転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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8-2 前を向く

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 五人が出かけた後、橙子とうこは片付けながら優杞ゆうこに聞いた。
 
梢賢しょうけんはまだ寝てるの?」
 
「多分……」
 
「仕方のない子ね」
 
 肩で息を吐いた後、橙子は息子の部屋に向かった。


 
 
「梢賢」
 
 橙子はいつものようにノックもしないで襖を開けた。梢賢はベッドの上で布団を頭から引っ被って返事もしない。
 
「……」
 
「この暑い時期にますます暑苦しい。起きなさい」
 
「……」
 
 もぞもぞと動きはするものの一向に顔を見せない息子に、母は溜息を吐いた後厳しい声で言い放った。
 
「起きないとちょん切りますよ」
 
「ご、ごめんなさい!」
 
 ほぼ条件反射で起き上がった梢賢の顔も髪もくしゃくしゃで、目も赤く充血していた。
 
「全く情けない顔だこと。私は本当に息子を産んだのかしら」
 
「……」
 
 口をへの字に曲げて黙ったままの梢賢に、橙子はさらに厳しい言葉を浴びせる。
 
「男だからメソメソするなとは言わないけれど、お客様が大勢いらしているのに情けない姿を晒すことは許しませんよ」
 
「……ごめんなさい」
 
「お前はなんのために似合いもしない関西弁を使っているの?」
 
「え……?」
 
 橙子はゆっくり近づいてベッドに腰掛けた。
 
「この里から脱却するため、でしょう?威勢を張って自ら鼓舞するためではないの?」
 
「……」
 
「お前の大好きなお笑い芸人は、たとえ親が死んでも舞台に立って笑ってますよ」
 
「!」
 
 母の言葉に梢賢は驚いた。いつも馬鹿馬鹿しいと言っていた梢賢の好みに初めて母が理解を示してくれた。
 
 橙子は厳しい口調のままだったが、表情は少し優しかった。
 
「そうやって生きると決めたなら貫き通しなさい。雨都うと梢賢しょうけんは、飄々としたお調子者で器用に立ち回る──そういうキャラクターなんでしょう?」
 
「母ちゃん……」
 
 だが優しくされて泣きべそをかきかけた梢賢に、橙子はすぐ苛ついて声を荒げる。
 
「立ち上がるか、ちょん切るか!3、2……」
 
「立ち上がります!!」
 
 それで梢賢は慌ててベッドから飛び降りる。橙子は満足げにしていた。
 
「それでこそ私の息子。そして楓が託した子です」
 
「オス!」
 
「駄洒落にしては面白くないわね」
 
「厳しいッ!」
 
 母の偉大さ、そしてありがたさを梢賢は噛み締めながら前を向いた。







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