転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第三章

3-5 振り出し

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「よし。後は返事待ち。──盗まれた雨都うとの書物の件は村ではどうするの?」
 
 携帯電話をポケットにしまってはるかが聞くと、梢賢しょうけんは肩を竦めて答える。
 
「さあなあ。今頃大人達が不毛な話合いでもしてるんちゃう。んでけい兄やんがしゃしゃりでてまた怒られとるやろ」
 
 それは昨日の会議と何ら変わらない印象だ。つまり何も進展しないと梢賢は暗に言っている。
 
「有耶無耶になりそうってことだね?」
 
「どうしましょう。私達だけで行方が追えるでしょうか」
 
「探す必要ってあるのか?」
 
 永と鈴心すずねが困っていると、蕾生らいおは素朴な顔をして聞いた。それは梢賢も想像外だった。
 
「へ?」
 
「そりゃ書物そのものが見れれば一番だろうけど、内容は梢賢が全部知ってんだろ」
 
「あ、気づいちゃった?」
 
 永はそれも既に考えていたようで、一抹の不安を提示した。
 
「書物を見せてもらうなら間接的協力で済む。けど、梢賢くんから聞くとなると積極的な協力になっちゃうでしょ。雨都はそれが可能なのか、昨日から気になってて」
 
「なんやハル坊は小難しく考えるんやなあ」
 
 梢賢は永の慎重さに苦笑していた。
 
「じゃあ、私達が頼めば教えてくれるんですか?」
 
「ええで」
 
 あっさり承知した梢賢に永は弾んだ声で確認する。
 
「本当?」
 
「ただし、交換条件や」
 
「ああ……」
 
 ニヤと笑った梢賢の次の言葉は永には予想がついていた。
 
すみれさんの家庭をなんとかしてくれたら、何でも教えたる」
 
「なるほど。そうでしょうね」
 
「振り出しに戻ったな」
 
 鈴心も蕾生も溜息を吐いて項垂れる。梢賢は一際明るい声で宣言した。
 
「という訳で!これで晴れて一致団結できるな!」
 
「はいはい……」
 
 やはり梢賢は口がうまい。交渉術にも長けている。このちゃらんぽらんな雰囲気はこういう結果を得るためではないかと永は勘繰っている。







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