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第三章
3-19 二人
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四人がゆっくり走って十分もすると小さな公園についた。象を形どった遊具の中に藍と葵は身を寄せ合って座り込んでいた。
「……」
「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
涙目でうずくまる藍に、葵はその頭を撫でて気遣った。藍は目元を手で拭きながら強がっている。
「うん。ごめんね、あたしがしっかりしないといけないのに」
ふるふると頭を振っている葵に、藍は精一杯の笑顔で答える。
「葵、あたしが絶対守ってあげるからね」
「うん、お姉ちゃん」
そんな二人の会話に割り込んだのは梢賢の首だった。
「おお、おったおった。良かったわあ」
「!」
遊具を無遠慮に覗き込んだ梢賢はその顔にグーパンチをくらう。
「イテ!うーん、藍ちゃん、ナイスパンチやで」
「そんなこと一ミリも思ってないくせに!キモいんだよ!!」
「ガーン!」
少し遅れた永達がそこに近づくと、梢賢がよろめいていた。
「どしたの、梢賢くん?」
「うう……心が、心に穴があいてん……」
わざとらしい演技の真似を放っておいて、鈴心がしゃがんで藍と葵に声をかけた。
「あんな親で災難ですね。少しお話ししません?」
「あんた達、お母さんの手下じゃないの?」
藍が葵を守りながら言うと、鈴心はにっこり笑って答える。
「まさか。油断させて情報を聞こうとしていただけです。こちらの周防永様はきっと貴女の力になってくれますよ」
突然紹介されたので咄嗟にうまい言葉が出ず、永は少し屈んで挨拶した。
「はは、どうもー」
「……笑顔が胡散臭い」
「ガーン!」
今度は永がオーバーリアクションをする番になり、蕾生がつっこんだ。
「どうした永?」
「うう……純真な子どもに言われると堪える……」
「うふふ、お兄ちゃん達面白い」
梢賢と永のコミカルな動きが功を奏して、葵はクスクス笑っていた。その反応に藍が態度を軟化させて答えた。
「まあ、少しなら話してもいいけど」
「良かった。じゃあ、ベンチに移動しましょう。木陰があります。ライ、何かジュース買ってきてください」
「おう」
言われた蕾生はすぐ近くの自動販売機に駆けていった。その間に鈴心は二人をベンチに誘導する。一緒に腰掛け、梢賢と永はその脇で立つことにした。
間もなく蕾生が両手にジュースを持って帰ってきた。
「コーラとオレンジジュース、どっちがいい」
「葵は炭酸飲めないから、あたしがコーラ飲む」
「ん」
二人にジュースを渡すとすぐに蓋を開けてゴクゴクと飲み始める。真夏の炎天下を走ってきたのだから当然のことだが、葵は殊更感動するように飲んでいた。
「お、おいひい……」
「なんだよ、大袈裟だな」
「大袈裟じゃない。うちにこんな甘い飲み物ない。こんなに冷たいのも」
藍の言葉に改めて永は菫の異常性を感じている。二人が落ち着くのを待って、鈴心が話しかけた。
「藍ちゃん、お母さんがああなってしまったのはいつからですか?」
「そんなのわかんない。お母さんはずっとああだから」
「相当だな」
蕾生の吐き捨てた感想を鈴心はひと睨みで制して、また藍に向き直る。
「それでは、今日みたいにうっとりするような感じになるのは?」
「時々。伊藤のおじさんが来た時とか」
「この梢賢が来た時は、お母さんはどんな感じですか?」
「えっ」
梢賢は肩を震わせて何かを期待している。そんな姿に冷ややかな視線を送った後、藍は淡々と言った。
「別に。今日こそしょうけんをかんらくするわって意気込んでる」
「──」
放心してしまった梢賢の肩を永が叩いて慰めた。
「オツカレ」
だが、心の中は爆笑している。
===============================
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「……」
「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
涙目でうずくまる藍に、葵はその頭を撫でて気遣った。藍は目元を手で拭きながら強がっている。
「うん。ごめんね、あたしがしっかりしないといけないのに」
ふるふると頭を振っている葵に、藍は精一杯の笑顔で答える。
「葵、あたしが絶対守ってあげるからね」
「うん、お姉ちゃん」
そんな二人の会話に割り込んだのは梢賢の首だった。
「おお、おったおった。良かったわあ」
「!」
遊具を無遠慮に覗き込んだ梢賢はその顔にグーパンチをくらう。
「イテ!うーん、藍ちゃん、ナイスパンチやで」
「そんなこと一ミリも思ってないくせに!キモいんだよ!!」
「ガーン!」
少し遅れた永達がそこに近づくと、梢賢がよろめいていた。
「どしたの、梢賢くん?」
「うう……心が、心に穴があいてん……」
わざとらしい演技の真似を放っておいて、鈴心がしゃがんで藍と葵に声をかけた。
「あんな親で災難ですね。少しお話ししません?」
「あんた達、お母さんの手下じゃないの?」
藍が葵を守りながら言うと、鈴心はにっこり笑って答える。
「まさか。油断させて情報を聞こうとしていただけです。こちらの周防永様はきっと貴女の力になってくれますよ」
突然紹介されたので咄嗟にうまい言葉が出ず、永は少し屈んで挨拶した。
「はは、どうもー」
「……笑顔が胡散臭い」
「ガーン!」
今度は永がオーバーリアクションをする番になり、蕾生がつっこんだ。
「どうした永?」
「うう……純真な子どもに言われると堪える……」
「うふふ、お兄ちゃん達面白い」
梢賢と永のコミカルな動きが功を奏して、葵はクスクス笑っていた。その反応に藍が態度を軟化させて答えた。
「まあ、少しなら話してもいいけど」
「良かった。じゃあ、ベンチに移動しましょう。木陰があります。ライ、何かジュース買ってきてください」
「おう」
言われた蕾生はすぐ近くの自動販売機に駆けていった。その間に鈴心は二人をベンチに誘導する。一緒に腰掛け、梢賢と永はその脇で立つことにした。
間もなく蕾生が両手にジュースを持って帰ってきた。
「コーラとオレンジジュース、どっちがいい」
「葵は炭酸飲めないから、あたしがコーラ飲む」
「ん」
二人にジュースを渡すとすぐに蓋を開けてゴクゴクと飲み始める。真夏の炎天下を走ってきたのだから当然のことだが、葵は殊更感動するように飲んでいた。
「お、おいひい……」
「なんだよ、大袈裟だな」
「大袈裟じゃない。うちにこんな甘い飲み物ない。こんなに冷たいのも」
藍の言葉に改めて永は菫の異常性を感じている。二人が落ち着くのを待って、鈴心が話しかけた。
「藍ちゃん、お母さんがああなってしまったのはいつからですか?」
「そんなのわかんない。お母さんはずっとああだから」
「相当だな」
蕾生の吐き捨てた感想を鈴心はひと睨みで制して、また藍に向き直る。
「それでは、今日みたいにうっとりするような感じになるのは?」
「時々。伊藤のおじさんが来た時とか」
「この梢賢が来た時は、お母さんはどんな感じですか?」
「えっ」
梢賢は肩を震わせて何かを期待している。そんな姿に冷ややかな視線を送った後、藍は淡々と言った。
「別に。今日こそしょうけんをかんらくするわって意気込んでる」
「──」
放心してしまった梢賢の肩を永が叩いて慰めた。
「オツカレ」
だが、心の中は爆笑している。
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