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パチンコ屋の立体駐車場で
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六月某日。平日の昼間。仕事を早退しクルマを飛ばしてやってきた隣町の郊外にあるパチンコ店。立体駐車場をどんどん上がって六階の片隅に停めた白いワゴン車の後部座席で。エンジンはかけっぱなし、エアコンは循環モード。
椅子に深々と腰掛けた僕は作業着のズボンとボクサータイプのブリーフを膝の下までおろして彼女を待った。背中まで伸びた黒く長い髪を手慣れた様子で簡単にくくって利き手と反対側に振って、赤く派手なノースリーブと汗の染みた黒いキャミソールを首元までまくりあげた。胸に下着はつけていなかった。蒸れた香ばしい腋の匂いが一瞬だけ車内に充満して、鼻から胸の奥へ吸い込まれてゆくと僕もすっかり血の巡りが良くなって、彼女の唇が近づくのを待った。
「ん、いくとき言って」
そういって何のためらいもなく僕のを口に含んだ彼女は妊娠していた。にもかかわらず「だから最後に会いたい」と連絡をくれた。蒸し暑い昼下がりに、こんな場所でこんな形でフェラチオだけしてもらって最後になるんだな。そう思いながら彼女の胸をそっと触った。妊娠初期で感覚が過敏になっているだろう、今までも優しくしてきたつもりだけど、今回は手をカップのようにしてそっと添えるようにして汗ばんだ肌に触れて、ごくゆっくりと揉んだ。彼女は目をきゅっと閉じて僕の足元で顔と上下させている。あたたかな感触と締め付けられるような摩擦、ぎゅっぱ、じゅっぷ、と濡れた音が響く。エンジンを切っているので静かだ。平日昼間のパチンコ屋の立体駐車場の上の方だと、クルマなんてめったに来ない。車窓と駐車場の柱の向こうにはどんよりした雲の下で憂鬱そうに項垂れる街並みと、ノロノロ走る渋滞の列が見える。色とりどりの自動車の屋根、フロントガラスの中にはそれぞれの人。誰もみんな今こんなところでこんなことが行われているだなんて露ほども思わないだろう。足元では彼女の頭の動きが素早く、力強くなってきている。音も大きく、ねばっこくなってくる。彼女の腋のにおいと、彼女の漏らす吐息の性器の生臭さと唾液の乾いた塩辛いにおいが混じり合った空気が車内に充満している。どんどん血が流れ込んで、どんどん硬くなって、たいして大きくはならなくて。
「あ、ああごめん、出そう」
「ひいよ、ひっへぇ」
彼女の動きがより素早くいやらしくなる。舌で亀頭から付け根まで素早く舐めまわしながら唇で吸い付いてくる。僕は彼女のサラサラした長い髪を乱暴に束ねるように指で掴んで、彼女の頭をぎゅっと押さえる。ぎゅぼ、ちゅぼ、と苦しそうな音がする。僕は構わず彼女の頭を動かしてしごく。腰を押し付けるようにしてしごく。ああっ、と短い断末魔のような声を上げて、彼女の口の中に全部出した。初めは弾けるように、次に流れ出すように、最後は絞り出すように。彼女がゆっくり顔を上げる。離陸した唇をすぼめた端から頤を伝う淫靡なしずく。手元に寄せたボックスティッシュに僕の精液を吐き出して、ペットボトルの水でうがいをして飲み込んだ。
「ふーっ。ありがと」
「こちらこそ」
もう会うこともないだろう。僕は最後まで彼女のことを、彼女の本当のことを何も知らずにいた。名前も住まいも生い立ちも。彼女から聞いたものに一つでも本当のことがあったのかすらわからない。裸はとことん見たけれど、体の内側に答えなんかありゃしない。それでいいんだ。
「はいこれ」
「ありがと」
出産祝い、と言いたかったが、それ以上は何も言わず黙って身支度をした。パチンコ屋の立体駐車場を出て少し走って、待ち合わせ場所だったコンビニの駐車場に戻ると彼女は自分の車に乗り込んで、運転席から笑顔で手を振って走り去っていった。環状鉄道の高架をくぐって信号を左折していく彼女の茶色い軽自動車をぼんやり見送って、僕もアクセルを踏み込んだ。
椅子に深々と腰掛けた僕は作業着のズボンとボクサータイプのブリーフを膝の下までおろして彼女を待った。背中まで伸びた黒く長い髪を手慣れた様子で簡単にくくって利き手と反対側に振って、赤く派手なノースリーブと汗の染みた黒いキャミソールを首元までまくりあげた。胸に下着はつけていなかった。蒸れた香ばしい腋の匂いが一瞬だけ車内に充満して、鼻から胸の奥へ吸い込まれてゆくと僕もすっかり血の巡りが良くなって、彼女の唇が近づくのを待った。
「ん、いくとき言って」
そういって何のためらいもなく僕のを口に含んだ彼女は妊娠していた。にもかかわらず「だから最後に会いたい」と連絡をくれた。蒸し暑い昼下がりに、こんな場所でこんな形でフェラチオだけしてもらって最後になるんだな。そう思いながら彼女の胸をそっと触った。妊娠初期で感覚が過敏になっているだろう、今までも優しくしてきたつもりだけど、今回は手をカップのようにしてそっと添えるようにして汗ばんだ肌に触れて、ごくゆっくりと揉んだ。彼女は目をきゅっと閉じて僕の足元で顔と上下させている。あたたかな感触と締め付けられるような摩擦、ぎゅっぱ、じゅっぷ、と濡れた音が響く。エンジンを切っているので静かだ。平日昼間のパチンコ屋の立体駐車場の上の方だと、クルマなんてめったに来ない。車窓と駐車場の柱の向こうにはどんよりした雲の下で憂鬱そうに項垂れる街並みと、ノロノロ走る渋滞の列が見える。色とりどりの自動車の屋根、フロントガラスの中にはそれぞれの人。誰もみんな今こんなところでこんなことが行われているだなんて露ほども思わないだろう。足元では彼女の頭の動きが素早く、力強くなってきている。音も大きく、ねばっこくなってくる。彼女の腋のにおいと、彼女の漏らす吐息の性器の生臭さと唾液の乾いた塩辛いにおいが混じり合った空気が車内に充満している。どんどん血が流れ込んで、どんどん硬くなって、たいして大きくはならなくて。
「あ、ああごめん、出そう」
「ひいよ、ひっへぇ」
彼女の動きがより素早くいやらしくなる。舌で亀頭から付け根まで素早く舐めまわしながら唇で吸い付いてくる。僕は彼女のサラサラした長い髪を乱暴に束ねるように指で掴んで、彼女の頭をぎゅっと押さえる。ぎゅぼ、ちゅぼ、と苦しそうな音がする。僕は構わず彼女の頭を動かしてしごく。腰を押し付けるようにしてしごく。ああっ、と短い断末魔のような声を上げて、彼女の口の中に全部出した。初めは弾けるように、次に流れ出すように、最後は絞り出すように。彼女がゆっくり顔を上げる。離陸した唇をすぼめた端から頤を伝う淫靡なしずく。手元に寄せたボックスティッシュに僕の精液を吐き出して、ペットボトルの水でうがいをして飲み込んだ。
「ふーっ。ありがと」
「こちらこそ」
もう会うこともないだろう。僕は最後まで彼女のことを、彼女の本当のことを何も知らずにいた。名前も住まいも生い立ちも。彼女から聞いたものに一つでも本当のことがあったのかすらわからない。裸はとことん見たけれど、体の内側に答えなんかありゃしない。それでいいんだ。
「はいこれ」
「ありがと」
出産祝い、と言いたかったが、それ以上は何も言わず黙って身支度をした。パチンコ屋の立体駐車場を出て少し走って、待ち合わせ場所だったコンビニの駐車場に戻ると彼女は自分の車に乗り込んで、運転席から笑顔で手を振って走り去っていった。環状鉄道の高架をくぐって信号を左折していく彼女の茶色い軽自動車をぼんやり見送って、僕もアクセルを踏み込んだ。
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