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第三章
3-14 浮かれ梢賢
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「全くもう、菫さんてば急に会いたいなんて、ちょうど街にいたからいいものをぅ!」
カラオケボックスを後にした四人は菫のマンションへ向かっている。梢賢は電話を受けてから顔が緩みっぱなしだった。
「締まりのない顔ですね……」
「僕らも一緒でいいのかな?」
鈴心が呆れ、永が不審に思っていても、梢賢は体をくねくねさせて舞うように歩いていく。
「て言うか、使徒様も一緒に連れてきて欲しいわーん、やて。甘え上手やなあ、ウヘヘヘ」
「ほんとにそんな語尾で言ったのか?」
蕾生のツッコミも、梢賢には聞こえていない。
「それにしても菫は梢賢が街に来てることを知ってたんでしょうか」
「さあ。たとえ村にいたとしても、あの梢賢くんの調子じゃあ自分が呼べばすぐ街に来るってわかってるんじゃない?」
「なるほど……確かに空でも歩きそうな勢いです」
鈴心はまた梢賢に引き始めている。
永はそんな浮かれ調子の梢賢のシャツを掴んで正気に戻そうと試みた。
「ねえ、梢賢くん。一昨日は僕らは君の友達として行ったけど、菫さんは僕らが使徒だってわかってたんでしょ」
「ん?そうや。一昨日の設定では、オレが使徒様をうまく騙くらかして里に呼んだから、とりあえず初対面かつ正体も知らないていで会って見定めて欲しいって言ってあってん」
「随分とまわりくどい事をしましたね……」
呆れ続ける鈴心に弁解するその顔はまだニヤけていた。
「菫さんの反応を見るためや。それにできるだけフラットな状態の彼女を君らに見て欲しかってん」
「あれでフラットだったのか?」
「おお、もちろん。上出来な方やったなあ」
一昨日の菫の様子はただのシングルマザーにはとても見えない異常ぶりだった。それを思い出していた蕾生は、あれがマシならこれから会う菫はどれだけトンでいるのか空恐ろしくなった。
「彼女が僕らを見定めた結果、反応はあったの?」
「その日の夜にメールが来たで。使徒様にお会いできて感激だったって」
「へ、へえ……」
永も蕾生と同様に、不安を隠せなかった。
「まだ子どものうちに雨辺側に引き入れましょって。だからまた近いうちに連れてきて欲しいわーん、て」
「だから語尾……」
「それで電話が来たんですね。一日経ったのに連れてこないから」
「かもなあ。菫さんはせっかちさんやからなあ」
蕾生と鈴心の言葉もどこか上の空で浮き足立っている梢賢に、永は今度は襟足を引っ張って確認した。
「それで?今日は僕らはどんな設定で会えばいいの?」
「うん。素のままの君らでええで。ただ、前世だの呪いだのっていう基礎知識は持ってないふりしてくれる?」
「何故です?」
「詳しくは教えてもらえてないねんけど、うつろ神信仰の中での使徒っちゅうのはな、無垢な存在みたいなんや」
「無垢……」
その意味を永は思考しようと試みるが、暑さと梢賢の浮かれモードのせいでうまく考えがまとまらない。
「そう。条件次第で黒にも白にも染まる存在や。そんな君らを手中に収めた者にうつろ神が降臨するって言われとるらしい」
「私達は道具扱いですか……」
鈴心の呟きは的を射ているように思えた。だとすればこれから永達は菫に下の存在として見られる可能性がある。少し気に食わないが情報を引き出すためには仕方ないか、と永は息を吐いた。
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カラオケボックスを後にした四人は菫のマンションへ向かっている。梢賢は電話を受けてから顔が緩みっぱなしだった。
「締まりのない顔ですね……」
「僕らも一緒でいいのかな?」
鈴心が呆れ、永が不審に思っていても、梢賢は体をくねくねさせて舞うように歩いていく。
「て言うか、使徒様も一緒に連れてきて欲しいわーん、やて。甘え上手やなあ、ウヘヘヘ」
「ほんとにそんな語尾で言ったのか?」
蕾生のツッコミも、梢賢には聞こえていない。
「それにしても菫は梢賢が街に来てることを知ってたんでしょうか」
「さあ。たとえ村にいたとしても、あの梢賢くんの調子じゃあ自分が呼べばすぐ街に来るってわかってるんじゃない?」
「なるほど……確かに空でも歩きそうな勢いです」
鈴心はまた梢賢に引き始めている。
永はそんな浮かれ調子の梢賢のシャツを掴んで正気に戻そうと試みた。
「ねえ、梢賢くん。一昨日は僕らは君の友達として行ったけど、菫さんは僕らが使徒だってわかってたんでしょ」
「ん?そうや。一昨日の設定では、オレが使徒様をうまく騙くらかして里に呼んだから、とりあえず初対面かつ正体も知らないていで会って見定めて欲しいって言ってあってん」
「随分とまわりくどい事をしましたね……」
呆れ続ける鈴心に弁解するその顔はまだニヤけていた。
「菫さんの反応を見るためや。それにできるだけフラットな状態の彼女を君らに見て欲しかってん」
「あれでフラットだったのか?」
「おお、もちろん。上出来な方やったなあ」
一昨日の菫の様子はただのシングルマザーにはとても見えない異常ぶりだった。それを思い出していた蕾生は、あれがマシならこれから会う菫はどれだけトンでいるのか空恐ろしくなった。
「彼女が僕らを見定めた結果、反応はあったの?」
「その日の夜にメールが来たで。使徒様にお会いできて感激だったって」
「へ、へえ……」
永も蕾生と同様に、不安を隠せなかった。
「まだ子どものうちに雨辺側に引き入れましょって。だからまた近いうちに連れてきて欲しいわーん、て」
「だから語尾……」
「それで電話が来たんですね。一日経ったのに連れてこないから」
「かもなあ。菫さんはせっかちさんやからなあ」
蕾生と鈴心の言葉もどこか上の空で浮き足立っている梢賢に、永は今度は襟足を引っ張って確認した。
「それで?今日は僕らはどんな設定で会えばいいの?」
「うん。素のままの君らでええで。ただ、前世だの呪いだのっていう基礎知識は持ってないふりしてくれる?」
「何故です?」
「詳しくは教えてもらえてないねんけど、うつろ神信仰の中での使徒っちゅうのはな、無垢な存在みたいなんや」
「無垢……」
その意味を永は思考しようと試みるが、暑さと梢賢の浮かれモードのせいでうまく考えがまとまらない。
「そう。条件次第で黒にも白にも染まる存在や。そんな君らを手中に収めた者にうつろ神が降臨するって言われとるらしい」
「私達は道具扱いですか……」
鈴心の呟きは的を射ているように思えた。だとすればこれから永達は菫に下の存在として見られる可能性がある。少し気に食わないが情報を引き出すためには仕方ないか、と永は息を吐いた。
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