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つれ込み君(隣人カップルとポッチャリした私)
つれ込み君(隣人カップルとポッチャリした私)1.
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1.
いらっしゃいませえー、いらっしゃいませえ。本日もご来店まことにありがとうございまあす。当店オススメ、オリジナル弁当、ただいま、出来立てと、なっておりまあす……。
単調で気の抜けたような電子音に乗せて、これまた間延びした声で録音された呼び込み用の音声が流れている。四六時中、何処かに設置したスピーカーで流しっぱなしになっているから、実際のオリジナル弁当は大抵の場合すっかり冷めていて、それでもまあ値段の割にコスパがいいんで自炊が面倒な時はこれで済ませてしまうことが多い。
つまり、今日もそんな気分で買い物に来た。
人手不足に繫忙期の終わりかけも重なって、駆け込みの注文や意味不明のクレーム、迷惑な客(買い物もしないんだから客とも言い難い)は増えるわ、それでも近隣店舗から応援は来ないわ、そもそも店長が過労で心身を壊しているわで。
ここ数年ずっと、始終ぐったりとしながら過ごしていた。
半年前に、大学時代の後輩の紹介で知り合った男と別れてからは彼氏もいない。
決まった相手がいるというのは、その時は楽しく幸せだし有難いけど、私が忙しくて相手にしてもらえないとか、その引っ込み思案な性格が合わないだとか、色んな理由を付けて結局みんな去ってゆく。だから、もう当分、彼氏なんかいらんわい! と思って、また少しすると寂しくなってくる。心も、カラダも。
ぽぽぽぺぽー、ぽぽぽぺぽー……
ぽぽーぺぺぽぺ、ぽぽーぺぺぽぺ……
全部「p」から始まる音だけが、お客もまばらな閉店間際の量販店に鳴り響く。レジも2つしか開いてない。2階の衣料品・生活雑貨・日用品コーナーは閉店時間でエスカレーターにも黄色いプラスチック製のチェーンが掛けられているし、1階もフードコートや書店、100円ショップなんかは明かりを落としている。
(こんな時間まで働いて、モソモソ晩ごはん済ませて寝て、また明日も朝早くから仕事かあ)
こんな時間まで働いている売り場の人たちも心なしか疲れて見える。精肉コーナーを折れてお総菜コーナーに向かうと、さっきの安っぽい呼び込みがいちだんとうるさく耳に入り込んで来る。ぼうっとしたまま何となく、売れ残ったお弁当やおかずを選んでいると、向かい側の島からも近づいてくる人が居た。
「あーやっぱり全然なあーい」
鼻にかかった幼い声をタバコと酒で燻しました、といった感じの、甘く褪せた声が飛んでくる。それを受け止めるように
「だから、もうちょい早く出ようって言ったのにい」
とボソッとした声が答える。二人連れ、それもカップルかい。いいなあ、お前らはそんな感じで……。
幸せそうなカップルを見ても愚痴しか出ない自分が嫌になりそうで、見るともなしに顔を上げた。3割引きシールの貼られたカキフライのパック越しに見たカップルの片割れの男……どっかで見たことがある。
でも知り合いや、まして友達でもないし。誰だろ。
女の子の方は、男よりちょっと若くて、カラダつきも身なりも何だか派手だ。
真っピンクの髪の毛をボブにして、耳や眉間、鼻にまでバチボコにピアスが開いている。それに薄手のカーディガンの袖やシャツの首元からは色んな模様も見え隠れしていて……それがまた瑞々しくむっちりした肉感的な体型に不思議とよく似合ってる。
若さの塊って感じ。それが田舎町の量販店のお総菜コーナーで仲睦まじく、夜食なのか遅い夕飯なのかアレコレ選んでいる。
そうして男の方は適当にカレーと唐揚げを。女の子は悩んだ末に、私が取ろうと思っていた天津丼のラスイチをひょいと取って、春雨サラダといっしょにカゴに入れて去っていった。
あーあ。天津丼、取られちゃったな。
結局それでお惣菜を買う気も失せてしまって、辛いカップ麺と朝食用のパン、それと洗濯バサミの予備を買って帰った。
いつもの量販店から自宅のある小さなアパートまでクルマで20分ほど。職場と家の間にあるので便利だが、朝夕は憎たらしいくらいに混み合う県道が空っぽになったような時間に走っているとやっぱりモノ寂しくて、FMラジオの雑でつまらない喋りが猶更つまらなく感じて来る。
(さっきのカップル、いいなあ)
総菜コーナーでほんの一瞬、すれ違った二人連れのことを、ふと思い出した。いや、さっきからずっと頭の隅っこであの二人が手を繋いで、買い物カゴを持ってウロウロウロウロしているのだ。
アパートの駐車場にクルマを停めて、俯きながら階段を昇る。カンコンと沈んだ音が湿った鉄板から響いてきて、ああ雨が降ってたんだっけと思い出す。
隣の角部屋にはあったかそうな電気が点いてて、薄い壁やドアの向こうから楽しそうな声も聞こえる。自分だけが今日もひとりぼっちで、寂しい人生を送っている。そんな気がしてしまうのは、寒くなって来たからか、仕事ばかりで疲れているのか、なんだか寂しい夜を送っているからか……。
カギを開けてドアを引く。ただいま、を言うでもなく小さな玄関で靴を脱いで部屋に上がる。曇りガラスの嵌った引き戸を開けて、居間の灯りをつける。上着とカバンをテレビのそばにまるめてまとめて放り投げて、そのまま振り返ってキッチンテーブルにパンを置いて、お風呂に向かう。本当は湯船に漬かりたいけど、疲れてしまったし今日もシャワーで済ませよう……。
買ったばかりの洗濯バサミが袋の中でガサガサいってるけど、もう面倒くさくなってしまったので下駄箱の上に袋のままガサっと置いた。
洗濯機が存在感を放つ脱衣所で髪の毛をほどき、ストライプのワイシャツのボタンを外して脱ぐ。膝丈のスカートを脱ごうと体をかがめたら、お尻が洗濯機にドーンと当たる。いつものこと。
お気に入りのバンTを脱ぐときに、ちょっと気になって嗅いでみた腋が、暖房の効いた職場や買い物中で汗ばんだせいで軽くつんと薫る。自分の匂いだけど、何故だかあんまり嫌じゃない……でも何度か嗅いでいると汗が冷えて来て、自分も少し肌が冷えているのに気づいた。だけど、もっと気になるのがストッキングと……。
鏡の中の自分が、とろけそうな脇腹やお腹、胸のお肉を揺らしながら背中に手を回しブラを外している。ぽつっと音がして、深いブルーのブラが外れる。また少しきつくなったかな……と鏡の前でカラダをねじったり、胸を持ち上げてみたりしてみる。
今日も私の乳は重い。
いらっしゃいませえー、いらっしゃいませえ。本日もご来店まことにありがとうございまあす。当店オススメ、オリジナル弁当、ただいま、出来立てと、なっておりまあす……。
単調で気の抜けたような電子音に乗せて、これまた間延びした声で録音された呼び込み用の音声が流れている。四六時中、何処かに設置したスピーカーで流しっぱなしになっているから、実際のオリジナル弁当は大抵の場合すっかり冷めていて、それでもまあ値段の割にコスパがいいんで自炊が面倒な時はこれで済ませてしまうことが多い。
つまり、今日もそんな気分で買い物に来た。
人手不足に繫忙期の終わりかけも重なって、駆け込みの注文や意味不明のクレーム、迷惑な客(買い物もしないんだから客とも言い難い)は増えるわ、それでも近隣店舗から応援は来ないわ、そもそも店長が過労で心身を壊しているわで。
ここ数年ずっと、始終ぐったりとしながら過ごしていた。
半年前に、大学時代の後輩の紹介で知り合った男と別れてからは彼氏もいない。
決まった相手がいるというのは、その時は楽しく幸せだし有難いけど、私が忙しくて相手にしてもらえないとか、その引っ込み思案な性格が合わないだとか、色んな理由を付けて結局みんな去ってゆく。だから、もう当分、彼氏なんかいらんわい! と思って、また少しすると寂しくなってくる。心も、カラダも。
ぽぽぽぺぽー、ぽぽぽぺぽー……
ぽぽーぺぺぽぺ、ぽぽーぺぺぽぺ……
全部「p」から始まる音だけが、お客もまばらな閉店間際の量販店に鳴り響く。レジも2つしか開いてない。2階の衣料品・生活雑貨・日用品コーナーは閉店時間でエスカレーターにも黄色いプラスチック製のチェーンが掛けられているし、1階もフードコートや書店、100円ショップなんかは明かりを落としている。
(こんな時間まで働いて、モソモソ晩ごはん済ませて寝て、また明日も朝早くから仕事かあ)
こんな時間まで働いている売り場の人たちも心なしか疲れて見える。精肉コーナーを折れてお総菜コーナーに向かうと、さっきの安っぽい呼び込みがいちだんとうるさく耳に入り込んで来る。ぼうっとしたまま何となく、売れ残ったお弁当やおかずを選んでいると、向かい側の島からも近づいてくる人が居た。
「あーやっぱり全然なあーい」
鼻にかかった幼い声をタバコと酒で燻しました、といった感じの、甘く褪せた声が飛んでくる。それを受け止めるように
「だから、もうちょい早く出ようって言ったのにい」
とボソッとした声が答える。二人連れ、それもカップルかい。いいなあ、お前らはそんな感じで……。
幸せそうなカップルを見ても愚痴しか出ない自分が嫌になりそうで、見るともなしに顔を上げた。3割引きシールの貼られたカキフライのパック越しに見たカップルの片割れの男……どっかで見たことがある。
でも知り合いや、まして友達でもないし。誰だろ。
女の子の方は、男よりちょっと若くて、カラダつきも身なりも何だか派手だ。
真っピンクの髪の毛をボブにして、耳や眉間、鼻にまでバチボコにピアスが開いている。それに薄手のカーディガンの袖やシャツの首元からは色んな模様も見え隠れしていて……それがまた瑞々しくむっちりした肉感的な体型に不思議とよく似合ってる。
若さの塊って感じ。それが田舎町の量販店のお総菜コーナーで仲睦まじく、夜食なのか遅い夕飯なのかアレコレ選んでいる。
そうして男の方は適当にカレーと唐揚げを。女の子は悩んだ末に、私が取ろうと思っていた天津丼のラスイチをひょいと取って、春雨サラダといっしょにカゴに入れて去っていった。
あーあ。天津丼、取られちゃったな。
結局それでお惣菜を買う気も失せてしまって、辛いカップ麺と朝食用のパン、それと洗濯バサミの予備を買って帰った。
いつもの量販店から自宅のある小さなアパートまでクルマで20分ほど。職場と家の間にあるので便利だが、朝夕は憎たらしいくらいに混み合う県道が空っぽになったような時間に走っているとやっぱりモノ寂しくて、FMラジオの雑でつまらない喋りが猶更つまらなく感じて来る。
(さっきのカップル、いいなあ)
総菜コーナーでほんの一瞬、すれ違った二人連れのことを、ふと思い出した。いや、さっきからずっと頭の隅っこであの二人が手を繋いで、買い物カゴを持ってウロウロウロウロしているのだ。
アパートの駐車場にクルマを停めて、俯きながら階段を昇る。カンコンと沈んだ音が湿った鉄板から響いてきて、ああ雨が降ってたんだっけと思い出す。
隣の角部屋にはあったかそうな電気が点いてて、薄い壁やドアの向こうから楽しそうな声も聞こえる。自分だけが今日もひとりぼっちで、寂しい人生を送っている。そんな気がしてしまうのは、寒くなって来たからか、仕事ばかりで疲れているのか、なんだか寂しい夜を送っているからか……。
カギを開けてドアを引く。ただいま、を言うでもなく小さな玄関で靴を脱いで部屋に上がる。曇りガラスの嵌った引き戸を開けて、居間の灯りをつける。上着とカバンをテレビのそばにまるめてまとめて放り投げて、そのまま振り返ってキッチンテーブルにパンを置いて、お風呂に向かう。本当は湯船に漬かりたいけど、疲れてしまったし今日もシャワーで済ませよう……。
買ったばかりの洗濯バサミが袋の中でガサガサいってるけど、もう面倒くさくなってしまったので下駄箱の上に袋のままガサっと置いた。
洗濯機が存在感を放つ脱衣所で髪の毛をほどき、ストライプのワイシャツのボタンを外して脱ぐ。膝丈のスカートを脱ごうと体をかがめたら、お尻が洗濯機にドーンと当たる。いつものこと。
お気に入りのバンTを脱ぐときに、ちょっと気になって嗅いでみた腋が、暖房の効いた職場や買い物中で汗ばんだせいで軽くつんと薫る。自分の匂いだけど、何故だかあんまり嫌じゃない……でも何度か嗅いでいると汗が冷えて来て、自分も少し肌が冷えているのに気づいた。だけど、もっと気になるのがストッキングと……。
鏡の中の自分が、とろけそうな脇腹やお腹、胸のお肉を揺らしながら背中に手を回しブラを外している。ぽつっと音がして、深いブルーのブラが外れる。また少しきつくなったかな……と鏡の前でカラダをねじったり、胸を持ち上げてみたりしてみる。
今日も私の乳は重い。
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自他の経験(他、の場合は許可を頂いて書いております)も交えながら書いております。知らない世界、知らないプレイ、ヒトの数だけある世界ですもんね
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