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第三章
3-3 怪しい仲介
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昨日乗せてもらった珪の車がどれだけ高級だったかを永は思い知った。
眞瀬木家を出た後、村の道路は古くても舗装されているだけまだましだった。問題は村を出た後。街まで出るための道はほぼ獣道だ。
それでも村と街を繋ぐ唯一の道なので過去に歩いた人間によって踏み固められてはいる。だがそこをママチャリで走るのは論外だった。
後ろに乗っている鈴心は羽のように軽いけれど、道が悪過ぎて永は悪戦苦闘で漕ぎ続けた。梢賢と蕾生は山道を得意とするタイプの自転車なので簡単そうに進んで行く。永はとんでもない貧乏くじを引いたのだった。
「ぜーはー……」
「大丈夫か、永?」
体力バカの蕾生はケロッとしている。永は常にその蕾生が側にいるので虚勢を張る癖がある。
「う、うん。なかなか遠かった……」
「ハル様申し訳ありません。やはり私が漕いだ方が──」
「それだけは絶対させないから!」
鈴心が申し訳なさそうに言うのを遮って、やはり永は必死で見栄を張った。
梢賢の采配が呪わしい。蕾生には最初走らせようとしていたし、山道に不慣れな者にママチャリなんかあてがった。
うまい具合に自分が一番楽な手段を手に入れたのは年の功だろう。そんな風に永が呪わしく思っていることなど考えもしない梢賢は威勢よく腕を上げて宣言した。
「さあて、里を出たからいくらでも内緒話が出来るな!」
「つっても、どこで話すんだ?」
「そら、オレらみたいな若者が腰を落ち着けるとこ言うたらひとつしかないやろ」
梢賢はニヤリと笑って親指で駅前の方向を指していた。
梢賢の陽気な声がハウリングとともに部屋中に響き渡る。
「イエーイ!ほんじゃあ景気付けに一発ウォウウォウ……」
カラオケボックスの一室で、三人はそんな梢賢を白い目で見ていた。
「……あっそう。ノリの悪い子らやわあ」
多勢に無勢、マイクを置いた梢賢は少し拗ねながらウーロン茶を音立てて飲んだ。
「で?蔵の泥棒に心当たりがあるっていうのは?」
「わかったわかった。真面目さんやなあ、もう」
「昨日の話では雨辺が関係してるって言いましたね?」
「うん、そうや」
永と鈴心の問いにも梢賢はつまらなさそうに頷いた。だが永は構わずに続ける。
「でも、一昨日の話ぶりじゃ菫さんは村に来たことがない感じだったけど?」
「そうや、泥棒は菫さんやない。もっと怪しい人物が菫さんの周りをうろちょろしてんねん」
「俺達がまだ知らないやつか?」
蕾生の質問に、永は嫌そうな顔で反応した。
「もう怪しい人はお腹いっぱいだけどなあ」
「ハル坊の気持ちはわかる。けど、あいつの怪しさは桁外れや」
「一体誰なんです?」
鈴心が急かすと、梢賢は少し身を乗り出して何故か小声で喋る。注目して欲しいのだろう。
「オレも苗字しか知らんねんけど、伊藤っちゅーやつや。歳の頃は五十代前半かな。かなりのイケおじや」
「どういう人なの?」
「自称、菫さん母子の後見人。覚えてるか?里の誰かが雨辺を支援してるんじゃないかって話」
「ああ……じゃあその伊藤って人は麓紫村の人なの?」
永は初日にそんな話をしたことを思い出した。村に着いてからはインパクトのある出来事ばかりだったので、既に懐かしい。
「いいや。あんなヤツは見たことがないし、里に伊藤なんて苗字はない」
「意味がわからん」
蕾生がぶすったれて口を曲げると、梢賢はさらに小声で、ゆっくりと言う。
「つまりな、伊藤は仲介人。里の誰かと雨辺を繋いでるんやないかって思うねん」
「まあ、直接支援するのはリスキーだもんね」
「ではその伊藤が書物を盗んだ犯人だと?」
永と鈴心が頷いて聞いていると、梢賢は満足そうに結んだ。
「せやな。伊藤がその誰かに命令されて盗みに入ったとオレは見てる」
===============================
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眞瀬木家を出た後、村の道路は古くても舗装されているだけまだましだった。問題は村を出た後。街まで出るための道はほぼ獣道だ。
それでも村と街を繋ぐ唯一の道なので過去に歩いた人間によって踏み固められてはいる。だがそこをママチャリで走るのは論外だった。
後ろに乗っている鈴心は羽のように軽いけれど、道が悪過ぎて永は悪戦苦闘で漕ぎ続けた。梢賢と蕾生は山道を得意とするタイプの自転車なので簡単そうに進んで行く。永はとんでもない貧乏くじを引いたのだった。
「ぜーはー……」
「大丈夫か、永?」
体力バカの蕾生はケロッとしている。永は常にその蕾生が側にいるので虚勢を張る癖がある。
「う、うん。なかなか遠かった……」
「ハル様申し訳ありません。やはり私が漕いだ方が──」
「それだけは絶対させないから!」
鈴心が申し訳なさそうに言うのを遮って、やはり永は必死で見栄を張った。
梢賢の采配が呪わしい。蕾生には最初走らせようとしていたし、山道に不慣れな者にママチャリなんかあてがった。
うまい具合に自分が一番楽な手段を手に入れたのは年の功だろう。そんな風に永が呪わしく思っていることなど考えもしない梢賢は威勢よく腕を上げて宣言した。
「さあて、里を出たからいくらでも内緒話が出来るな!」
「つっても、どこで話すんだ?」
「そら、オレらみたいな若者が腰を落ち着けるとこ言うたらひとつしかないやろ」
梢賢はニヤリと笑って親指で駅前の方向を指していた。
梢賢の陽気な声がハウリングとともに部屋中に響き渡る。
「イエーイ!ほんじゃあ景気付けに一発ウォウウォウ……」
カラオケボックスの一室で、三人はそんな梢賢を白い目で見ていた。
「……あっそう。ノリの悪い子らやわあ」
多勢に無勢、マイクを置いた梢賢は少し拗ねながらウーロン茶を音立てて飲んだ。
「で?蔵の泥棒に心当たりがあるっていうのは?」
「わかったわかった。真面目さんやなあ、もう」
「昨日の話では雨辺が関係してるって言いましたね?」
「うん、そうや」
永と鈴心の問いにも梢賢はつまらなさそうに頷いた。だが永は構わずに続ける。
「でも、一昨日の話ぶりじゃ菫さんは村に来たことがない感じだったけど?」
「そうや、泥棒は菫さんやない。もっと怪しい人物が菫さんの周りをうろちょろしてんねん」
「俺達がまだ知らないやつか?」
蕾生の質問に、永は嫌そうな顔で反応した。
「もう怪しい人はお腹いっぱいだけどなあ」
「ハル坊の気持ちはわかる。けど、あいつの怪しさは桁外れや」
「一体誰なんです?」
鈴心が急かすと、梢賢は少し身を乗り出して何故か小声で喋る。注目して欲しいのだろう。
「オレも苗字しか知らんねんけど、伊藤っちゅーやつや。歳の頃は五十代前半かな。かなりのイケおじや」
「どういう人なの?」
「自称、菫さん母子の後見人。覚えてるか?里の誰かが雨辺を支援してるんじゃないかって話」
「ああ……じゃあその伊藤って人は麓紫村の人なの?」
永は初日にそんな話をしたことを思い出した。村に着いてからはインパクトのある出来事ばかりだったので、既に懐かしい。
「いいや。あんなヤツは見たことがないし、里に伊藤なんて苗字はない」
「意味がわからん」
蕾生がぶすったれて口を曲げると、梢賢はさらに小声で、ゆっくりと言う。
「つまりな、伊藤は仲介人。里の誰かと雨辺を繋いでるんやないかって思うねん」
「まあ、直接支援するのはリスキーだもんね」
「ではその伊藤が書物を盗んだ犯人だと?」
永と鈴心が頷いて聞いていると、梢賢は満足そうに結んだ。
「せやな。伊藤がその誰かに命令されて盗みに入ったとオレは見てる」
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