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第35回。婆ちゃんの帰宅。

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掲載日2017年 03月12日 08時00分

6月の初めごろ、夢を見た。
近所の県営住宅の404号室。
私の爺ちゃん・婆ちゃん・伯父さんの住んでた家だ。
老朽化の為近々取り壊されることになっており、もう他に団地全体で入居している人は2~3人だという。
A棟からE棟まで用水路の上に建てられた細長い団地で、1階と2階は店舗になっている。細長く両側に間口の開いた商店街・問屋街でもあるわけだ。

そのB棟の404号室に爺ちゃん家があった。
我が家から徒歩5分で、歩道橋を渡れば信号も無く行き着くとあって、しょっちゅう遊びに行っていた。良い思い出も、死ぬほど辛い事もあったこの団地。

大変に思い出深い場所だ。
爺ちゃんたちがこの街へ越してきてから40年近く住んでいたという。
風呂も古いし階段は急だし、部屋も狭い。70を過ぎたお爺ちゃんには辛かったと思う。けど、やっぱり住み慣れた空間と馴染んだ景色は、どんな場所であっても思い入れがあるだろう。

爺ちゃんと伯父さんが、すぐ近くの真新しい県営住宅に引っ越したのは6月末。
そう、爺ちゃんと伯父さんだけ。
婆ちゃんは2年前の夏に亡くなっていた。看病を続けたけど、病気がちでついに力尽きた感じだった。

で、だ。
その引っ越しが2日後に迫ったある日。
気が付くとその爺ちゃん家の部屋に居た。よくやっていたように、畳の上に寝転んで、玄関先を見ていた。玄関を上がって左手にトイレがあって、その扉を超すと冷蔵庫が置いてあって、襖を開けると和室。その和室の窓際にごろっと寝転ぶのがいつもの姿勢だった。

で、寝転びながら襖を開けた先に玄関があって。
がちゃっ!と重たい鉄の扉が開く音がして、ひょっこりと顔を出した婆ちゃん。
「いやー遅くなった!」
まだ元気だったころの、お気に入りの黒いワンピースを着た婆ちゃんが不意に帰ってきたのだ。

私は号泣してしまい、目が開かなくなってそのまま起きた。
久しぶりに大泣きした。
色々忙しく、疲れもたまっていたのだろう。
それに加えて取り壊しに伴う引越しの前に、様子を見に帰ってきたのかも知れない。
お盆のころには引っ越しちゃってるし。

今でもお墓参りに行って墓前で瞑目・合掌をすると元気な婆ちゃんの笑顔が浮かんでくる。少しだけ話が出来る気がして、ついお参りが長くなって息子に笑われてしまう。

真新しい県営住宅も、私が爺さんになるころには古びて壊されるのかも知れない。
その頃私の縁者がそこに住んでいるとも思わないけど、もし壊されることになったら、また懐かしい夢を見るのかも知れない。
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