転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
上 下
102 / 174
第四章

4-9 RPG③眞瀬木瑠深

しおりを挟む
「うーん、勢いがついて思わず来ちゃったけど……」
 
梢賢しょうけんがいないのに、会ってくれるでしょうか?」
 
「その前に玄関に行く勇気も出ないんだけど」
 
「た、確かに……」
 
 はるか鈴心すずね眞瀬木ませき家邸宅の前で立ち往生していた。
 雨都うとの蔵から出た後、優杞ゆうこから昼食に呼ばれたので二人は急いでそれを食べてから、勢いのままに眞瀬木家に向かってしまった。
 しかし、いざ屋敷を目の当たりにするとその静けさから徐々に頭が冷えて今に至る。
 
「何やってんの?あんたら」
 
 不意に背中から呼びかけられて、永も鈴心も心臓が飛び上がる思いだった。
 
「わあ!」
 
瑠深るみさん!」
 
「あのねえ、ここ、あたしンチ。驚かれる筋合いがないんだけど」
 
 瑠深は怪訝に眉を顰めて二人に毒づいた。永は呼吸を整えてから普段の調子を取り戻そうと努める。
 
「ああ、ごめんなさい。お出かけだったんですね」
 
「まあね。あんた達だけ?あのバカは?」
 
「梢賢くんなら今日はうちのライくんとツーリングです」
 
 永が答えると瑠深は薄く笑った。
 
「へえ、ウケる。あの二人の見てくれなら暴走族と間違われて逮捕されちゃうんじゃない?」
 
「さすがに自転車ではそこまでされはしないかと」
 
 鈴心がそう答えると、瑠深はまるでスベッた芸人のような気まずさで言った。
 
「──冗談よ、真面目な子だね、あんた」
 
「そうですか。すみません」
 
「……なんか調子狂うわ。それで?何か用?」
 
「えーっと、ちょっと調べ物をしていまして」
 
 どこから話したものか、永が目を泳がせていると瑠深が先を制した。
 
「それは知ってる。雨都にある文献でしょ。でもほとんど盗まれたって聞いたけど」
 
「はい、ですから僕らも困っちゃってて。辛うじて残ってた記録を読んだら眞瀬木の名前が出てきたので──」
 
「ふうん。そりゃ名前くらいは出てくるでしょ。里の仲間なんだから」
 
 自然に言ってのけた瑠深の言葉尻を永は反芻した。そう思っているのは眞瀬木では瑠深だけかもしれない、と思ったからだ。
 
「仲間、ですか」
 
「何よ」
 
「いいえ、別に」

 永と瑠深の間に不穏な雰囲気が漂い始めたのを察知した鈴心は急いで話題を変えた。
 
「あの、瑠深さん。慧心けいしんという名の弓をご存知ですか?」
 
「けいしん……?さあ、知らないな」
 
「では、雨都うとかえでについてはどれくらいご存知ですか?」
 
 すると瑠深は少し意外そうな顔をして答えた。どうして聞かれたのかわからない、という顔である。
 
「ううん?ああ……例の。どれくらいって言われても名前ぐらいしか。だってまゆみばあちゃんの妹でしょ?随分昔に亡くなった」
 
「そうですか……」







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです

柚木ゆず
ファンタジー
 優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。  ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。  ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

処理中です...