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第五章
5-13 焦り
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「ライから聞いた限りでは、星弥の時と似ているようですね」
「銀騎の孫娘か?じゃあ、彼女を助けたって言うのは……」
わなわなと震えながら梢賢がやっとそれだけ言うと、鈴心は頷いて続ける。
「星弥も詮充郎によってキクレー因子を植えつけられたデザインベビーです。星弥の実験は早い段階で失敗だとされていました。でも、私達と関わったせいで眠っていたキクレー因子が暴走して意識不明に陥りました」
「鵺化は、心身に重いストレスを与えられた時に起こる。これはライが何度もそうなっているから確かな情報だよ。あの時の銀騎さんも重大なストレスを抱えてた」
「菫が葵に与えたストレスは、相当重いものだったでしょうから……」
永と鈴心の説明を真面目に聞いていた梢賢はさらに身を乗り出して聞いた。
「どうやってその子は助かったんや!?」
「それが……」
「なんや!」
梢賢の剣幕にたじろぎながら、永は困りながら答えた。
「なんで助かったのか、僕もわからないんだよ。その後ライくんが鵺化しちゃって大変だったから……」
「それじゃ困る!葵くんも助けてくれえ!」
「リン、あの時に起こったこと、皓矢から聞いてないの?」
永は降参するように両手をあげて鈴心に振った。すると鈴心も自信なさそう答える。
「お兄様もあの時のことは今も調査中だそうです。ただ、お兄様の想像では、ライが鵺化したからではないかと」
「どういうこと?」
「星弥の中のキクレー因子は厳密には鵺由来ではなく、人工のレプリカに過ぎません。詮充郎がその活発化を図りましたが、時同じくしてオリジナルが顕現したので、レプリカの出る幕がなくなったのでは、とお兄様は仰っていました」
その仮説を噛み締めながら聞いた永は首を捻っていた。
「その理屈だと、葵くんには当てはまらないね」
「はい。雨辺のキクレー因子は何代も遺伝を経ているとはいえ、鵺由来のオリジナルですから。後は、保有するキクレー因子が少量であることを祈るしか」
「既に活発化しちまったから倒れたんだろ?」
蕾生の質問にも鈴心は予想で答えるしかなかった。
「でも少量であれば鎮静化も容易いはずです、多分……」
それを聞いて梢賢はますます青ざめた。
「少量やないかもしれん」
「──覚醒、か」
蕾生が続けると、永も鈴心もキョトンとしていた。
「何それ?」
「菫さんが言ってたんや。葵くんの使徒としての覚醒が近いって」
そこまで聞いて永もやっとこれまでの情報を繋げて導き出すことができた。
「──まさか、薬に?」
「それでキクレー因子を摂取していた……?」
鈴心も信じられない、と言うような顔をしている。そこまで考えが及ばなかった蕾生は一気に怒りが湧いた。
「そんな酷いことをしてたってのか?」
「大変や!葵くんが鵺になってまう!」
梢賢は焦り続けるが、永は半信半疑だった。
「いや、でも、それは……どうなんだろう?」
鈴心も頷きながら困惑している。
「確かに。ライの鵺化に私達は九百年以上骨を折ってきたのに、そんなにポンポン鵺化されても……」
「感情としては納得いかないよね。銀騎さんの時だって、あのまま本当に鵺化したのか今となってはわからないし」
二人が困惑するのは当然だった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
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「銀騎の孫娘か?じゃあ、彼女を助けたって言うのは……」
わなわなと震えながら梢賢がやっとそれだけ言うと、鈴心は頷いて続ける。
「星弥も詮充郎によってキクレー因子を植えつけられたデザインベビーです。星弥の実験は早い段階で失敗だとされていました。でも、私達と関わったせいで眠っていたキクレー因子が暴走して意識不明に陥りました」
「鵺化は、心身に重いストレスを与えられた時に起こる。これはライが何度もそうなっているから確かな情報だよ。あの時の銀騎さんも重大なストレスを抱えてた」
「菫が葵に与えたストレスは、相当重いものだったでしょうから……」
永と鈴心の説明を真面目に聞いていた梢賢はさらに身を乗り出して聞いた。
「どうやってその子は助かったんや!?」
「それが……」
「なんや!」
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「なんで助かったのか、僕もわからないんだよ。その後ライくんが鵺化しちゃって大変だったから……」
「それじゃ困る!葵くんも助けてくれえ!」
「リン、あの時に起こったこと、皓矢から聞いてないの?」
永は降参するように両手をあげて鈴心に振った。すると鈴心も自信なさそう答える。
「お兄様もあの時のことは今も調査中だそうです。ただ、お兄様の想像では、ライが鵺化したからではないかと」
「どういうこと?」
「星弥の中のキクレー因子は厳密には鵺由来ではなく、人工のレプリカに過ぎません。詮充郎がその活発化を図りましたが、時同じくしてオリジナルが顕現したので、レプリカの出る幕がなくなったのでは、とお兄様は仰っていました」
その仮説を噛み締めながら聞いた永は首を捻っていた。
「その理屈だと、葵くんには当てはまらないね」
「はい。雨辺のキクレー因子は何代も遺伝を経ているとはいえ、鵺由来のオリジナルですから。後は、保有するキクレー因子が少量であることを祈るしか」
「既に活発化しちまったから倒れたんだろ?」
蕾生の質問にも鈴心は予想で答えるしかなかった。
「でも少量であれば鎮静化も容易いはずです、多分……」
それを聞いて梢賢はますます青ざめた。
「少量やないかもしれん」
「──覚醒、か」
蕾生が続けると、永も鈴心もキョトンとしていた。
「何それ?」
「菫さんが言ってたんや。葵くんの使徒としての覚醒が近いって」
そこまで聞いて永もやっとこれまでの情報を繋げて導き出すことができた。
「──まさか、薬に?」
「それでキクレー因子を摂取していた……?」
鈴心も信じられない、と言うような顔をしている。そこまで考えが及ばなかった蕾生は一気に怒りが湧いた。
「そんな酷いことをしてたってのか?」
「大変や!葵くんが鵺になってまう!」
梢賢は焦り続けるが、永は半信半疑だった。
「いや、でも、それは……どうなんだろう?」
鈴心も頷きながら困惑している。
「確かに。ライの鵺化に私達は九百年以上骨を折ってきたのに、そんなにポンポン鵺化されても……」
「感情としては納得いかないよね。銀騎さんの時だって、あのまま本当に鵺化したのか今となってはわからないし」
二人が困惑するのは当然だった。
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