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第四章
4-9 RPG③眞瀬木瑠深
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「うーん、勢いがついて思わず来ちゃったけど……」
「梢賢がいないのに、会ってくれるでしょうか?」
「その前に玄関に行く勇気も出ないんだけど」
「た、確かに……」
永と鈴心は眞瀬木家邸宅の前で立ち往生していた。
雨都の蔵から出た後、優杞から昼食に呼ばれたので二人は急いでそれを食べてから、勢いのままに眞瀬木家に向かってしまった。
しかし、いざ屋敷を目の当たりにするとその静けさから徐々に頭が冷えて今に至る。
「何やってんの?あんたら」
不意に背中から呼びかけられて、永も鈴心も心臓が飛び上がる思いだった。
「わあ!」
「瑠深さん!」
「あのねえ、ここ、あたしンチ。驚かれる筋合いがないんだけど」
瑠深は怪訝に眉を顰めて二人に毒づいた。永は呼吸を整えてから普段の調子を取り戻そうと努める。
「ああ、ごめんなさい。お出かけだったんですね」
「まあね。あんた達だけ?あのバカは?」
「梢賢くんなら今日はうちのライくんとツーリングです」
永が答えると瑠深は薄く笑った。
「へえ、ウケる。あの二人の見てくれなら暴走族と間違われて逮捕されちゃうんじゃない?」
「さすがに自転車ではそこまでされはしないかと」
鈴心がそう答えると、瑠深はまるでスベッた芸人のような気まずさで言った。
「──冗談よ、真面目な子だね、あんた」
「そうですか。すみません」
「……なんか調子狂うわ。それで?何か用?」
「えーっと、ちょっと調べ物をしていまして」
どこから話したものか、永が目を泳がせていると瑠深が先を制した。
「それは知ってる。雨都にある文献でしょ。でもほとんど盗まれたって聞いたけど」
「はい、ですから僕らも困っちゃってて。辛うじて残ってた記録を読んだら眞瀬木の名前が出てきたので──」
「ふうん。そりゃ名前くらいは出てくるでしょ。里の仲間なんだから」
自然に言ってのけた瑠深の言葉尻を永は反芻した。そう思っているのは眞瀬木では瑠深だけかもしれない、と思ったからだ。
「仲間、ですか」
「何よ」
「いいえ、別に」
永と瑠深の間に不穏な雰囲気が漂い始めたのを察知した鈴心は急いで話題を変えた。
「あの、瑠深さん。慧心という名の弓をご存知ですか?」
「けいしん……?さあ、知らないな」
「では、雨都楓についてはどれくらいご存知ですか?」
すると瑠深は少し意外そうな顔をして答えた。どうして聞かれたのかわからない、という顔である。
「ううん?ああ……例の。どれくらいって言われても名前ぐらいしか。だって檀ばあちゃんの妹でしょ?随分昔に亡くなった」
「そうですか……」
===============================
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「梢賢がいないのに、会ってくれるでしょうか?」
「その前に玄関に行く勇気も出ないんだけど」
「た、確かに……」
永と鈴心は眞瀬木家邸宅の前で立ち往生していた。
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しかし、いざ屋敷を目の当たりにするとその静けさから徐々に頭が冷えて今に至る。
「何やってんの?あんたら」
不意に背中から呼びかけられて、永も鈴心も心臓が飛び上がる思いだった。
「わあ!」
「瑠深さん!」
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瑠深は怪訝に眉を顰めて二人に毒づいた。永は呼吸を整えてから普段の調子を取り戻そうと努める。
「ああ、ごめんなさい。お出かけだったんですね」
「まあね。あんた達だけ?あのバカは?」
「梢賢くんなら今日はうちのライくんとツーリングです」
永が答えると瑠深は薄く笑った。
「へえ、ウケる。あの二人の見てくれなら暴走族と間違われて逮捕されちゃうんじゃない?」
「さすがに自転車ではそこまでされはしないかと」
鈴心がそう答えると、瑠深はまるでスベッた芸人のような気まずさで言った。
「──冗談よ、真面目な子だね、あんた」
「そうですか。すみません」
「……なんか調子狂うわ。それで?何か用?」
「えーっと、ちょっと調べ物をしていまして」
どこから話したものか、永が目を泳がせていると瑠深が先を制した。
「それは知ってる。雨都にある文献でしょ。でもほとんど盗まれたって聞いたけど」
「はい、ですから僕らも困っちゃってて。辛うじて残ってた記録を読んだら眞瀬木の名前が出てきたので──」
「ふうん。そりゃ名前くらいは出てくるでしょ。里の仲間なんだから」
自然に言ってのけた瑠深の言葉尻を永は反芻した。そう思っているのは眞瀬木では瑠深だけかもしれない、と思ったからだ。
「仲間、ですか」
「何よ」
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「けいしん……?さあ、知らないな」
「では、雨都楓についてはどれくらいご存知ですか?」
すると瑠深は少し意外そうな顔をして答えた。どうして聞かれたのかわからない、という顔である。
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「そうですか……」
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