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40Fortune
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しゅる、とシーツが素肌でこすれる音がした。
「痛くなかった?」
ふう、と息をつきながら手を伸ばして、ダイヤル式の明かりを点けながら彼女に尋ねた。
「ううん、大丈夫」
彼女はまだ少し上ずった声で答えた。天井のライトが一気に明るさを増して、乱れ切ったベッドに横たわる彼女の姿があらわになった。
「大丈夫なだけ?」
「……気持ちよかった」
一瞬の躊躇のち、彼女は俯いてそう答えた。さっきより赤くなった顔が可愛くて、顎のあたりを指で引っ掛けて顔を持ち上げた。ふわり、と鼻をかすめた彼女の吐息は塩辛いにおいがした。それは僕と彼女が混じり合った、濃密な愛のにおい。今しがた冷静になったばかりの僕には少し刺激が強かったけど、それでもやっぱり彼女がいとおしくて、そっとキスをしてベッドから立ち上がった。
「ありがとう」
「えっ」
彼女は上半身を起こして、恥ずかしそうにつぶやいた。そのお礼の言葉の意味が分からず、僕の返事は空を切った。
「もらってくれて。はじめてを」
はじめて、とは、つまり。
「ありがとう。捧げてくれて。はじめてを」
僕はそう言って振り向いて、彼女をもう一度抱きしめた。
「また会ってくれる?」
「もちろんだよ」
僕の肩越しにこぼれた声が少し震えていて、熱い雫がぽたぽたと首筋にこぼれてきたのが感じられた。しゃくりあげる吐息が相変わらず生臭い。だけど、それがかえって僕の腹の奥をぐっと熱くさせた。
「智奈美、愛してるよ」
急に名前を呼ばれた彼女が少し驚いて体をきゅっと固くした。
「達哉君、ありがとう……」
もう一度、しっかりを舌を絡ませてディープキス。彼女の口の中の僕と、僕の口の中の彼女も唾液に溶けて混じり合う。そのままベッドに倒れ込んで、体をまさぐり合う。少し垂れた大きめの胸と、子供を産んでから戻らなくて、と恥ずかしがるお腹。ふさふさと生い茂った腋毛に指を差し込んで弄ぶ。白くきめ細かい素肌は40歳を迎えてもなおしっとりとして柔らかな肌触りがした。そのまま指を滑らせて、乳首に吸い付きながら彼女の股間をそっとなぞる。潤滑油のような指ざわりですでに受け入れ準備は整っている。さっきはお預けを食らっただけに、なおさら物欲しげに思えてくる。
「今度はどっちがいい?」
わざと、そう尋ねてみる。僕の顔を自分の胸にぎゅうと押し付けながら、蚊の鳴くような声で彼女は答えた。
「いいよ、達哉君の好きな方で」
「お尻、壊れちゃうかもよ?」
「いいよ、達哉君の好きに……壊して」
40歳の初めてを捧げてくれたばかりの彼女は健気にもそう言って再び顔を赤らめた。僕は彼女の胸から顔を離して、両足を持ち上げてその間に入った。彼女の肛門から、さっき出したばかりの僕の精液がじわりと漏れて出ていた。それをそのまま滑らせて、僕は彼女のお尻の中にごく当たり前のように入っていった。素肌より少し熱い体温が僕を包む。仰向けの彼女の体は確かに少し崩れてきている。だけど大人しそうで地味な顔たちをした彼女のイメージとは打って変わって、どんなことを言っても従順で積極的だった。今だってそうだ。40年間守り通したもう一つの純潔を捧げることにも躊躇いこそあったものの拒まれることはなかった。両足を大きく開いて僕を受け入れて、顔をゆがめながら悶えている。体がなんだ、年齢がなんだ、経産婦だからなんだ、バツイチだからなんだ。一つになってしまえば関係ない。僕は彼女の上に覆いかぶさって、両手でがっちりと彼女の頭を抱きしめて強く腰を押し付けた。お尻の奥までぐっと入り込んで、その温かさと滑らかな感触が頭の先までじんじん伝わってくるのを楽しんだ。またしてもお預けを食らった彼女のあそこがぽっかりと開いて、消しそびれたライトに照らされて少しだけてらてら光った。多くもなく少なくもないヘアーを指で撫でて、そのまま指で触ってみる。ぴくりと彼女が反応するたびに、お尻の中もぎゅっと動いた。彼女の顔も刻々と変わって、ぎゅっと目を閉じたかと思えば大きく口を開けて切なげな声を上げて。また苦しそうな顔をしている。2回目だし、少し痛かったかもしれない。僕は彼女の頬に両手を乗せて
「痛くない?」
と聞いた。そりゃあ彼女は
「うん、大丈夫」
っていうよな。言わせてるんだ、僕が。ゆっくりと動きを止めて、彼女の肛門からそっと引き抜いた。血も何もついていなかったけど、彼女は少しほっとしたような顔をした。
「いいの? ごめんね」
荒い息とともに絞り出した彼女の声が少し寂しそうで、興奮してしまった。
「ちょっと洗ってくるよ」
ベッドから降りて浴室に入ると、湿った空気が冷えて寒かった。熱いシャワーを出してそこだけボディソープでしっかり洗う。シトラスの香りがなんだか滑稽で、一人で可笑しかった。シャワーを止めて、新しいバスタオルを一つ出して体を拭く。あとですぐに使うから、タオルはそのまま洗面台に置いておく。ベッドの彼女は一度布団に入って、寝転がってスマホをいじっていた。
「オトコから?」
「うん、別れたダンナがね」
「ヨリを戻そうって?」
「違うよ、娘の写真を送ってきたの」
彼女は5年前に離婚して、一人娘も元旦那の方で暮らしているという。ラインの連絡先をちゃんと把握し合っていることが意外だったのと、デジタル機器を使って別れた男から娘の写真が送られてくることのバランスも、なんだか一人で可笑しくなってしまった。複雑そうな、気まずそうな顔の彼女の横に潜り込んで素早く唇を奪い、そのままスマホを取り上げて証明パネルの横に置いてしまった。間延びしてしまったムードを取り戻そうと乱暴に舌をねじ込む。吸い返してくる彼女の舌を逆に吸い込んで絡ませる。指先は乳首とクリトリスに。背中に回された彼女の両手でしっかりとくっ付いたまま足の付け根を押し開く。
「待って」
「どうしたの」
不意に体を引き離されて、張り付いてた部分から体温が逃げてゆく。彼女は黒くてつやつやしたボブカットを指先でかき上げて、僕の胸を軽く押してあおむけに寝かせた。
「あんまり濡れなくなっちゃったから……」
それが彼女自身のことだということに気づくのと、彼女が僕自身を口に含んだのはほとんど同時だった。暫く独身で、別れた夫以外とはあまり経験がないと話していた彼女だったが、フェラチオは決して下手ではなかった。いわゆるテクニシャンではないものの舌や唇を使って丁寧に、愛情いっぱいに僕を愛撫してくれた。舌先が根元の辺りを這い回り、唇をすぼめて先端を軽く締め付けながら顔を上下させる。大人しそうな顔をしつつも丹念に舐め回す彼女は今、全裸で四つん這いになっている。壁一面が鏡張りの時代遅れのホテルだから、その様子がよく見えた。明かりを消しそびれて良かったかもしれない。僕が顔を上げて一生懸命鏡をのぞき込んでいることに気が付いた彼女は恥ずかしそうに
「やだ、見ないでよ」
とフェラチオをやめないまま言った。お尻の間から顔を出す黒々したヘアーと、その奥でぽっかり開いた肛門と性器。このあからさまで身も蓋もないのがセックスのいいところだ。どんな女の子にも等しくついている部分が、こうも千差万別であるがゆえに見たくて仕方がない。味わって、嗅いで、出来ることなら入りたい。いま僕にフェラチオをしてくれている彼女は色も形もとても整っていて綺麗だ。とても子供を一人産んでいるとは思えないくらい。ゆっくり動き回る舌がやがて僕の臍から胸元、首筋を伝って唇までやってきた。一度通り越して額にちゅっと音を立てて口づけをして、彼女は唇と体を同時に重ねてきた。ゆっくりと体内にうずもれてゆく感触。肛門よりもっと柔らかくて、役目通りの場所。どこの誰にもついている、そのための場所。受け止めて、宿して、育ててくれる場所。僕と智奈美が繋がるためにあるわけじゃない、どこの誰とでも繋がることは出来るけど、いま僕たちが繋がっている奇跡を体中で感じるための場所。
「ふうっ」
吐息を漏らしながら目を閉じて、彼女はしゃがんだ姿勢で体を上下に動かした。にっち、にっち、と湿った音を立てて僕の体の上を行ったり来たりする淫らな影法師。
「気持ちいい?」
「うん、私コレ好きかも」
ぜんぜん嫌そうじゃないしかめっ面をしたまま彼女は答えた。さっき出したばかりでまだ過敏になっているから、あまり激しくされると危ない。避妊具もなしに入れてしまったが、思ったよりも持ちそうにないぞ。
「ねえ、今度は僕が」
「いいの、ねえ、このまま」
「あっ、あ、でも」
「だめ、さっきお尻でさせたでしょ。今度は私の言うこと聞いて」
さっきまでの従順さはどこへやら、今度は積極的に腰を動かし始めた。流石に私より年上で、若いころは東京にあったセックスクラブにも在籍していたというだけはある。平凡な主婦の皮をかぶっているが、飢えたジョロウグモのようだ。僕はすっかり彼女の術中にハマったことを悟り、下から彼女を抱きしめて突き上げた。腰のあたりの筋肉がジンジンと熱を帯びてくる。擦れ合う感触を全身に広げて感じながら必死でこらえて腰を振る。背中に回した両腕から彼女の汗と体温が伝わって、そのまま張り付いた腹部と胸の感触にリンクする。いま、全身でひとつになっている。いま、全力でひとつになっている。それが堪らなく愛しくて、嬉しくて、どうにもこうにも切なかった。
「ごめん、智奈美ちゃん、もう」
「いいよ」
「え、でも」
「だめ、このまま」
「あっ、だめ、ごめんもう」
「きて」
途切れ途切れの会話の奥底から昇ってくる波に抗えないまま、僕は飛び切り情けない声を出して彼女の中に射精した。ああ、脈打つたびにどんどん溢れてゆくのがわかる。精液の量ではなくて、後悔のほうが。
(どうしよう)
そう思ったのが顔に書いてあったのだろう、彼女は私にまたがったまま言う。
「いいの。結婚してくれなくても、認知してくれなくても、お金もいらないから」
「……」
「達哉くんの子供が欲しかったんだ。私。こんなおばさんなのにね、変だね、ごめんね、あはは」
彼女は無理して笑いながら、僕のお腹の上でぽろぽろ泣いた。あはは、とそのまま声に出しても、震える声もこぼれる涙も誤魔化せなかった。暖かい涙がお腹の上で冷えてゆく。生暖かい精液が僕と彼女の隙間から染み出して逃げてゆく。僕はもう一度、彼女を下から抱きしめてぎゅっと力を込めた。
「ありがとう」
これしか言葉が出なかった。これしかかけられる言葉がなかった。
「ごめんね」
「ううん、嬉しかったよ。そこまで想ってくれてた人なんて智奈美ちゃんが初めてだったから」
「産ませてくれる?」
「……うん、わかったよ。でも一人じゃダメだよ」
「……?」
「僕も一緒に育てるよ、一緒に待っていよう。授かれるかどうかも、まだわかんないけどさ」
「ありがとう……気を使ってくれなくてもいいのに、ごめんね」
「謝らなくても良いよ、それにほら」
僕は彼女の中に入ったまま、またむくむくと元気になっていた。少し体をゆすると、彼女は背中をぴくりを反応させて甘い声を漏らした。
「ね?」
「もう、ばか」
「一回じゃきっとダメだよ。だから、ね。も一回しよ」
僕は抱きしめたままくるりと反転させて彼女の上にのしかかり、乳首に触れながらそっと彼女にキスをした。ちゅっ、と大きな音がして、それがもっと大きく隠微な音に変ってゆくのを、頭の片隅に残った理性だけが聞いていた。
「智奈美ちゃん、好きだよ。愛してる」
僕はずっと言えなかったことを、この際なので言ってしまうことにした。
「私も。愛してる」
「痛くなかった?」
ふう、と息をつきながら手を伸ばして、ダイヤル式の明かりを点けながら彼女に尋ねた。
「ううん、大丈夫」
彼女はまだ少し上ずった声で答えた。天井のライトが一気に明るさを増して、乱れ切ったベッドに横たわる彼女の姿があらわになった。
「大丈夫なだけ?」
「……気持ちよかった」
一瞬の躊躇のち、彼女は俯いてそう答えた。さっきより赤くなった顔が可愛くて、顎のあたりを指で引っ掛けて顔を持ち上げた。ふわり、と鼻をかすめた彼女の吐息は塩辛いにおいがした。それは僕と彼女が混じり合った、濃密な愛のにおい。今しがた冷静になったばかりの僕には少し刺激が強かったけど、それでもやっぱり彼女がいとおしくて、そっとキスをしてベッドから立ち上がった。
「ありがとう」
「えっ」
彼女は上半身を起こして、恥ずかしそうにつぶやいた。そのお礼の言葉の意味が分からず、僕の返事は空を切った。
「もらってくれて。はじめてを」
はじめて、とは、つまり。
「ありがとう。捧げてくれて。はじめてを」
僕はそう言って振り向いて、彼女をもう一度抱きしめた。
「また会ってくれる?」
「もちろんだよ」
僕の肩越しにこぼれた声が少し震えていて、熱い雫がぽたぽたと首筋にこぼれてきたのが感じられた。しゃくりあげる吐息が相変わらず生臭い。だけど、それがかえって僕の腹の奥をぐっと熱くさせた。
「智奈美、愛してるよ」
急に名前を呼ばれた彼女が少し驚いて体をきゅっと固くした。
「達哉君、ありがとう……」
もう一度、しっかりを舌を絡ませてディープキス。彼女の口の中の僕と、僕の口の中の彼女も唾液に溶けて混じり合う。そのままベッドに倒れ込んで、体をまさぐり合う。少し垂れた大きめの胸と、子供を産んでから戻らなくて、と恥ずかしがるお腹。ふさふさと生い茂った腋毛に指を差し込んで弄ぶ。白くきめ細かい素肌は40歳を迎えてもなおしっとりとして柔らかな肌触りがした。そのまま指を滑らせて、乳首に吸い付きながら彼女の股間をそっとなぞる。潤滑油のような指ざわりですでに受け入れ準備は整っている。さっきはお預けを食らっただけに、なおさら物欲しげに思えてくる。
「今度はどっちがいい?」
わざと、そう尋ねてみる。僕の顔を自分の胸にぎゅうと押し付けながら、蚊の鳴くような声で彼女は答えた。
「いいよ、達哉君の好きな方で」
「お尻、壊れちゃうかもよ?」
「いいよ、達哉君の好きに……壊して」
40歳の初めてを捧げてくれたばかりの彼女は健気にもそう言って再び顔を赤らめた。僕は彼女の胸から顔を離して、両足を持ち上げてその間に入った。彼女の肛門から、さっき出したばかりの僕の精液がじわりと漏れて出ていた。それをそのまま滑らせて、僕は彼女のお尻の中にごく当たり前のように入っていった。素肌より少し熱い体温が僕を包む。仰向けの彼女の体は確かに少し崩れてきている。だけど大人しそうで地味な顔たちをした彼女のイメージとは打って変わって、どんなことを言っても従順で積極的だった。今だってそうだ。40年間守り通したもう一つの純潔を捧げることにも躊躇いこそあったものの拒まれることはなかった。両足を大きく開いて僕を受け入れて、顔をゆがめながら悶えている。体がなんだ、年齢がなんだ、経産婦だからなんだ、バツイチだからなんだ。一つになってしまえば関係ない。僕は彼女の上に覆いかぶさって、両手でがっちりと彼女の頭を抱きしめて強く腰を押し付けた。お尻の奥までぐっと入り込んで、その温かさと滑らかな感触が頭の先までじんじん伝わってくるのを楽しんだ。またしてもお預けを食らった彼女のあそこがぽっかりと開いて、消しそびれたライトに照らされて少しだけてらてら光った。多くもなく少なくもないヘアーを指で撫でて、そのまま指で触ってみる。ぴくりと彼女が反応するたびに、お尻の中もぎゅっと動いた。彼女の顔も刻々と変わって、ぎゅっと目を閉じたかと思えば大きく口を開けて切なげな声を上げて。また苦しそうな顔をしている。2回目だし、少し痛かったかもしれない。僕は彼女の頬に両手を乗せて
「痛くない?」
と聞いた。そりゃあ彼女は
「うん、大丈夫」
っていうよな。言わせてるんだ、僕が。ゆっくりと動きを止めて、彼女の肛門からそっと引き抜いた。血も何もついていなかったけど、彼女は少しほっとしたような顔をした。
「いいの? ごめんね」
荒い息とともに絞り出した彼女の声が少し寂しそうで、興奮してしまった。
「ちょっと洗ってくるよ」
ベッドから降りて浴室に入ると、湿った空気が冷えて寒かった。熱いシャワーを出してそこだけボディソープでしっかり洗う。シトラスの香りがなんだか滑稽で、一人で可笑しかった。シャワーを止めて、新しいバスタオルを一つ出して体を拭く。あとですぐに使うから、タオルはそのまま洗面台に置いておく。ベッドの彼女は一度布団に入って、寝転がってスマホをいじっていた。
「オトコから?」
「うん、別れたダンナがね」
「ヨリを戻そうって?」
「違うよ、娘の写真を送ってきたの」
彼女は5年前に離婚して、一人娘も元旦那の方で暮らしているという。ラインの連絡先をちゃんと把握し合っていることが意外だったのと、デジタル機器を使って別れた男から娘の写真が送られてくることのバランスも、なんだか一人で可笑しくなってしまった。複雑そうな、気まずそうな顔の彼女の横に潜り込んで素早く唇を奪い、そのままスマホを取り上げて証明パネルの横に置いてしまった。間延びしてしまったムードを取り戻そうと乱暴に舌をねじ込む。吸い返してくる彼女の舌を逆に吸い込んで絡ませる。指先は乳首とクリトリスに。背中に回された彼女の両手でしっかりとくっ付いたまま足の付け根を押し開く。
「待って」
「どうしたの」
不意に体を引き離されて、張り付いてた部分から体温が逃げてゆく。彼女は黒くてつやつやしたボブカットを指先でかき上げて、僕の胸を軽く押してあおむけに寝かせた。
「あんまり濡れなくなっちゃったから……」
それが彼女自身のことだということに気づくのと、彼女が僕自身を口に含んだのはほとんど同時だった。暫く独身で、別れた夫以外とはあまり経験がないと話していた彼女だったが、フェラチオは決して下手ではなかった。いわゆるテクニシャンではないものの舌や唇を使って丁寧に、愛情いっぱいに僕を愛撫してくれた。舌先が根元の辺りを這い回り、唇をすぼめて先端を軽く締め付けながら顔を上下させる。大人しそうな顔をしつつも丹念に舐め回す彼女は今、全裸で四つん這いになっている。壁一面が鏡張りの時代遅れのホテルだから、その様子がよく見えた。明かりを消しそびれて良かったかもしれない。僕が顔を上げて一生懸命鏡をのぞき込んでいることに気が付いた彼女は恥ずかしそうに
「やだ、見ないでよ」
とフェラチオをやめないまま言った。お尻の間から顔を出す黒々したヘアーと、その奥でぽっかり開いた肛門と性器。このあからさまで身も蓋もないのがセックスのいいところだ。どんな女の子にも等しくついている部分が、こうも千差万別であるがゆえに見たくて仕方がない。味わって、嗅いで、出来ることなら入りたい。いま僕にフェラチオをしてくれている彼女は色も形もとても整っていて綺麗だ。とても子供を一人産んでいるとは思えないくらい。ゆっくり動き回る舌がやがて僕の臍から胸元、首筋を伝って唇までやってきた。一度通り越して額にちゅっと音を立てて口づけをして、彼女は唇と体を同時に重ねてきた。ゆっくりと体内にうずもれてゆく感触。肛門よりもっと柔らかくて、役目通りの場所。どこの誰にもついている、そのための場所。受け止めて、宿して、育ててくれる場所。僕と智奈美が繋がるためにあるわけじゃない、どこの誰とでも繋がることは出来るけど、いま僕たちが繋がっている奇跡を体中で感じるための場所。
「ふうっ」
吐息を漏らしながら目を閉じて、彼女はしゃがんだ姿勢で体を上下に動かした。にっち、にっち、と湿った音を立てて僕の体の上を行ったり来たりする淫らな影法師。
「気持ちいい?」
「うん、私コレ好きかも」
ぜんぜん嫌そうじゃないしかめっ面をしたまま彼女は答えた。さっき出したばかりでまだ過敏になっているから、あまり激しくされると危ない。避妊具もなしに入れてしまったが、思ったよりも持ちそうにないぞ。
「ねえ、今度は僕が」
「いいの、ねえ、このまま」
「あっ、あ、でも」
「だめ、さっきお尻でさせたでしょ。今度は私の言うこと聞いて」
さっきまでの従順さはどこへやら、今度は積極的に腰を動かし始めた。流石に私より年上で、若いころは東京にあったセックスクラブにも在籍していたというだけはある。平凡な主婦の皮をかぶっているが、飢えたジョロウグモのようだ。僕はすっかり彼女の術中にハマったことを悟り、下から彼女を抱きしめて突き上げた。腰のあたりの筋肉がジンジンと熱を帯びてくる。擦れ合う感触を全身に広げて感じながら必死でこらえて腰を振る。背中に回した両腕から彼女の汗と体温が伝わって、そのまま張り付いた腹部と胸の感触にリンクする。いま、全身でひとつになっている。いま、全力でひとつになっている。それが堪らなく愛しくて、嬉しくて、どうにもこうにも切なかった。
「ごめん、智奈美ちゃん、もう」
「いいよ」
「え、でも」
「だめ、このまま」
「あっ、だめ、ごめんもう」
「きて」
途切れ途切れの会話の奥底から昇ってくる波に抗えないまま、僕は飛び切り情けない声を出して彼女の中に射精した。ああ、脈打つたびにどんどん溢れてゆくのがわかる。精液の量ではなくて、後悔のほうが。
(どうしよう)
そう思ったのが顔に書いてあったのだろう、彼女は私にまたがったまま言う。
「いいの。結婚してくれなくても、認知してくれなくても、お金もいらないから」
「……」
「達哉くんの子供が欲しかったんだ。私。こんなおばさんなのにね、変だね、ごめんね、あはは」
彼女は無理して笑いながら、僕のお腹の上でぽろぽろ泣いた。あはは、とそのまま声に出しても、震える声もこぼれる涙も誤魔化せなかった。暖かい涙がお腹の上で冷えてゆく。生暖かい精液が僕と彼女の隙間から染み出して逃げてゆく。僕はもう一度、彼女を下から抱きしめてぎゅっと力を込めた。
「ありがとう」
これしか言葉が出なかった。これしかかけられる言葉がなかった。
「ごめんね」
「ううん、嬉しかったよ。そこまで想ってくれてた人なんて智奈美ちゃんが初めてだったから」
「産ませてくれる?」
「……うん、わかったよ。でも一人じゃダメだよ」
「……?」
「僕も一緒に育てるよ、一緒に待っていよう。授かれるかどうかも、まだわかんないけどさ」
「ありがとう……気を使ってくれなくてもいいのに、ごめんね」
「謝らなくても良いよ、それにほら」
僕は彼女の中に入ったまま、またむくむくと元気になっていた。少し体をゆすると、彼女は背中をぴくりを反応させて甘い声を漏らした。
「ね?」
「もう、ばか」
「一回じゃきっとダメだよ。だから、ね。も一回しよ」
僕は抱きしめたままくるりと反転させて彼女の上にのしかかり、乳首に触れながらそっと彼女にキスをした。ちゅっ、と大きな音がして、それがもっと大きく隠微な音に変ってゆくのを、頭の片隅に残った理性だけが聞いていた。
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