147 / 174
第七章
7-11 傷
しおりを挟む
「瑠深さんダメです!」
「!?」
犀髪の結を受け取ってしまった瑠深に、鈴心は必死で叫んだ。
「私達は鵺を従えようとして破滅していった人を知ってる!瑠深さんはそんな道に進んではいけない!」
戸惑う瑠深に向けて、墨砥も静かな口調で諭すように言う。
「鵺人の言う通りだ、瑠深。我々は灰砥兄さんの件から学んだはずだ。あれに手を染めてはいけない」
すると珪はそれまで笑っていた態度を翻してヒステリックに叫んだ。
「お父さんは黙っててくれませんか!灰砥伯父さんを見殺しにした時のようにね!
──ええ、そうですとも。灰砥伯父さんと同じ轍を踏んではいけない。だからこそ僕はこうするしかないのです」
「珪!目を覚ましなさい!お前は灰砥兄さんを誤解している!」
「はあ!?誤解しているのはお父さんの方でしょう?だから伯父さんが粛清されるのを容認した!伯父さんを見捨てたんだ!」
「……」
もう息子には何を言っても通じない。墨砥は苦悩に塗れて言葉を失った。
「さあ、瑠深。僕ら兄妹は二人で一人だろう。僕の頭脳はお前のもの、お前の呪力は──僕のものだ」
「あ……兄さん……」
瑠深は既に抗う気力さえ失くしている。手の中の犀髪の結を握ったまま珪の瞳に魅入られかけた。
「バカ言ってんじゃねえぞ!クソアニキが!」
「!」
だがすんでのところで、永の怒号が瑠深をとどめる。
「瑠深サンの力は瑠深サンのものだ!妹と自分を同一視して考えるなんて、自立できてないシスコン野郎のすることだ!」
「な、なんだ……その汚い言葉遣いは!気高い鵺人がそんなことでいいと思ってるのか!」
「うるせえ!前も言ったけど、僕らを勝手に英雄視すんじゃねえ!こちとら大迷惑なんだよ!」
言われた珪だけでなく、鈴心も梢賢も永の乱暴な物言いに驚いて少し怯んだ。
そして瑠深は。
「……」
「瑠深サン、お願いだ、僕らを──ライを信じてくれ!ライが必ず葵くんをなんとかするから!」
「え……」
言われて瑠深は視線を二体の鵺に移す。黒い鵺が引っ掻いたり噛みついたりしているのを、金色の鵺が防ぎながら反撃の機会を狙っていた。
傷をあちこちに受けながらも、金色の鵺である蕾生は諦める様子を見せない。黄金の瞳は依然輝いている。
「あ──」
「瑠深さん!お願いします、ライを信じて!」
必死な鈴心の声が、瑠深の胸の中にストンと落ちた。
「兄さん、ごめん。あたしはこれ、使えない……。だって、あの子が……可哀想だよ」
傷だらけの蕾生。しかしそれ以上に葵の姿が痛ましかった。母親を失ってやり場のない悲しみをぶつけるその姿が哀れだった。
そんな二人を思いやって、瑠深は犀髪の結を投げ捨てる。
「瑠深ィィイ!!」
珪が怒りに我を忘れて叫ぶ。けれど瑠深はそれを必死で堪えた。
「ライくん!一旦下がれ!距離をとるんだ!」
「──ガッ」
蕾生は永の指示に従って後ろに跳躍し距離をとる。そこにはちょうど康乃が立っていた。
「貴方……そんなに傷だらけなのに、あの子のために──」
康乃は蕾生の体を見て驚く。その言葉が聞こえたような顔をして蕾生は穏やかな瞳で康乃を見ていた。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
「!?」
犀髪の結を受け取ってしまった瑠深に、鈴心は必死で叫んだ。
「私達は鵺を従えようとして破滅していった人を知ってる!瑠深さんはそんな道に進んではいけない!」
戸惑う瑠深に向けて、墨砥も静かな口調で諭すように言う。
「鵺人の言う通りだ、瑠深。我々は灰砥兄さんの件から学んだはずだ。あれに手を染めてはいけない」
すると珪はそれまで笑っていた態度を翻してヒステリックに叫んだ。
「お父さんは黙っててくれませんか!灰砥伯父さんを見殺しにした時のようにね!
──ええ、そうですとも。灰砥伯父さんと同じ轍を踏んではいけない。だからこそ僕はこうするしかないのです」
「珪!目を覚ましなさい!お前は灰砥兄さんを誤解している!」
「はあ!?誤解しているのはお父さんの方でしょう?だから伯父さんが粛清されるのを容認した!伯父さんを見捨てたんだ!」
「……」
もう息子には何を言っても通じない。墨砥は苦悩に塗れて言葉を失った。
「さあ、瑠深。僕ら兄妹は二人で一人だろう。僕の頭脳はお前のもの、お前の呪力は──僕のものだ」
「あ……兄さん……」
瑠深は既に抗う気力さえ失くしている。手の中の犀髪の結を握ったまま珪の瞳に魅入られかけた。
「バカ言ってんじゃねえぞ!クソアニキが!」
「!」
だがすんでのところで、永の怒号が瑠深をとどめる。
「瑠深サンの力は瑠深サンのものだ!妹と自分を同一視して考えるなんて、自立できてないシスコン野郎のすることだ!」
「な、なんだ……その汚い言葉遣いは!気高い鵺人がそんなことでいいと思ってるのか!」
「うるせえ!前も言ったけど、僕らを勝手に英雄視すんじゃねえ!こちとら大迷惑なんだよ!」
言われた珪だけでなく、鈴心も梢賢も永の乱暴な物言いに驚いて少し怯んだ。
そして瑠深は。
「……」
「瑠深サン、お願いだ、僕らを──ライを信じてくれ!ライが必ず葵くんをなんとかするから!」
「え……」
言われて瑠深は視線を二体の鵺に移す。黒い鵺が引っ掻いたり噛みついたりしているのを、金色の鵺が防ぎながら反撃の機会を狙っていた。
傷をあちこちに受けながらも、金色の鵺である蕾生は諦める様子を見せない。黄金の瞳は依然輝いている。
「あ──」
「瑠深さん!お願いします、ライを信じて!」
必死な鈴心の声が、瑠深の胸の中にストンと落ちた。
「兄さん、ごめん。あたしはこれ、使えない……。だって、あの子が……可哀想だよ」
傷だらけの蕾生。しかしそれ以上に葵の姿が痛ましかった。母親を失ってやり場のない悲しみをぶつけるその姿が哀れだった。
そんな二人を思いやって、瑠深は犀髪の結を投げ捨てる。
「瑠深ィィイ!!」
珪が怒りに我を忘れて叫ぶ。けれど瑠深はそれを必死で堪えた。
「ライくん!一旦下がれ!距離をとるんだ!」
「──ガッ」
蕾生は永の指示に従って後ろに跳躍し距離をとる。そこにはちょうど康乃が立っていた。
「貴方……そんなに傷だらけなのに、あの子のために──」
康乃は蕾生の体を見て驚く。その言葉が聞こえたような顔をして蕾生は穏やかな瞳で康乃を見ていた。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる