいやら驚くやら。
86年生まれの私は「たけし軍団」と言われると、スーパージョッキーで日曜の昼間にやってた熱湯コマーシャルの印象と、あとは普通にクイズ番組やバラエティに出ていた感じ。体を張った芸もあったけど、ラッシャー板前さんやガナルカナル・タカさんなど、もうその次の段階に進んでいた人も多い気がする。井出らっきょさんはしょっちゅう裸になってたけど…。
浅草キッドさんは随分若いイメージのままだったけど、もう芸人としては重鎮と言える位置づけに居るんだな。伊集院さんと同年代というからそりゃそうか。
元々プロレスマニアの有名人の筆頭格で、カラっとして豪快な玉袋筋太郎さんのことは結構好きだった。
正直、水道橋博士はとっつきにくかった。名前からしてプロレスマニア!って感じ(格闘技の殿堂こと後楽園ホールも、多数のプロレスショップがひしめくのも東京は水道橋だから)でわかりやすいのだけれど、どこか影がある。
その影の正体が、この「キッドのもと」で明らかになった。
旧家で育ち、のどかな自然とおだやかな田舎町のいいところもそれ以外も全身で吸収した結果の屈折。
多かれ少なかれ、ネットでアマチュアの文学なんかやってると曲がった育ちの人が多い。
親がバカたれだったり(ウチもコレ)兄弟や縁者との不仲などなど枚挙にいとまがない。
だけど、ここでもやっぱりプロはプロ。
そんじょそこらの「闇深さ」では到底追いつけない。
別に闇が深けりゃえらいというわけじゃないけどね。
闇の深さや病みの長さ、厄介な自分を競い合うように自分で語り出すことほどダサいことはない。
このように先ず名を成して、そこからっていうなら話は別だと思うけど。
私の好きな椎名誠さんも、犬の系譜でご自分のことを書いている。
あの薄ら暗さ、千葉ののどかな海を見ながら曲がって行く過程は博士の文章と近いものを感じる。
玉袋筋太郎さんと交互に同じテーマを掘り下げていくという変則タッグマッチのこの本。
育ちも語り口調も正反対。
タマさんは、やっぱり「オレたちのタマさん」って感じ。
ざっくばらんで、酒を飲みながら話してくれているような。こういう先輩がいる会社っていいだろうなと思う。
博士は古い喫茶店の片隅でボソボソとオタク同士で語り合っているような感じ。
2行に1回は出てくる文学ギャグ、名作・名フレーズ・名場面に絡めた描写のオンパレードはまさに文学オタクのそれだ。根暗な古舘伊知郎さんが自らの暗い過去をマシンガン実況をしているような。ひとつひとつの事柄が深くしっかりと掘り下げられているにもかかわらず、その文学ネタで中和されて読みやすくなっている。そうそう!それ知ってる!!と言いたくてまたすぐ次を読んでしまう。たまに笑点を見ていて木久扇師匠の答えがわかっちゃって、舞台に向かって「屋(や)ー根(ね)ー!」と叫ぶバアさんがいるけど、あんな感じ。暗くて陰惨なんだけどしっかり参加している気分になる。
大体、根暗で鬱々と自分語りをする奴なんて周囲どころか自分のことも見えてないし、ただただ自分が気が済むまで自虐と慰めを乞うことの繰り返し。博士のそれは、そんじょそこらの根暗とどこがどう違うのか…。やっぱり「たけし軍団」という通過儀礼にしては物凄い世界を潜り抜けて、大人になったことなんだと思う。私は闘龍門メキシコという通過儀礼をバッくれてしまったので、大人になることから逃げた。その後ぜーんぜんお客さんの居ないライブハウスで歌ったりベースを弾いたり詞を書いたりもしたけどそれも続かなかった。
落語をドロップアウトし、高校もやめてしまった話をするときの伊集院さんに共鳴する部分がここで、水道橋博士が大人になれたんだなと思ったのもここだった。伊集院さんはその後ラジオで自己を確立したのだと思う。
自己を確立するということは、周囲から賞賛も批判も様々に受けるということになる。
そのための努力も猛烈なものになる。
31歳にもなって未だにアマチュアで、ここで物書きごっこをやっている自分には眩しい世界。
私が生まれた86年には、浅草キッドのお二人も伊集院さんもデビューしている。
ずっと何してる人なのかも知らずに名前だけ知ってた伊集院光という男にここまで心酔すると同時に、浅草キッドという漢(おとこ)2人に改めて畏敬の念を抱くには遅すぎただろうか。
生まれと育ちの話から始まり、芸人の世界へ。
そして最後は家族の話に還ってくる。
自らの授かった家族と、生まれ育った家族がリンクする。
一冊の本としてとてもいい物語であり、一人の男としてとてもかっこいい。
そんなふたりの本。キッドのもと。
面白かったです。水道橋博士さんの博識ぶり、緻密ぶりと、タマさんの豪快でざっくばらんな明るさ。
コンビっていいな、男っていいな、戦う元気とちょっぴり後ろめたい面白さ。
そんな感覚を授かります。
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