67 / 174
第三章
3-9 化かし愛
しおりを挟む
「貴方、菫に懸想している割にそういう所は冷静ですね」
鈴心が少し関心しながら言うと、梢賢は自嘲するように溜息をついた。
「ああ、せやなあ。ばあちゃんの教育の賜物かもな。鵺、是、忌むべし!って毎日言われとったからなあ。
ほんまかいなって思ったのが文献読んだそもそもの動機やしな」
「ふうん。檀さんのある意味一方的な感情にも左右されず、菫さんの言い分も的確に分析して感情とは別のところで飲み込んでる。梢賢くんはきちんと自分を持ってるんだね」
「少し、意外です」
「すげえな。俺だったらばあちゃんに洗脳されてそうだ」
三人が急に褒め始めたので、梢賢は身震いしながら首を振った。
「ええ、何々!?急に持ち上げても言えないもんはあるんやで!」
「──チッ」
「あぶなー、ハル坊はほんと油断ならないわあ」
失敗に終わった誘導尋問には見切りをつけて、永は話題を戻す。
「わかった。それで、菫さんの危険思想をどうにかしようとはしたの?」
「うーん。オレが再会した時はもうそういうレベルではなかったわ。たまに例の伊藤が来て、菫さんを洗脳してたみたいやし」
「その伊藤が何をしてたかは知らないの?」
「伊藤が来るとオレは帰らされたからなあ。だからオレは逆方向にシフトしてん」
「と言うと?」
鈴心がそう問うと、梢賢は悪戯するような顔で答えた。
「うつろ神に興味があるふりや。オレは雨都の貴重な跡取りやからオレの代になったら便宜図ったる、みたいなことをな、言った」
「菫さんを懐柔しようとしたんだ?」
「懐に入らんと情報が取り出せないからなあ。けど、あんまり成果はない。いいようにはぐらかされて化かし合いの毎日や」
「ふうん。じゃあ、この前菫さんが同じような事を言ってたけど、本心ではないかもしれない?」
一昨日会った情報だけでは雨辺菫は梢賢に丸め込まれているように見えた。
だが今日よくよくその背景などを聞くと、そう単純な話ではないことがわかる。厄介なことこの上ないと永は思った。
「どうやろうなあ。どこまで本気なんかはわからんな」
「一昨日の会話は、見た目ほどのほほんとはしていなかったんですね」
鈴心も考えながら感想を述べる。裏に駆け引きがあったとして一昨日の出来事を思い出していた。
「まあな。オレと菫さんの愛の攻防戦よ!敵対する家同士の男女が愛を育んでいく!これやねん」
だがそんな二人が悩んでいる側で、梢賢は鼻息荒くひん曲がった恋愛観を披露した。
「変わった恋愛だな」
「ふっ、オレの器はでかいねん。彼女の罪ごと愛す!これやねん」
呆れる蕾生の反応も気にせず、梢賢は陶酔していた。
「その攻防戦の起爆剤として僕らが呼ばれた訳か」
「説明ついでに、もう一つ重大なことがあるんやけど」
「何?」
永は少し恐れて身構えた。その予感は当たっていた。
「先に謝っとくわ、すまん!実は菫さんは君らの正体を知ってんねん」
「え!?」
「ていうか、君らの居場所は菫さんから聞いてん!」
「ええっ!?」
「はあ!?」
三人が口々に素っ頓狂な声を上げても、梢賢はヘラヘラと笑って手を合わせるだけだった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
鈴心が少し関心しながら言うと、梢賢は自嘲するように溜息をついた。
「ああ、せやなあ。ばあちゃんの教育の賜物かもな。鵺、是、忌むべし!って毎日言われとったからなあ。
ほんまかいなって思ったのが文献読んだそもそもの動機やしな」
「ふうん。檀さんのある意味一方的な感情にも左右されず、菫さんの言い分も的確に分析して感情とは別のところで飲み込んでる。梢賢くんはきちんと自分を持ってるんだね」
「少し、意外です」
「すげえな。俺だったらばあちゃんに洗脳されてそうだ」
三人が急に褒め始めたので、梢賢は身震いしながら首を振った。
「ええ、何々!?急に持ち上げても言えないもんはあるんやで!」
「──チッ」
「あぶなー、ハル坊はほんと油断ならないわあ」
失敗に終わった誘導尋問には見切りをつけて、永は話題を戻す。
「わかった。それで、菫さんの危険思想をどうにかしようとはしたの?」
「うーん。オレが再会した時はもうそういうレベルではなかったわ。たまに例の伊藤が来て、菫さんを洗脳してたみたいやし」
「その伊藤が何をしてたかは知らないの?」
「伊藤が来るとオレは帰らされたからなあ。だからオレは逆方向にシフトしてん」
「と言うと?」
鈴心がそう問うと、梢賢は悪戯するような顔で答えた。
「うつろ神に興味があるふりや。オレは雨都の貴重な跡取りやからオレの代になったら便宜図ったる、みたいなことをな、言った」
「菫さんを懐柔しようとしたんだ?」
「懐に入らんと情報が取り出せないからなあ。けど、あんまり成果はない。いいようにはぐらかされて化かし合いの毎日や」
「ふうん。じゃあ、この前菫さんが同じような事を言ってたけど、本心ではないかもしれない?」
一昨日会った情報だけでは雨辺菫は梢賢に丸め込まれているように見えた。
だが今日よくよくその背景などを聞くと、そう単純な話ではないことがわかる。厄介なことこの上ないと永は思った。
「どうやろうなあ。どこまで本気なんかはわからんな」
「一昨日の会話は、見た目ほどのほほんとはしていなかったんですね」
鈴心も考えながら感想を述べる。裏に駆け引きがあったとして一昨日の出来事を思い出していた。
「まあな。オレと菫さんの愛の攻防戦よ!敵対する家同士の男女が愛を育んでいく!これやねん」
だがそんな二人が悩んでいる側で、梢賢は鼻息荒くひん曲がった恋愛観を披露した。
「変わった恋愛だな」
「ふっ、オレの器はでかいねん。彼女の罪ごと愛す!これやねん」
呆れる蕾生の反応も気にせず、梢賢は陶酔していた。
「その攻防戦の起爆剤として僕らが呼ばれた訳か」
「説明ついでに、もう一つ重大なことがあるんやけど」
「何?」
永は少し恐れて身構えた。その予感は当たっていた。
「先に謝っとくわ、すまん!実は菫さんは君らの正体を知ってんねん」
「え!?」
「ていうか、君らの居場所は菫さんから聞いてん!」
「ええっ!?」
「はあ!?」
三人が口々に素っ頓狂な声を上げても、梢賢はヘラヘラと笑って手を合わせるだけだった。
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。
ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」
夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。
元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。
"カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない"
「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」
白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます!
☆恋愛→ファンタジーに変更しました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の孫だけど冒険者になるよ!
春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。
12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。
ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。
基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる