転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
上 下
134 / 174
第六章

6-6 疑心

しおりを挟む
「──え?」
 
「まさか、あのおばさんも……」
 
「グルってこと?」
 
 蕾生らいおはるか康乃やすのの朗らかな笑顔を思い浮かべ、その裏に隠れる悪意を想像する。それまで気付きもしなかった可能性に皆が押し黙った。
 
「それはもっとあり得ん!!康乃様があおいくんをぬえ化させる理由がない!」
 
 最初にそれを打ち消したのは梢賢しょうけんだった。首をぶんぶん振って否定する。
 
「確かに今の所、理由は見当たらないけど……」
 
 永は消極的だったが、鈴心の考えは辛辣だった。
 
眞瀬木ませきの鵺信仰は雨都に影響を及ぼしたんですよね?本家筋の藤生ふじきには及んでいないと言い切れますか?」
 
 言われた梢賢は心外だと言うように声を荒らげる。
 
「眞瀬木は今でこそ藤生の分家扱いやけど、元は成実なるみ家お抱えの呪術師やぞ!主人にそんな洗脳じみた事するかいな!」
 
 誰よりも正しいはずの里長を疑われて憤慨する梢賢の気持ちを慮って、また沈黙が流れた。

 
 
 だが、走り出してしまった想像は永の心を蝕んでいく。
 
「最初から、この村全体が僕らの敵だった……?」
 
「ハル坊!考え過ぎや!」
 
「でも、辻褄が合い過ぎて……」
 
 鈴心もそんな永の不安に引きずられていく。思考が悪い方へと向かいかけた時、蕾生の大きな声がそれを堰き止めた。
 
「お前ら落ち着け!永の悪い癖だぞ!」
 
「ライくん……」
 
「お前、今、梢賢まで疑いかけただろ」
 
「……」
 
 ピクリと肩を震わせた様を見て、梢賢も驚いて困惑した。
 
「なんやてぇ!?」
 
 それを低く冷静な声で制して、蕾生は永に向き直る。
 
「ちょっと梢賢も落ち着いてくれ。永、そもそも俺達は雨都うとが困ってるから力になりたいと思ってここに来た」
 
「うん……」
 
「それは何故だ?雨都には沢山恩と借りがあるからだろ」
 
「そう……」
 
「なのに、その雨都を疑ったら本末転倒だ。雨都だけは疑ったらダメなんだ。前提を見失うな」
 
 蕾生の真っ直ぐな言葉に、鈴心の瞳にも光が戻ってくる。
 
「そう、でした……」
 
「……ライオンくん」
 
 そうして永も肩で大きく深呼吸してから梢賢に向き直る。
 
「梢賢くん、ごめん。僕、ちょっと焦ってたよ」
 
「──ええで。それだけハル坊は真剣になってくれたっちゅーことや」
 
「あー、ほんっと僕の悪い癖だよねえ!考え過ぎて疑心暗鬼になっちゃうの!」
 
 少し大袈裟に頭を抱えて言う永の口調は、余裕を取り戻して明るくなっていた。
 
「ハル様は思慮深い方ですから」
 
「単細胞のライオンくんに救われたな」
 
「おい、お前ら」
 
 鈴心と梢賢が慰める言葉に引っかかった蕾生は遠慮なく文句を言った。少しの間笑い合った後、永は改めて両手を打ってまとめる。
 
「よし、話を戻そう!康乃さんまで疑ったのはやり過ぎだったけど、とりあえず絶対に阻止しないといけない事はわかったよね!」
 
「絹織物及びそのエネルギーが眞瀬木ませきけいの手に渡ること、ですね」
 
「まあ、儀式が無事に済めばお焚き上げするだけやからな」
 
 鈴心も梢賢も思考の方向性が決まってスッキリした顔をしていた。
 
「絶対に、焼く」
 
「ライオンくんが言うと怖いわあ」
 
 梢賢の冗談で場は和やかになったが、蕾生は一人納得のいかない顔でぶすったれた。







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...