91 / 174
第三章
3-33 蕾生の気配
しおりを挟む
「あー、会うだけで疲れるおっさんやで……」
八雲が去った後、梢賢はぐったりとその場で寝転んだ。
「職人さんというだけあって、気難しそうな印象です」
鈴心がそう感想を述べていると、永は弾んだ声ではしゃいでいた。
「わー、すごい。このレース針ピッカピカだあ。武器になりそっ!」
もう一度その針に視線を移して、鈴心は神妙な面持ちで言った。
「そして、その針。ものすごい力を感じます」
「あー、やっぱり?」
永もそう同意すると、梢賢が捕捉してくれた。
「祭で奉納するもんを編む道具はな、普段のよりも清めてあんねん」
「このクオリティのものを各家庭に配っているんですか?」
「せや。だから、どこん家でも仏壇の中にしまって、祭以外では使わんよ」
「──でしょうね」
永の手元をしげしげと見つめながら鈴心は頷く。そうしてその後ろで不機嫌な顔をしている蕾生にようやく気づいた。
「……」
「ライ、どうしました?」
「あのおっさん、俺にガン飛ばしやがった」
まるで不良に絡まれたような蕾生の態度に永は苦笑しながら宥めた。
「あの人も眞瀬木の人でしょ?ライくんを見定めたい気持ちが抑えられなかったんだねえ」
「気分悪い」
まだ不機嫌なままの蕾生に、今度は梢賢も手を振りながら言う。
「まあまあ、ライオンくん!しゃあないで、そら」
「なんでだよ」
「君はいろんなもんを垂れ流してるからなあ」
「梢賢くんも感じてるの?」
永はハッとして聞いた。すると梢賢は困った顔で答える。
「もちろんや。初めて会った時から、こっちはビビりまくりよ!うーわ、これが鵺の生の気配かーつって!」
「そ、そうなのか?」
そんなことは初めて言われた蕾生は驚いていた。鈴心もそれで罰が悪そうに言う。
「私やハル様は慣れてしまっているから無頓着でした。うっかりしてました……」
「この村はワカル人が多いんだね。これからは気をつけないと」
「気をつけるってどうやって?」
蕾生自身が自分がどうなっているのかわからないのに気のつけようがない。
「あー、そうだねえ……」
永もあまりピンときておらず首を捻っていると、梢賢はあっけらかんとして言った。
「今度銀騎にでも聞いたらええ。普通の人間にはわからんからそんなに気にせんでええよ」
「わかった……」
一応頷いたが、蕾生は納得がいかずにまだ不貞腐れていた。
「ところで、あの人、最近は裁縫道具ばっかり作ってるって言ってたけど、眞瀬木珪の事業の関係で?」
「そやろな。里のもんに絹製品を作らせとるからな。すっかり金物屋さんみたいになってんで」
永の問いに梢賢は可笑しそうに答えた。
「八雲ってかっこいい名前だよね」
「名前とちゃうで。八雲は役職名や。眞瀬木の呪具職人の長が代々継いどる。まあ、今はおっさん一人しかおらんけどな」
「昔ほど、呪具の需要がないんですね?」
鈴心が問うと梢賢は頷いた。
「そういうこっちゃ。眞瀬木のお家芸も今では先細り。だから珪兄やんも躍起になっとる」
「そっかあ、色々限界なんだねえ……」
永はまたかつての楓の言葉を思い出していた。
「珪兄やんの考えは間違ってないと思うんや。けど、手段がなあ……」
梢賢も頭を掻きながら村の現状について溜息をついていた。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
八雲が去った後、梢賢はぐったりとその場で寝転んだ。
「職人さんというだけあって、気難しそうな印象です」
鈴心がそう感想を述べていると、永は弾んだ声ではしゃいでいた。
「わー、すごい。このレース針ピッカピカだあ。武器になりそっ!」
もう一度その針に視線を移して、鈴心は神妙な面持ちで言った。
「そして、その針。ものすごい力を感じます」
「あー、やっぱり?」
永もそう同意すると、梢賢が捕捉してくれた。
「祭で奉納するもんを編む道具はな、普段のよりも清めてあんねん」
「このクオリティのものを各家庭に配っているんですか?」
「せや。だから、どこん家でも仏壇の中にしまって、祭以外では使わんよ」
「──でしょうね」
永の手元をしげしげと見つめながら鈴心は頷く。そうしてその後ろで不機嫌な顔をしている蕾生にようやく気づいた。
「……」
「ライ、どうしました?」
「あのおっさん、俺にガン飛ばしやがった」
まるで不良に絡まれたような蕾生の態度に永は苦笑しながら宥めた。
「あの人も眞瀬木の人でしょ?ライくんを見定めたい気持ちが抑えられなかったんだねえ」
「気分悪い」
まだ不機嫌なままの蕾生に、今度は梢賢も手を振りながら言う。
「まあまあ、ライオンくん!しゃあないで、そら」
「なんでだよ」
「君はいろんなもんを垂れ流してるからなあ」
「梢賢くんも感じてるの?」
永はハッとして聞いた。すると梢賢は困った顔で答える。
「もちろんや。初めて会った時から、こっちはビビりまくりよ!うーわ、これが鵺の生の気配かーつって!」
「そ、そうなのか?」
そんなことは初めて言われた蕾生は驚いていた。鈴心もそれで罰が悪そうに言う。
「私やハル様は慣れてしまっているから無頓着でした。うっかりしてました……」
「この村はワカル人が多いんだね。これからは気をつけないと」
「気をつけるってどうやって?」
蕾生自身が自分がどうなっているのかわからないのに気のつけようがない。
「あー、そうだねえ……」
永もあまりピンときておらず首を捻っていると、梢賢はあっけらかんとして言った。
「今度銀騎にでも聞いたらええ。普通の人間にはわからんからそんなに気にせんでええよ」
「わかった……」
一応頷いたが、蕾生は納得がいかずにまだ不貞腐れていた。
「ところで、あの人、最近は裁縫道具ばっかり作ってるって言ってたけど、眞瀬木珪の事業の関係で?」
「そやろな。里のもんに絹製品を作らせとるからな。すっかり金物屋さんみたいになってんで」
永の問いに梢賢は可笑しそうに答えた。
「八雲ってかっこいい名前だよね」
「名前とちゃうで。八雲は役職名や。眞瀬木の呪具職人の長が代々継いどる。まあ、今はおっさん一人しかおらんけどな」
「昔ほど、呪具の需要がないんですね?」
鈴心が問うと梢賢は頷いた。
「そういうこっちゃ。眞瀬木のお家芸も今では先細り。だから珪兄やんも躍起になっとる」
「そっかあ、色々限界なんだねえ……」
永はまたかつての楓の言葉を思い出していた。
「珪兄やんの考えは間違ってないと思うんや。けど、手段がなあ……」
梢賢も頭を掻きながら村の現状について溜息をついていた。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる