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第五章
5-9 RPG⑦宣戦布告
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「ねえ、兄さん。兄さんが疑われてるって何?」
「ああ、そこの所をはっきりさせないとね。ですから、私が雨辺を洗脳して、鵺に関する危険思想を広めているなんてとんでもないことです」
「ええっ!?」
瑠深はそれを聞いて驚愕と嫌悪を表していた。
永はここまで好きに語らせるべきではなかったと後悔した。珪がした話は、眞瀬木の立場にある人間が聞けば筋が通っている。
「あんた達、そんなこと考えてたの!?馬鹿馬鹿しい!今の話でわかったでしょ?眞瀬木だって雨辺の被害者なのよ!うちの秘石を奪われたんだから!」
瑠深はヒステリックに叫んだ。懐柔できたような気がしていたのは間違いだった。彼女は紛れもなく眞瀬木の人間だ。
「お話は、わかりました。ですが私達は貴方を疑ってはいません」
「おや、そうですか」
それまで黙っていた鈴心は、珪の方を強気に睨んで反撃の狼煙を上げる。
「貴方が何らかの形で雨辺に関わっていることは確信しています」
「──」
その言葉に、珪は眉をピクリと震わせた。
危険を感じた永は鈴心の前に出て庇い、同じ様に睨みつける。
「若さゆえに妄想が止まらないと見える。気高き鵺人がそんなことではいけませんね」
「お話、ありがとうございました。僕らはこれで失礼します」
宣戦布告をしてしまった以上、ここに長居は禁物だ。永は鈴心の手を引いて立ち去ろうとした。その背に、珪が穏やかな声で話しかける。
「ひとつ、提案なのですが──」
「は?」
「君達は鵺の呪いを解くために行動しているのでしょう?私の力が役に立つと思うんです」
「え?」
思いもよらない言葉に、永は思わず振り向いた。
珪はにこやかに笑っている。
「どうでしょう、今後は私が梢賢と共に君達の応援をさせて頂くのは?」
「貴方が、ですか?」
「ええ。銀騎の御当主は今病床なのでしょう?私でも銀騎に劣らない支援ができますよ。例えば──」
詮充郎の現況を知っていることをこれ見よがしに披露した後、珪は更に挑戦的に笑った。
「式神を使って全国から情報を集めたり……ね」
鈴心は珪のマウント取りに辟易していた。永がどう返答するのか不安になる。そんな視線を受け止めた後、永もにっこり笑って言った。
「お断りします」
「──」
断られる想像をしていなかったのか、珪の顔は微笑んだまま歪んでいった。
「前にも言いましたが、僕らはすでに銀騎と和解しました。付き合いだけなら、あちらとは何百年単位だ。知り合ったばかりの貴方に僕らの情報を預けるのは──不安です」
キッパリと断る永の後ろで鈴心も珪を睨む。永の毅然とした態度で勇気づけられたのだ。そんな二人を可哀想な者でも見る様な目で、珪は皮肉を投げつける。
「そうですか。やはり選ばれた人は言う事が違う。ただの村人はどんなに憧れても勇者のパーティには入れないんですねえ」
「僕らは勇者なんかじゃない。貴方が勝手に英雄視するのは結構ですけど、押し付けないでください」
「……」
永もとうとう腹に据えかねて反論した後、最後だからと更に付け足した。
「失礼します──あ」
「?」
「勇者にだって選ぶ権利はありますよ。魔王に通用する力もない村人について来られても、却って迷惑です」
「──!」
正に捨て台詞を吐いて、永は鈴心を連れて荒屋を出ていった。
「兄さん……?」
後に残された珪は、妹の瑠深ですら見たことがないほど恐ろしい顔で立ち尽くす。
八雲はそんな珪の様子を見て複雑な不安を持て余していた。
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「ああ、そこの所をはっきりさせないとね。ですから、私が雨辺を洗脳して、鵺に関する危険思想を広めているなんてとんでもないことです」
「ええっ!?」
瑠深はそれを聞いて驚愕と嫌悪を表していた。
永はここまで好きに語らせるべきではなかったと後悔した。珪がした話は、眞瀬木の立場にある人間が聞けば筋が通っている。
「あんた達、そんなこと考えてたの!?馬鹿馬鹿しい!今の話でわかったでしょ?眞瀬木だって雨辺の被害者なのよ!うちの秘石を奪われたんだから!」
瑠深はヒステリックに叫んだ。懐柔できたような気がしていたのは間違いだった。彼女は紛れもなく眞瀬木の人間だ。
「お話は、わかりました。ですが私達は貴方を疑ってはいません」
「おや、そうですか」
それまで黙っていた鈴心は、珪の方を強気に睨んで反撃の狼煙を上げる。
「貴方が何らかの形で雨辺に関わっていることは確信しています」
「──」
その言葉に、珪は眉をピクリと震わせた。
危険を感じた永は鈴心の前に出て庇い、同じ様に睨みつける。
「若さゆえに妄想が止まらないと見える。気高き鵺人がそんなことではいけませんね」
「お話、ありがとうございました。僕らはこれで失礼します」
宣戦布告をしてしまった以上、ここに長居は禁物だ。永は鈴心の手を引いて立ち去ろうとした。その背に、珪が穏やかな声で話しかける。
「ひとつ、提案なのですが──」
「は?」
「君達は鵺の呪いを解くために行動しているのでしょう?私の力が役に立つと思うんです」
「え?」
思いもよらない言葉に、永は思わず振り向いた。
珪はにこやかに笑っている。
「どうでしょう、今後は私が梢賢と共に君達の応援をさせて頂くのは?」
「貴方が、ですか?」
「ええ。銀騎の御当主は今病床なのでしょう?私でも銀騎に劣らない支援ができますよ。例えば──」
詮充郎の現況を知っていることをこれ見よがしに披露した後、珪は更に挑戦的に笑った。
「式神を使って全国から情報を集めたり……ね」
鈴心は珪のマウント取りに辟易していた。永がどう返答するのか不安になる。そんな視線を受け止めた後、永もにっこり笑って言った。
「お断りします」
「──」
断られる想像をしていなかったのか、珪の顔は微笑んだまま歪んでいった。
「前にも言いましたが、僕らはすでに銀騎と和解しました。付き合いだけなら、あちらとは何百年単位だ。知り合ったばかりの貴方に僕らの情報を預けるのは──不安です」
キッパリと断る永の後ろで鈴心も珪を睨む。永の毅然とした態度で勇気づけられたのだ。そんな二人を可哀想な者でも見る様な目で、珪は皮肉を投げつける。
「そうですか。やはり選ばれた人は言う事が違う。ただの村人はどんなに憧れても勇者のパーティには入れないんですねえ」
「僕らは勇者なんかじゃない。貴方が勝手に英雄視するのは結構ですけど、押し付けないでください」
「……」
永もとうとう腹に据えかねて反論した後、最後だからと更に付け足した。
「失礼します──あ」
「?」
「勇者にだって選ぶ権利はありますよ。魔王に通用する力もない村人について来られても、却って迷惑です」
「──!」
正に捨て台詞を吐いて、永は鈴心を連れて荒屋を出ていった。
「兄さん……?」
後に残された珪は、妹の瑠深ですら見たことがないほど恐ろしい顔で立ち尽くす。
八雲はそんな珪の様子を見て複雑な不安を持て余していた。
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