転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第五章

5-8 RPG⑦傍若無人

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「おい、けい。いいのか?」
 
「構いませんよ、身内の恥をお話することになりますが、今の僕にかけられた疑いを晴らすためですから」
 
 八雲やくもの言葉を軽くあしらって珪は少し自嘲気味に笑う。
 
「疑いって?」
 
 瑠深るみの質問を無視して珪はまた饒舌に語った。
 
「その者は銀騎しらきで修行を重ねるうちに、ぬえそのものに魅入られてしまったんです。そしてとうとう銀騎から鵺の遺骸の一部を持ち出して帰ってきた」
 
 瑠深は聞き入れてもらえなかったことに落ち込んでいたが、構わず珪は続ける。
 
「彼は眞瀬木ませきの中にいながら、鵺を崇拝するようになった。持ち帰った遺骸を依代にね。そして秘密裏に仲間を増やしていったんです」
 
 そこまで言うと、沈黙を守っている八雲に向かって珪は言う。
 
「おじ様、あれを見せて差し上げてください」
 
「それは、墨砥ぼくと兄さんの許可がなければ……」
 
「いやだなあ、何をそんなに怯えるんです?あれにはもう何の力も入っていないことはおじ様自身で太鼓判を押したでしょう?」
 
「それはそうだが……」
 
 躊躇ってその場を動かない八雲をおいて、珪は作業場の角で黒い布を被っている何かまで歩みを進めた。
 
「なんてことない、普通の仏像ですよ」
 
 その布を珪が取り払うと、二メートルほどの木製の観音像とおぼしきものが姿を現した。
 はるか鈴心すずねはそれに目を奪われていた。首から下はごくありふれた仏像に見える。問題はその頭部だ。一見穏やかな、人に似せた顔をしているが、その目元が大きく欠損していた。何かをくり抜いた様にも見える。
 
「当時の八雲が彫ったものです。今ではただの木偶人形ですよ。何の魂も入っていない」
 
「以前は何かが入っていたんですか?」
 
 永が聞くと、珪は待ち構えていたようにスラスラと像の成り立ちを説明する。
 
「ええ。この像の瞳。ここに眞瀬木製の秘石がおさめられていました。かつて銀騎から持ち出した鵺の遺骸と、雨都からお借りした慧心弓から鵺の妖気を拝借して、それらの妖気を石におさめて仏像の瞳にしたんです」
 
「──!」
 
 珪は簡単に言ったが、その処置が常識外れの高度な技術だとわかる鈴心は言葉を失うほど驚いていた。それで永の方が落ち着いて感想を述べる。
 
「言うなれば、仮想の鵺像というわけですね」
 
「そうです。当時はここまでの物を作って鵺を崇拝していた。そしてその余波が雨都うとに及んでしまった」
 
「まさか、それが──」
 
「厄介なのは、雨都側の鵺信者は暴走状態だったことです。我々は呪術の知識がありますから、節度を持ってひっそりと鵺を崇めていた。だが、素人はその匙加減がわからない」
 
 永の言葉を最後まで聞かずに、珪は滑るように語っていく。
 
「ある時、暴走した雨都の鵺信者がこの仏像の瞳を奪って里を出ていったんです。それが今の雨辺うべ家です」
 
「……」
 
「崇拝する依代を失った眞瀬木の鵺信者は次第に減っていきました。雨辺の件があって、雨都では更に鵺を毛嫌いするようになった。元はこちらの落ち度ですから、我々も雨都を立てて鵺を否定している──というのが現代の話です」
 
「なるほど。しかし、現代の今でも個人的に鵺に興味を持つことは禁止されてはいない……」
 
 永が改めて言うと、珪はそこでやっと笑って言った。
 
「正しく理解していただけたようで良かった。先ほど名前が上がった亡き伯父の灰砥かいとも個人的に鵺を研究していただけ。──私も同じです」







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