転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第三章

3-9 化かし愛

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「貴方、すみれに懸想している割にそういう所は冷静ですね」
 
 鈴心すずねが少し関心しながら言うと、梢賢しょうけんは自嘲するように溜息をついた。
 
「ああ、せやなあ。ばあちゃんの教育の賜物かもな。ぬえ、是、忌むべし!って毎日言われとったからなあ。
 ほんまかいなって思ったのが文献読んだそもそもの動機やしな」
 
「ふうん。まゆみさんのある意味一方的な感情にも左右されず、菫さんの言い分も的確に分析して感情とは別のところで飲み込んでる。梢賢くんはきちんと自分を持ってるんだね」
 
「少し、意外です」
 
「すげえな。俺だったらばあちゃんに洗脳されてそうだ」
 
 三人が急に褒め始めたので、梢賢は身震いしながら首を振った。
 
「ええ、何々!?急に持ち上げても言えないもんはあるんやで!」
 
「──チッ」
 
「あぶなー、ハル坊はほんと油断ならないわあ」
 
 失敗に終わった誘導尋問には見切りをつけて、はるかは話題を戻す。
 
「わかった。それで、菫さんの危険思想をどうにかしようとはしたの?」
 
「うーん。オレが再会した時はもうそういうレベルではなかったわ。たまに例の伊藤が来て、菫さんを洗脳してたみたいやし」
 
「その伊藤が何をしてたかは知らないの?」
 
「伊藤が来るとオレは帰らされたからなあ。だからオレは逆方向にシフトしてん」
 
「と言うと?」
 
 鈴心がそう問うと、梢賢は悪戯するような顔で答えた。
 
「うつろ神に興味があるふりや。オレは雨都うとの貴重な跡取りやからオレの代になったら便宜図ったる、みたいなことをな、言った」
 
「菫さんを懐柔しようとしたんだ?」
 
「懐に入らんと情報が取り出せないからなあ。けど、あんまり成果はない。いいようにはぐらかされて化かし合いの毎日や」
 
「ふうん。じゃあ、この前菫さんが同じような事を言ってたけど、本心ではないかもしれない?」
 
 一昨日会った情報だけでは雨辺うべすみれは梢賢に丸め込まれているように見えた。
 だが今日よくよくその背景などを聞くと、そう単純な話ではないことがわかる。厄介なことこの上ないと永は思った。
 
「どうやろうなあ。どこまで本気なんかはわからんな」
 
「一昨日の会話は、見た目ほどのほほんとはしていなかったんですね」
 
 鈴心も考えながら感想を述べる。裏に駆け引きがあったとして一昨日の出来事を思い出していた。
 
「まあな。オレと菫さんの愛の攻防戦よ!敵対する家同士の男女が愛を育んでいく!これやねん」
 
 だがそんな二人が悩んでいる側で、梢賢は鼻息荒くひん曲がった恋愛観を披露した。
 
「変わった恋愛だな」
 
「ふっ、オレの器はでかいねん。彼女の罪ごと愛す!これやねん」
 
 呆れる蕾生らいおの反応も気にせず、梢賢は陶酔していた。
 
「その攻防戦の起爆剤として僕らが呼ばれた訳か」
 
「説明ついでに、もう一つ重大なことがあるんやけど」
 
「何?」
 
 永は少し恐れて身構えた。その予感は当たっていた。
 
「先に謝っとくわ、すまん!実は菫さんは君らの正体を知ってんねん」
 
「え!?」
 
「ていうか、君らの居場所は菫さんから聞いてん!」
 
「ええっ!?」
 
「はあ!?」
 
 三人が口々に素っ頓狂な声を上げても、梢賢はヘラヘラと笑って手を合わせるだけだった。







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