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第四章
4-21 あぶれた当主候補
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「永。もうやめてやれよ。梢賢が可哀そうだ」
「ライオンくん!」
永の言いたいことが雰囲気でわかる蕾生は、どんどん困っていく梢賢を見かねて嗜めた。すると梢賢は顔を上げて蕾生に助けを求める。
「僕もねえ、梢賢くんの気持ちは尊重したいんだけどさあ……」
蕾生に肩を持たれてはこれ以上梢賢を責められず、永も困り始めた。そこに鈴心が一石を投じる。
「一縷の望みはあります」
「ん?」
「瑠深さんは鵺信者が誰か聞いた時、「もういない」と言いました。梢賢、心当たりは?」
「もういない、って──あ」
問われた梢賢は何かを思い出して小さく叫んだ。
「やはり、いたんですね?」
「あの人のことかなあ……?」
「誰?」
永が聞くと、梢賢は少し躊躇いながら話し始める。
「……もう十年も前の話や。眞瀬木に灰砥っちゅー人がおった。墨砥のおっちゃんの兄貴や」
「つまり、瑠深さんの伯父さんですか」
「そうや。その頃、眞瀬木は代替わりの時でな。オレら部外者は長男の灰砥のおっちゃんなんやろうと思ってた」
「けど、実際に当主になったのは弟の方……」
それは何かある、と永は瞬時に思う。少し考え込んだ隙に蕾生が直接的な質問をした。
「その人は今どこにいるんだ?」
「死んだ」
「!」
梢賢の短い答えに三人とも驚いた。
「けど、なんで死んだのかわかってへんねん。葬式はもちろんうちの寺でやってんけど、参列したのは眞瀬木と藤生だけやった」
そこまで聞くと鈴心と永も口々に考えを述べ始める。
「眞瀬木の当主は今では鵺否定が基本だと瑠深さんが言っていましたよね……」
「長男が継げなかったのは、鵺信者だったから……?」
「それなら「もういない」の意味も通ります」
しかし蕾生の言葉が事実を捉えていた。
「でももう死んでるなら関係ねえだろ」
「──生きてるのかもしれん」
「ええ?」
永が訝しんで聞くと、梢賢も眉を寄せて神妙な面持ちで言った。
「オレは灰砥のおっちゃんの葬式で、死に顔を見てへん。式中に棺が開けられることもなかった」
「まさか……」
「灰砥のおっちゃんが何処かで生きてて、菫さんを洗脳してる──?」
ここへ来て新しい人物の登場と途方もない想像に、蕾生も永も鈴心も言葉を失った。
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「ライオンくん!」
永の言いたいことが雰囲気でわかる蕾生は、どんどん困っていく梢賢を見かねて嗜めた。すると梢賢は顔を上げて蕾生に助けを求める。
「僕もねえ、梢賢くんの気持ちは尊重したいんだけどさあ……」
蕾生に肩を持たれてはこれ以上梢賢を責められず、永も困り始めた。そこに鈴心が一石を投じる。
「一縷の望みはあります」
「ん?」
「瑠深さんは鵺信者が誰か聞いた時、「もういない」と言いました。梢賢、心当たりは?」
「もういない、って──あ」
問われた梢賢は何かを思い出して小さく叫んだ。
「やはり、いたんですね?」
「あの人のことかなあ……?」
「誰?」
永が聞くと、梢賢は少し躊躇いながら話し始める。
「……もう十年も前の話や。眞瀬木に灰砥っちゅー人がおった。墨砥のおっちゃんの兄貴や」
「つまり、瑠深さんの伯父さんですか」
「そうや。その頃、眞瀬木は代替わりの時でな。オレら部外者は長男の灰砥のおっちゃんなんやろうと思ってた」
「けど、実際に当主になったのは弟の方……」
それは何かある、と永は瞬時に思う。少し考え込んだ隙に蕾生が直接的な質問をした。
「その人は今どこにいるんだ?」
「死んだ」
「!」
梢賢の短い答えに三人とも驚いた。
「けど、なんで死んだのかわかってへんねん。葬式はもちろんうちの寺でやってんけど、参列したのは眞瀬木と藤生だけやった」
そこまで聞くと鈴心と永も口々に考えを述べ始める。
「眞瀬木の当主は今では鵺否定が基本だと瑠深さんが言っていましたよね……」
「長男が継げなかったのは、鵺信者だったから……?」
「それなら「もういない」の意味も通ります」
しかし蕾生の言葉が事実を捉えていた。
「でももう死んでるなら関係ねえだろ」
「──生きてるのかもしれん」
「ええ?」
永が訝しんで聞くと、梢賢も眉を寄せて神妙な面持ちで言った。
「オレは灰砥のおっちゃんの葬式で、死に顔を見てへん。式中に棺が開けられることもなかった」
「まさか……」
「灰砥のおっちゃんが何処かで生きてて、菫さんを洗脳してる──?」
ここへ来て新しい人物の登場と途方もない想像に、蕾生も永も鈴心も言葉を失った。
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