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第五章
5-11 RPG⑧葵の異変
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「?」
「どうしたのかしら……」
呼んでも応じない葵の様子に、仕方なく菫は立ち上がり部屋へと向かう。
蕾生はその時嫌な予感がした。葵に対して抱いていた不安がより大きくなる。
「葵!葵!!」
すぐに尋常でない声で菫が息子を呼ぶのが聞こえた。異変を悟った梢賢と蕾生も立ち上がった。
「なんや?」
「行くぞ」
急ぎ葵の部屋へ向かうと、入口で菫が半狂乱で叫んでいた。
「葵!葵!どうしたの、葵!」
葵は床に突っ伏して倒れており、菫が肩を揺すっても何も答えなかった。
「……」
「藍、何があった?」
部屋の隅で膝を抱えて震えている藍の姿を確認した蕾生が聞くと、藍は悔しそうに唇を噛んだ後感情を押し殺して言った。
「葵はもう限界だよ。疲れ果ててる。このままじゃ──」
「きゅ、救急車!?」
「やめてちょうだい!そんなもの呼ばないで!!」
慌てた梢賢が口走ると、菫は恐ろしい顔で叫んだ。
「でも……」
「有宇儀様に連絡するわ。葵を見ていただくなら有宇儀様しかいない」
倒れている葵の体を抱きしめて菫は呟くようにそればかり言っていた。菫の腕の中で意識を失った葵の顔が垣間見えた。顔色は白かったが、苦しんでいる様子はなく静かに眠っているようにも見えた。
「貴方達、悪いけれど今日は帰ってくれる?」
「いや、でも……」
蕾生は葵の姿から目を離せなかった。葵の姿はつい最近体験した出来事と重なる。
「ライオンくん、帰るで」
「いいのか?」
「出直しや。藍ちゃん、またな」
二人にはここでできることはなく、伊藤を呼ぶと言われてはここにいることすら危険になる。梢賢は冷たいようだったが、冷静な態度だった。
しかし、藍は去っていく二人を睨み続けている。それでも梢賢は背を向けて玄関へ向かった。蕾生は後ろ髪引かれる思いだったが、梢賢に従った。
「あかんなあ……一刻の猶予もないで、ありゃ」
マンションを出てすぐ、梢賢が不安な顔を隠さずに呟いた。
「じゃあなんで出てきちまったんだよ?」
「伊藤を呼ぶなんて言われたら、あそこにはおれへんやろ。オレ達はまだなんも対策をたてとらん」
「けどよ……あの葵の姿、俺、見たことある」
蕾生は彼女のことを思い出していた。
「何やて?」
「キクレー因子が暴走した時の銀騎だ……」
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
「どうしたのかしら……」
呼んでも応じない葵の様子に、仕方なく菫は立ち上がり部屋へと向かう。
蕾生はその時嫌な予感がした。葵に対して抱いていた不安がより大きくなる。
「葵!葵!!」
すぐに尋常でない声で菫が息子を呼ぶのが聞こえた。異変を悟った梢賢と蕾生も立ち上がった。
「なんや?」
「行くぞ」
急ぎ葵の部屋へ向かうと、入口で菫が半狂乱で叫んでいた。
「葵!葵!どうしたの、葵!」
葵は床に突っ伏して倒れており、菫が肩を揺すっても何も答えなかった。
「……」
「藍、何があった?」
部屋の隅で膝を抱えて震えている藍の姿を確認した蕾生が聞くと、藍は悔しそうに唇を噛んだ後感情を押し殺して言った。
「葵はもう限界だよ。疲れ果ててる。このままじゃ──」
「きゅ、救急車!?」
「やめてちょうだい!そんなもの呼ばないで!!」
慌てた梢賢が口走ると、菫は恐ろしい顔で叫んだ。
「でも……」
「有宇儀様に連絡するわ。葵を見ていただくなら有宇儀様しかいない」
倒れている葵の体を抱きしめて菫は呟くようにそればかり言っていた。菫の腕の中で意識を失った葵の顔が垣間見えた。顔色は白かったが、苦しんでいる様子はなく静かに眠っているようにも見えた。
「貴方達、悪いけれど今日は帰ってくれる?」
「いや、でも……」
蕾生は葵の姿から目を離せなかった。葵の姿はつい最近体験した出来事と重なる。
「ライオンくん、帰るで」
「いいのか?」
「出直しや。藍ちゃん、またな」
二人にはここでできることはなく、伊藤を呼ぶと言われてはここにいることすら危険になる。梢賢は冷たいようだったが、冷静な態度だった。
しかし、藍は去っていく二人を睨み続けている。それでも梢賢は背を向けて玄関へ向かった。蕾生は後ろ髪引かれる思いだったが、梢賢に従った。
「あかんなあ……一刻の猶予もないで、ありゃ」
マンションを出てすぐ、梢賢が不安な顔を隠さずに呟いた。
「じゃあなんで出てきちまったんだよ?」
「伊藤を呼ぶなんて言われたら、あそこにはおれへんやろ。オレ達はまだなんも対策をたてとらん」
「けどよ……あの葵の姿、俺、見たことある」
蕾生は彼女のことを思い出していた。
「何やて?」
「キクレー因子が暴走した時の銀騎だ……」
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