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第三章
3-26 タルト立たん
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瑠深の機嫌が治った頃合いを見計らって、蕾生は借りた自転車を返した。
「あ、自転車、ありがとな」
すると瑠深は少し頬を赤らめてツンをかます。
「べ、別にいいけど!?キズつけたりしてないでしょうね!?」
「それは大丈夫だ。大事に乗った」
「そ、それならいいけど!」
そんな瑠深の様子を永が息を整えながら細目で見ていた。
そして瑠深の持つ紙袋に再び熱い視線が送られている。鈴心だ。
「何、あんた、食べたいの?」
「えっ!まさか、そんな、一切れだけでもとか、そんなつもりはありませんけど!?」
ギクリと肩を震わせて素直に欲求をどもりながら言う鈴心に、瑠深は初めて優しい笑顔を見せた。
「フフッ!おかしな子。いいよ、あたしも一人で食べたら太っちゃう。おいで」
「よろしいので!?」
鈴心は目を輝かせて前のめりだ。
「ついでに野郎どもも食べてきな。あ、でもお前らは一人一センチな」
「そんな殺生なー、ルミはーん!」
言いながら梢賢は先だって眞瀬木家の玄関に入っていく。
「お、お邪魔します……」
それに続いて鈴心も浮き足立つ心を抑えつつ入って行った。
「永、大丈夫か?」
「うん。糖分とれるなら。お邪魔しようよ」
最後に蕾生と永も玄関へ入った。
眞瀬木の家屋は雨都のものと同じくらいに見えたが、雨都は寺部分があるので生活区域だけで比べたら眞瀬木の方が何倍も広そうだった。
しかしどこか殺風景だった。藤生家のような華美なものもないし、雨都家のような生活感溢れるもの──例えば洗濯物が出しっぱなしとかいうようなものは感じられなかった。
最小限の家具が置いてあるだけの広々とした居間に四人は通されていた。少しして、瑠深がケーキと冷たいお茶を持ってきた。
「はい、どうぞ」
「はー!」
瑠深はまず鈴心の前にタルトを置いてやる。タルトはキラキラと輝いており、鈴心の顔も輝いていた。
続けて男子達の前にもタルトを置いていくが、鈴心のものの半分以下で自立できないほどだった。
「おおお、オレの分け前はこんなもんか……金出したのはオレやのに……」
「うるさいね。半分は康乃様とゴーちゃんに持ってくんだよ!」
「はい……」
しゅんとする梢賢の横で、瑠深の発言から揺るぎない藤生への忠誠心を永は感じ取っていた。
「──!」
タルトを一口食べた鈴心は言葉を失っていた。それを見て満足そうに瑠深は笑う。
「いい顔だ。梢賢が大枚はたいた甲斐があったね」
「恐縮ですぅ」
梢賢は一口でタルトを平らげてしまって、お茶をしかめっ面で飲んでいた。
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「あ、自転車、ありがとな」
すると瑠深は少し頬を赤らめてツンをかます。
「べ、別にいいけど!?キズつけたりしてないでしょうね!?」
「それは大丈夫だ。大事に乗った」
「そ、それならいいけど!」
そんな瑠深の様子を永が息を整えながら細目で見ていた。
そして瑠深の持つ紙袋に再び熱い視線が送られている。鈴心だ。
「何、あんた、食べたいの?」
「えっ!まさか、そんな、一切れだけでもとか、そんなつもりはありませんけど!?」
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「フフッ!おかしな子。いいよ、あたしも一人で食べたら太っちゃう。おいで」
「よろしいので!?」
鈴心は目を輝かせて前のめりだ。
「ついでに野郎どもも食べてきな。あ、でもお前らは一人一センチな」
「そんな殺生なー、ルミはーん!」
言いながら梢賢は先だって眞瀬木家の玄関に入っていく。
「お、お邪魔します……」
それに続いて鈴心も浮き足立つ心を抑えつつ入って行った。
「永、大丈夫か?」
「うん。糖分とれるなら。お邪魔しようよ」
最後に蕾生と永も玄関へ入った。
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しかしどこか殺風景だった。藤生家のような華美なものもないし、雨都家のような生活感溢れるもの──例えば洗濯物が出しっぱなしとかいうようなものは感じられなかった。
最小限の家具が置いてあるだけの広々とした居間に四人は通されていた。少しして、瑠深がケーキと冷たいお茶を持ってきた。
「はい、どうぞ」
「はー!」
瑠深はまず鈴心の前にタルトを置いてやる。タルトはキラキラと輝いており、鈴心の顔も輝いていた。
続けて男子達の前にもタルトを置いていくが、鈴心のものの半分以下で自立できないほどだった。
「おおお、オレの分け前はこんなもんか……金出したのはオレやのに……」
「うるさいね。半分は康乃様とゴーちゃんに持ってくんだよ!」
「はい……」
しゅんとする梢賢の横で、瑠深の発言から揺るぎない藤生への忠誠心を永は感じ取っていた。
「──!」
タルトを一口食べた鈴心は言葉を失っていた。それを見て満足そうに瑠深は笑う。
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