転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第七章

7-11 傷

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瑠深るみさんダメです!」
 
「!?」
 
 犀髪の結さいはつのむすびを受け取ってしまった瑠深に、鈴心すずねは必死で叫んだ。
 
「私達はぬえを従えようとして破滅していった人を知ってる!瑠深さんはそんな道に進んではいけない!」
 
 戸惑う瑠深に向けて、墨砥ぼくとも静かな口調で諭すように言う。
 
鵺人ぬえびとの言う通りだ、瑠深。我々は灰砥かいと兄さんの件から学んだはずだ。あれに手を染めてはいけない」
 
 するとけいはそれまで笑っていた態度を翻してヒステリックに叫んだ。
 
「お父さんは黙っててくれませんか!灰砥伯父さんを見殺しにした時のようにね!
 ──ええ、そうですとも。灰砥伯父さんと同じ轍を踏んではいけない。だからこそ僕はこうするしかないのです」
 
「珪!目を覚ましなさい!お前は灰砥兄さんを誤解している!」
 
「はあ!?誤解しているのはお父さんの方でしょう?だから伯父さんが粛清されるのを容認した!伯父さんを見捨てたんだ!」
 
「……」
 
 もう息子には何を言っても通じない。墨砥は苦悩に塗れて言葉を失った。

「さあ、瑠深。僕ら兄妹は二人で一人だろう。僕の頭脳はお前のもの、お前の呪力は──僕のものだ」
 
「あ……兄さん……」
 
 瑠深は既に抗う気力さえ失くしている。手の中の犀髪の結を握ったまま珪の瞳に魅入られかけた。
 
「バカ言ってんじゃねえぞ!クソアニキが!」
 
「!」
 
 だがすんでのところで、永の怒号が瑠深をとどめる。
 
「瑠深サンの力は瑠深サンのものだ!妹と自分を同一視して考えるなんて、自立できてないシスコン野郎のすることだ!」
 
「な、なんだ……その汚い言葉遣いは!気高い鵺人がそんなことでいいと思ってるのか!」
 
「うるせえ!前も言ったけど、僕らを勝手に英雄視すんじゃねえ!こちとら大迷惑なんだよ!」
 
 言われた珪だけでなく、鈴心も梢賢しょうけんも永の乱暴な物言いに驚いて少し怯んだ。
 そして瑠深は。
 
「……」
 
「瑠深サン、お願いだ、僕らを──ライを信じてくれ!ライが必ずあおいくんをなんとかするから!」
 
「え……」
 
 言われて瑠深は視線を二体の鵺に移す。黒い鵺が引っ掻いたり噛みついたりしているのを、金色の鵺が防ぎながら反撃の機会を狙っていた。
 傷をあちこちに受けながらも、金色の鵺である蕾生は諦める様子を見せない。黄金の瞳は依然輝いている。
 
「あ──」
 
「瑠深さん!お願いします、ライを信じて!」
 
 必死な鈴心の声が、瑠深の胸の中にストンと落ちた。
 
「兄さん、ごめん。あたしはこれ、使えない……。だって、あの子が……可哀想だよ」
 
 傷だらけの蕾生。しかしそれ以上に葵の姿が痛ましかった。母親を失ってやり場のない悲しみをぶつけるその姿が哀れだった。
 
 そんな二人を思いやって、瑠深は犀髪の結を投げ捨てる。
 
「瑠深ィィイ!!」
 
 珪が怒りに我を忘れて叫ぶ。けれど瑠深はそれを必死で堪えた。
 
「ライくん!一旦下がれ!距離をとるんだ!」
 
「──ガッ」
 
 蕾生は永の指示に従って後ろに跳躍し距離をとる。そこにはちょうど康乃やすのが立っていた。
 
「貴方……そんなに傷だらけなのに、あの子のために──」
 
 康乃は蕾生の体を見て驚く。その言葉が聞こえたような顔をして蕾生は穏やかな瞳で康乃を見ていた。







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