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エピローグ
8-14 康乃の秘密
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眞瀬木灰砥は、藤生康乃を呪おうとしていた。
墨砥の告白に、その場の皆が息をのんだ。
「何故、そうなるんです?」
「それは……」
鈴心が聞いても、墨砥は言葉を濁し次の句を懸命に探しているようだった。
それで永がズバリと持っていた推論を口にする。
「康乃さんも、鵺人だから──では?」
「気づいて……いたのか」
「珪さんが言ってましたよ。「鵺人に成り果てた藤生には任せられない」って」
「どういうことですか?」
「それは、梢賢くんなら知ってるよね」
首を傾げる鈴心に、梢賢を見るよう視線で永は促した。それで梢賢は観念したように肩で息を吐く。
「しゃあない。トップシークレットやで」
蕾生も緊張しながら梢賢の言葉を待つ。
「康乃様は、檀婆ちゃんの娘なんや」
「──!!」
永は少し見当がついていたものの、蕾生と鈴心は衝撃に打ちのめされた。
「藤生の前当主が若い頃、雨都檀と恋に落ち、できた子が康乃様だ」
梢賢の言葉を続ける墨砥の言葉も重い。永達は何も言えずに黙って聞くしかなかった。
「だが、里のトップと居候の家の娘との結婚など認められる訳がない。当主は別の娘と強引に結婚させられ、檀はひっそりと娘を産んだ後、藤生家に取り上げられた。
その後、まるで厄介払いをするように檀にも強制的に里が外部から呼んだ婿を当てがったのだ」
「それがオレの爺ちゃんや。あ、誤解せんといてくれよ?爺ちゃんはほんまにええ人やったで!」
梢賢が明るくフォローしたものの、真実の重さに三人は衝撃を受けたまま口々に言う。
「……なんてことだ」
「楓、楓はそれで──」
「康乃さんは、それ知ってんのか?」
蕾生が聞くと、墨砥は首を振る。
「いや、ご存知ない……はずだ」
「檀婆ちゃんはな、康乃様の前でも他人のふりを貫いとった。誰にも気づかせなかったよ、母ちゃんにもな」
梢賢が少し悲しそうに言うと、瑠深が遠慮がちに尋ねる。
「……梢賢は何故知ってるの?」
「珪兄ちゃんに教えてもろた。こーんなこまい頃な」
右手で当時の身長の低さを表しながら答える梢賢に、墨砥はまた頭を下げる。
「そうか……本当にすまない……」
「聞いた時はよくわからんかったけどな。でも何でかその話が忘れられなくて、理解できたのは婆ちゃんが死んだ後やったな」
幼少時に刺さった棘のような記憶が、思春期になって甦る。
多感な時期に自分の身内に関する、生々しく暗い過去を知った梢賢の当時を永は想像してみる。だから自宅や村にはいたくなくて街をフラフラしていたのかと思い至ってみれば、理解できる。
「康乃さんは雨都の血を引いているから、葵くんのキクレー因子に干渉できたんですね……」
「謎は解けたけど、後味は悪いね」
鈴心も隠されていた真実に打ちのめされていた。それからかつて雨都楓が背負っていたものの大きさを知る。永もやるせない思いだった。
「私もあれは驚いた。資実姫様のお力に加えて鵺の力も操ってみせたのだから」
「そりゃ、力を使い果たして当然かもな」
墨砥の呟きに蕾生が反応すると、次の瞬間とんでもない速さで墨砥はグルンと蕾生の方を向いて鬼のような形相で聞き返した。
「何だと!?」
「あ、バカ!」
「あ、ヤベ」
慌てて梢賢が諌めたがもう遅い。墨砥はお口チャック状態で口元を抑える蕾生ではなく、梢賢の方に詰め寄った。
「やや、康乃様が、ち、力を使い果たしただと!本当か、梢賢!?」
梢賢は襟元を掴まれてガクガクと揺さぶられた。
「ほ、ほ、ほんとですぅ……」
「ああぁ……」
「父さん、しっかり!」
苦しそうに梢賢が認めると、墨砥は一瞬意識を遠ざける。後ろにフラついて瑠深に支えられた。
「資実姫の力は確かに康乃様には無くなりました。ですが、お孫さんに発現していますよ」
見かねた皓矢が落ち着いて教えてやる。すると墨砥はまたもグルンと皓矢の方を向いて涙目で聞いた。
「ほ、本当かね!?」
「ええ。見事なものでした」
皓矢が笑って頷いてやると、墨砥はその場でへなへなと座り込む。
「ほー……」
「父さん!」
情けない父親の姿が晒されて、瑠深は心配やら恥ずかしいやらで声を荒げた。
そんな二人の様を見ていた鈴心と蕾生は笑いを堪えるあまりに無表情で目配せをし合う。「ここにもコント集団」「ワカル」と。
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墨砥の告白に、その場の皆が息をのんだ。
「何故、そうなるんです?」
「それは……」
鈴心が聞いても、墨砥は言葉を濁し次の句を懸命に探しているようだった。
それで永がズバリと持っていた推論を口にする。
「康乃さんも、鵺人だから──では?」
「気づいて……いたのか」
「珪さんが言ってましたよ。「鵺人に成り果てた藤生には任せられない」って」
「どういうことですか?」
「それは、梢賢くんなら知ってるよね」
首を傾げる鈴心に、梢賢を見るよう視線で永は促した。それで梢賢は観念したように肩で息を吐く。
「しゃあない。トップシークレットやで」
蕾生も緊張しながら梢賢の言葉を待つ。
「康乃様は、檀婆ちゃんの娘なんや」
「──!!」
永は少し見当がついていたものの、蕾生と鈴心は衝撃に打ちのめされた。
「藤生の前当主が若い頃、雨都檀と恋に落ち、できた子が康乃様だ」
梢賢の言葉を続ける墨砥の言葉も重い。永達は何も言えずに黙って聞くしかなかった。
「だが、里のトップと居候の家の娘との結婚など認められる訳がない。当主は別の娘と強引に結婚させられ、檀はひっそりと娘を産んだ後、藤生家に取り上げられた。
その後、まるで厄介払いをするように檀にも強制的に里が外部から呼んだ婿を当てがったのだ」
「それがオレの爺ちゃんや。あ、誤解せんといてくれよ?爺ちゃんはほんまにええ人やったで!」
梢賢が明るくフォローしたものの、真実の重さに三人は衝撃を受けたまま口々に言う。
「……なんてことだ」
「楓、楓はそれで──」
「康乃さんは、それ知ってんのか?」
蕾生が聞くと、墨砥は首を振る。
「いや、ご存知ない……はずだ」
「檀婆ちゃんはな、康乃様の前でも他人のふりを貫いとった。誰にも気づかせなかったよ、母ちゃんにもな」
梢賢が少し悲しそうに言うと、瑠深が遠慮がちに尋ねる。
「……梢賢は何故知ってるの?」
「珪兄ちゃんに教えてもろた。こーんなこまい頃な」
右手で当時の身長の低さを表しながら答える梢賢に、墨砥はまた頭を下げる。
「そうか……本当にすまない……」
「聞いた時はよくわからんかったけどな。でも何でかその話が忘れられなくて、理解できたのは婆ちゃんが死んだ後やったな」
幼少時に刺さった棘のような記憶が、思春期になって甦る。
多感な時期に自分の身内に関する、生々しく暗い過去を知った梢賢の当時を永は想像してみる。だから自宅や村にはいたくなくて街をフラフラしていたのかと思い至ってみれば、理解できる。
「康乃さんは雨都の血を引いているから、葵くんのキクレー因子に干渉できたんですね……」
「謎は解けたけど、後味は悪いね」
鈴心も隠されていた真実に打ちのめされていた。それからかつて雨都楓が背負っていたものの大きさを知る。永もやるせない思いだった。
「私もあれは驚いた。資実姫様のお力に加えて鵺の力も操ってみせたのだから」
「そりゃ、力を使い果たして当然かもな」
墨砥の呟きに蕾生が反応すると、次の瞬間とんでもない速さで墨砥はグルンと蕾生の方を向いて鬼のような形相で聞き返した。
「何だと!?」
「あ、バカ!」
「あ、ヤベ」
慌てて梢賢が諌めたがもう遅い。墨砥はお口チャック状態で口元を抑える蕾生ではなく、梢賢の方に詰め寄った。
「やや、康乃様が、ち、力を使い果たしただと!本当か、梢賢!?」
梢賢は襟元を掴まれてガクガクと揺さぶられた。
「ほ、ほ、ほんとですぅ……」
「ああぁ……」
「父さん、しっかり!」
苦しそうに梢賢が認めると、墨砥は一瞬意識を遠ざける。後ろにフラついて瑠深に支えられた。
「資実姫の力は確かに康乃様には無くなりました。ですが、お孫さんに発現していますよ」
見かねた皓矢が落ち着いて教えてやる。すると墨砥はまたもグルンと皓矢の方を向いて涙目で聞いた。
「ほ、本当かね!?」
「ええ。見事なものでした」
皓矢が笑って頷いてやると、墨砥はその場でへなへなと座り込む。
「ほー……」
「父さん!」
情けない父親の姿が晒されて、瑠深は心配やら恥ずかしいやらで声を荒げた。
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