転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第五章

5-9 RPG⑦宣戦布告

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「ねえ、兄さん。兄さんが疑われてるって何?」
 
「ああ、そこの所をはっきりさせないとね。ですから、私が雨辺うべを洗脳して、ぬえに関する危険思想を広めているなんてとんでもないことです」
 
「ええっ!?」
 
 瑠深るみはそれを聞いて驚愕と嫌悪を表していた。
 はるかはここまで好きに語らせるべきではなかったと後悔した。けいがした話は、眞瀬木ませきの立場にある人間が聞けば筋が通っている。
 
「あんた達、そんなこと考えてたの!?馬鹿馬鹿しい!今の話でわかったでしょ?眞瀬木だって雨辺の被害者なのよ!うちの秘石を奪われたんだから!」
 
 瑠深はヒステリックに叫んだ。懐柔できたような気がしていたのは間違いだった。彼女は紛れもなく眞瀬木の人間だ。
 
「お話は、わかりました。ですが私達は貴方を疑ってはいません」
 
「おや、そうですか」
 
 それまで黙っていた鈴心すずねは、珪の方を強気に睨んで反撃の狼煙を上げる。
 
「貴方が何らかの形で雨辺に関わっていることは確信しています」
 
「──」
 
 その言葉に、珪は眉をピクリと震わせた。
 危険を感じた永は鈴心の前に出て庇い、同じ様に睨みつける。
 
「若さゆえに妄想が止まらないと見える。気高き鵺人ぬえびとがそんなことではいけませんね」
 
「お話、ありがとうございました。僕らはこれで失礼します」
 
 宣戦布告をしてしまった以上、ここに長居は禁物だ。永は鈴心の手を引いて立ち去ろうとした。その背に、珪が穏やかな声で話しかける。
 
「ひとつ、提案なのですが──」
 
「は?」
 
「君達は鵺の呪いを解くために行動しているのでしょう?私の力が役に立つと思うんです」
 
「え?」
 
 思いもよらない言葉に、永は思わず振り向いた。
 珪はにこやかに笑っている。
 
「どうでしょう、今後は私が梢賢しょうけんと共に君達の応援をさせて頂くのは?」
 
「貴方が、ですか?」
 
「ええ。銀騎しらきの御当主は今病床なのでしょう?私でも銀騎に劣らない支援ができますよ。例えば──」
 
 詮充郎せんじゅうろうの現況を知っていることをこれ見よがしに披露した後、珪は更に挑戦的に笑った。
 
「式神を使って全国から情報を集めたり……ね」
 
 鈴心は珪のマウント取りに辟易していた。永がどう返答するのか不安になる。そんな視線を受け止めた後、永もにっこり笑って言った。
 
「お断りします」
 
「──」
 
 断られる想像をしていなかったのか、珪の顔は微笑んだまま歪んでいった。
 
「前にも言いましたが、僕らはすでに銀騎と和解しました。付き合いだけなら、あちらとは何百年単位だ。知り合ったばかりの貴方に僕らの情報を預けるのは──不安です」
 
 キッパリと断る永の後ろで鈴心も珪を睨む。永の毅然とした態度で勇気づけられたのだ。そんな二人を可哀想な者でも見る様な目で、珪は皮肉を投げつける。
 
「そうですか。やはり選ばれた人は言う事が違う。ただの村人はどんなに憧れても勇者のパーティには入れないんですねえ」
 
「僕らは勇者なんかじゃない。貴方が勝手に英雄視するのは結構ですけど、押し付けないでください」
 
「……」
 
 永もとうとう腹に据えかねて反論した後、最後だからと更に付け足した。
 
「失礼します──あ」
 
「?」
 
「勇者にだって選ぶ権利はありますよ。魔王に通用する力もない村人について来られても、却って迷惑です」
 
「──!」
 
 正に捨て台詞を吐いて、永は鈴心を連れて荒屋を出ていった。
 
「兄さん……?」
 
 後に残された珪は、妹の瑠深ですら見たことがないほど恐ろしい顔で立ち尽くす。
 八雲はそんな珪の様子を見て複雑な不安を持て余していた。







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