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第四章
4-5 RPG②雨都柊達
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麓紫村の雨都家では、永が祭用の針と糸でレースを編んでいた。
「はあ……疲れた」
三十分ほど経って永は手を止める。横で見ていた鈴心は心配そうに顔を曇らせた。
「お休みください、ハル様」
「うん。吸い取られるってわかってやってるから、余計気持ち悪いね」
「横になりますか?」
そう聞かれて、膝枕ならいいなあと思いかけた己を律して永は首を振った。二人きりだと邪念が入ってしまう。疲れているせいだ。
「──いや、そこまでは大丈夫。気分転換に聞き込み行こうか」
「御意。柊達氏の所ですね」
「うん。どこにいるかなーっと」
それなりに広い寺の中を少し歩いていると、雨都柊達は縁側で新聞を読んでいた。
「お時間、あります?」
永がひょっこり顔を覗き込むと、柊達はあからさまに迷惑がって鋭い視線を投げた。
「何か用か」
「ええーっと、少しお聞きしたいことがあって」
「最初に言ったと思うが、私は息子のように直接協力はしない」
「そういうスタンスなのは承知しているんですが、文献を見ることができなくなったし、康乃様が昨日おっしゃいましたよ?教えてもらえって」
永が抜いたのは伝家の宝刀「康乃様」である。この村ではこの三文字ほど効果がある言葉は他にない。永はそれを充分学んでいた。
「むむむ……いたしかたない。モノによるが何かね」
仕方なく柊達は新聞を折り畳んで腕を組んだ。永と鈴心はその場に座って質問することにした。
「慧心弓ってご存知ですか?」
永の言葉とともに、鈴心も緊張して柊達の回答を待った。柊達は鋭い目のままで言う。
「弓か。楓がここから持ち出したと言う」
「そうです。見たことあります?」
「ない。私はこの里の生まれではない。雨都には婿として入った。私がここに来た時は楓の件は全て過去のことだった」
柊達は抑揚なく一気につらつらと喋る。まるで用意していた箇条書きの台詞を言っているようだった。
「……」
誰かにそう言えと言われているのか、それとも寡黙なキャラクターを保つためなのか。永が少し考えていると先に鈴心が話題を進めてしまう。
「では、橙子さんならご存知でしょうか?」
「橙子しゃ──妻も知らないと思う。なにせ妻が生まれたのは、楓がここに帰ってきてから二年後だからな」
言葉尻の油断が垣間見えて、永はちょっと面白かった。だがそれは聞かなかったことにして尋ねる。
「なるほど、そうですか……その頃には既に楓サンは弱っていたんですか?」
「うむ。帰って間もなく寝たきりになったと聞いた」
「誰に?」
「ばあさま──檀からだ」
その名前を出されると、それ以上は聞きにくくなる。永は少し質問の角度を変えた。
「他に当時の事を知ってる人はいますか?」
「楓の容体は隠していたから、知る人はほとんどいない」
ここまでの柊達の答えはほぼ「知らない」「わからない」の一点張りだ。いいかげん痺れを切らせた永は疲れている精神も手伝って口調に気を遣えなくなっていた。
「ほんとにぃ?こんな小さい村なんですよ、噂くらい立つでしょ?しかも雨都のことなんだから」
だが続く柊達の返答はさらに酷かった。
「私はこの里の生まれではない。雨都には婿として入った。私がここに来た時は楓の件は全て過去のことだった」
「あんたはロボットか!」
同じ言葉を同じ顔で、しかも棒読みで喋った柊達に永は思わずつっこんでいた。
「ハ、ハル様!目上の方にそんな事……!」
横で聞いていた鈴心が少し焦っていた。
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「はあ……疲れた」
三十分ほど経って永は手を止める。横で見ていた鈴心は心配そうに顔を曇らせた。
「お休みください、ハル様」
「うん。吸い取られるってわかってやってるから、余計気持ち悪いね」
「横になりますか?」
そう聞かれて、膝枕ならいいなあと思いかけた己を律して永は首を振った。二人きりだと邪念が入ってしまう。疲れているせいだ。
「──いや、そこまでは大丈夫。気分転換に聞き込み行こうか」
「御意。柊達氏の所ですね」
「うん。どこにいるかなーっと」
それなりに広い寺の中を少し歩いていると、雨都柊達は縁側で新聞を読んでいた。
「お時間、あります?」
永がひょっこり顔を覗き込むと、柊達はあからさまに迷惑がって鋭い視線を投げた。
「何か用か」
「ええーっと、少しお聞きしたいことがあって」
「最初に言ったと思うが、私は息子のように直接協力はしない」
「そういうスタンスなのは承知しているんですが、文献を見ることができなくなったし、康乃様が昨日おっしゃいましたよ?教えてもらえって」
永が抜いたのは伝家の宝刀「康乃様」である。この村ではこの三文字ほど効果がある言葉は他にない。永はそれを充分学んでいた。
「むむむ……いたしかたない。モノによるが何かね」
仕方なく柊達は新聞を折り畳んで腕を組んだ。永と鈴心はその場に座って質問することにした。
「慧心弓ってご存知ですか?」
永の言葉とともに、鈴心も緊張して柊達の回答を待った。柊達は鋭い目のままで言う。
「弓か。楓がここから持ち出したと言う」
「そうです。見たことあります?」
「ない。私はこの里の生まれではない。雨都には婿として入った。私がここに来た時は楓の件は全て過去のことだった」
柊達は抑揚なく一気につらつらと喋る。まるで用意していた箇条書きの台詞を言っているようだった。
「……」
誰かにそう言えと言われているのか、それとも寡黙なキャラクターを保つためなのか。永が少し考えていると先に鈴心が話題を進めてしまう。
「では、橙子さんならご存知でしょうか?」
「橙子しゃ──妻も知らないと思う。なにせ妻が生まれたのは、楓がここに帰ってきてから二年後だからな」
言葉尻の油断が垣間見えて、永はちょっと面白かった。だがそれは聞かなかったことにして尋ねる。
「なるほど、そうですか……その頃には既に楓サンは弱っていたんですか?」
「うむ。帰って間もなく寝たきりになったと聞いた」
「誰に?」
「ばあさま──檀からだ」
その名前を出されると、それ以上は聞きにくくなる。永は少し質問の角度を変えた。
「他に当時の事を知ってる人はいますか?」
「楓の容体は隠していたから、知る人はほとんどいない」
ここまでの柊達の答えはほぼ「知らない」「わからない」の一点張りだ。いいかげん痺れを切らせた永は疲れている精神も手伝って口調に気を遣えなくなっていた。
「ほんとにぃ?こんな小さい村なんですよ、噂くらい立つでしょ?しかも雨都のことなんだから」
だが続く柊達の返答はさらに酷かった。
「私はこの里の生まれではない。雨都には婿として入った。私がここに来た時は楓の件は全て過去のことだった」
「あんたはロボットか!」
同じ言葉を同じ顔で、しかも棒読みで喋った柊達に永は思わずつっこんでいた。
「ハ、ハル様!目上の方にそんな事……!」
横で聞いていた鈴心が少し焦っていた。
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