転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第三章

3-17 修行とは

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「それで、貴方方は御自分の宿命についてどれほど御存じ?」
 
「いえ、僕らは梢賢しょうけんくんに集められただけで、まだよくわからなくて」
 
「まあ、そうなの。まだ覚醒されてないのね」
 
「覚醒?」
 
 鈴心すずねが眉を顰めたまま聞くが、すみれは笑顔を崩さずに言った。
 
「ええ。使徒様は御自分の宿命に気づいた時、覚醒して上位の存在におなりになるの。貴方方はそのひよこってトコかしらね」
 
「上位の存在って何ですか?」
 
「それは使徒様それぞれで違うようだけど、私達とは全く別の高次元の存在よ。修行を始めればじきに覚醒されると思うわ」
 
 永が具体的に質問してみても、その答えに具体性はない。菫の話は抽象的過ぎる。ぬえ、もとい、うつろ神信仰の全容がまるで見えてこないことに一同は少しずつ焦れていった。

「修行……ですか?」
 
「どんなことするんだ?」
 
「んー、それは有宇儀ゆうぎ様の指示がないと何とも言えないわね。でもおそらく貴方方にもお薬が処方されるはずよ」
 
「く、薬ッ!?」
 
 鈴心と蕾生らいおが代わる代わる聞いてみても結果は同じだったが、その後の菫の発言に一同は驚愕した。
 
「大丈夫。便宜的にお薬って言ってるだけで、危険なものじゃないわ。これくらいのね、お札を飲むのよ」
 
 親指と人差し指で一センチほどの隙間を作ってその大きさを表現しながら菫は笑う。
 しかし鈴心には到底受け入れられることではなかった。
 
「な、なんですか、それは?」
 
「私達の頂点にはね、メシア様という方がおられるの。メシア様はうつろ神様が降臨される時にはその器となるお方。その方が毎日祈りを捧げられたお札をね、有宇儀様が持ってきてくださるの」
 
「そんなの飲んで大丈夫なのか?」
 
 蕾生が疑心を言うと、梢賢はまずい、と肩を震わせる。
 
「そうね、不安になるのはわかるわ。でも最初だけよ。メシア様のお力を体に蓄えることで、素晴らしい力に目覚めると思うわ」
 
「……」
 
 猜疑の目を向ける蕾生に梢賢は人知れず焦った。そんな態度をとって菫が不機嫌になったらと思うと気が気でない。だが、その心配は無用だったようだ。菫のご機嫌なお喋りは続く。
 
「実はね、私の息子のあおいも貴方方と同じく使徒様のひよこなのよ」
 
「ええっ!」
 
 永の驚きを好意的にとった菫はさらにウキウキした調子で息子を見ながら言った。
 
「葵はお薬を飲み始めて随分経つけど、健康そのもの。むしろ日々力が増してるわ。貴方方の先輩なのよ」
 
 そんな母の言葉に、葵は暗い表情で俯き、あいは睨みながら葵の手を握っていた。







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