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第三章
3-8 雨辺の恨み
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「それで?その後は?」
永は続きをせがんだが、梢賢の答えはあっさりしていた。
「後も何もそれっきりよ。菫さんに再会したのはつい最近。高二あたりや」
「どこで?」
「学校の帰りや。オレは高校は高紫やねん。放課後街をぶらぶら歩いてたら、葵くんを連れた菫さんにバッタリ会うた」
「バッタリ……まあいいでしょう、続けて」
鈴心が怪しんだのは当然だが、いちいち止めていてもいられない。続ける梢賢はこの世の終わりのような顔をしていた。
「ショックやった。ただただ、ショックやった。菫さんが結婚して子どもまで産んでたなんてな……」
「それは自然な流れでは」
「五歳の分際で女子大生の恋愛対象になれると思うなよ、図々しい」
「酷い!オレは真剣やったのに!──まあでも、聞いたら離婚したってことでな。急に目の前が明るくなってん」
永の苦笑と蕾生の正論に打ちのめされた梢賢はヨヨヨと泣き崩れたが、すぐに明るい調子を取り戻す。まるで芸人がエピソードトークを披露するかのようだった。
そんな梢賢にゴミを見るような視線を鈴心が投げつける。
「さっきからオレ、鈴心ちゃんにすごい勢いで嫌われてない!?」
「安心してください。元々貴方への好感度は底辺ですから」
「おおう……あかん、目眩が……」
「そういうのいいから、続けて」
にこやかに永に裏回しされ、梢賢は溜息を吐きながら続けた。
「ハル坊も冷たいのう……針のむしろやん。
でな、当時は檀ばあちゃんが死んだばっかりでな。それまでうちの中心やったばあちゃんがのうなってしもうて、なんや家族みんなやる気なくしてなあ。そういう時に菫さんに再会したんよ」
「絶妙のタイミングってことね」
「オレもなあ、ばあちゃんがいない家に帰るのがなんか嫌でなあ。放課後は菫さんの家に入り浸ったもんよ」
シングルマザーの家に入り浸る高校生。なんて気持ち悪い設定だろう。まるで大人の映画だと鈴心が嫌悪をこめながら促した。
「その時に親しくなったんですね」
「そうや。するとなあ、菫さんの本性も見えてくるやろ。鵺をうつろ神なんて呼んで有り難がっとる。
ああ、文献で読んだまんまの人が本当におったんやって寒気がした」
「その頃には雲水一族のことは一通り知ってたんだ?」
永が聞くと梢賢は胸を張って得意になっていた。
「おう。なんせオレは雨都家に百数十年ぶりで産まれた希望の息子やろ。そらもう家では特別扱いよ。子どもがそんな風に育ったら中二病全開やろ。
蔵の文献も中学の間でくまなく読んだったわ!おかげで古文だけ満点やで」
「ちなみに、雨辺が里を出て行った経緯は?」
「あ、だめ。それ言えない」
調子に乗っているので舌の滑りも良くなっているだろうと、永が踏み込んで聞いたが梢賢は意外に冷静でキッパリ断った。
「どうして?」
「さっきのヤツに抵触するんや。父ちゃんの首が飛ぶ」
「──んだよ、使えねえな」
蕾生が文句を言うと、梢賢は笑いながら手を合わせた。
「そこは許して欲しいわ。ざっくり言うと、鵺を過激に信仰したから里を追い出したっちゅーことや。後は堪忍!」
「追い出した──でいいんだね?」
永が目ざとく確認すると、梢賢は素直に頷いた。
「そうや。まあ、眞瀬木とかは雨辺が自ら出て行ったって言うかもしれん。でも雨都の見解は逆や、おおっぴらには言えんけど」
「なら、雨辺は雨都を恨んでいる可能性があるね?」
永が更に踏み込むと、梢賢は真顔でまた頷く。
「菫さんに限って言えば、多分雨都を恨んでる。オレには笑って「雨都の人達はお元気?」なんて言うけど、腹の中は違うやろな」
===============================
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永は続きをせがんだが、梢賢の答えはあっさりしていた。
「後も何もそれっきりよ。菫さんに再会したのはつい最近。高二あたりや」
「どこで?」
「学校の帰りや。オレは高校は高紫やねん。放課後街をぶらぶら歩いてたら、葵くんを連れた菫さんにバッタリ会うた」
「バッタリ……まあいいでしょう、続けて」
鈴心が怪しんだのは当然だが、いちいち止めていてもいられない。続ける梢賢はこの世の終わりのような顔をしていた。
「ショックやった。ただただ、ショックやった。菫さんが結婚して子どもまで産んでたなんてな……」
「それは自然な流れでは」
「五歳の分際で女子大生の恋愛対象になれると思うなよ、図々しい」
「酷い!オレは真剣やったのに!──まあでも、聞いたら離婚したってことでな。急に目の前が明るくなってん」
永の苦笑と蕾生の正論に打ちのめされた梢賢はヨヨヨと泣き崩れたが、すぐに明るい調子を取り戻す。まるで芸人がエピソードトークを披露するかのようだった。
そんな梢賢にゴミを見るような視線を鈴心が投げつける。
「さっきからオレ、鈴心ちゃんにすごい勢いで嫌われてない!?」
「安心してください。元々貴方への好感度は底辺ですから」
「おおう……あかん、目眩が……」
「そういうのいいから、続けて」
にこやかに永に裏回しされ、梢賢は溜息を吐きながら続けた。
「ハル坊も冷たいのう……針のむしろやん。
でな、当時は檀ばあちゃんが死んだばっかりでな。それまでうちの中心やったばあちゃんがのうなってしもうて、なんや家族みんなやる気なくしてなあ。そういう時に菫さんに再会したんよ」
「絶妙のタイミングってことね」
「オレもなあ、ばあちゃんがいない家に帰るのがなんか嫌でなあ。放課後は菫さんの家に入り浸ったもんよ」
シングルマザーの家に入り浸る高校生。なんて気持ち悪い設定だろう。まるで大人の映画だと鈴心が嫌悪をこめながら促した。
「その時に親しくなったんですね」
「そうや。するとなあ、菫さんの本性も見えてくるやろ。鵺をうつろ神なんて呼んで有り難がっとる。
ああ、文献で読んだまんまの人が本当におったんやって寒気がした」
「その頃には雲水一族のことは一通り知ってたんだ?」
永が聞くと梢賢は胸を張って得意になっていた。
「おう。なんせオレは雨都家に百数十年ぶりで産まれた希望の息子やろ。そらもう家では特別扱いよ。子どもがそんな風に育ったら中二病全開やろ。
蔵の文献も中学の間でくまなく読んだったわ!おかげで古文だけ満点やで」
「ちなみに、雨辺が里を出て行った経緯は?」
「あ、だめ。それ言えない」
調子に乗っているので舌の滑りも良くなっているだろうと、永が踏み込んで聞いたが梢賢は意外に冷静でキッパリ断った。
「どうして?」
「さっきのヤツに抵触するんや。父ちゃんの首が飛ぶ」
「──んだよ、使えねえな」
蕾生が文句を言うと、梢賢は笑いながら手を合わせた。
「そこは許して欲しいわ。ざっくり言うと、鵺を過激に信仰したから里を追い出したっちゅーことや。後は堪忍!」
「追い出した──でいいんだね?」
永が目ざとく確認すると、梢賢は素直に頷いた。
「そうや。まあ、眞瀬木とかは雨辺が自ら出て行ったって言うかもしれん。でも雨都の見解は逆や、おおっぴらには言えんけど」
「なら、雨辺は雨都を恨んでいる可能性があるね?」
永が更に踏み込むと、梢賢は真顔でまた頷く。
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