転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
上 下
59 / 174
第三章

3-1 街へ

しおりを挟む
 次の日。雨都うと家の朝は早い。柊達しゅうたつ楠俊なんしゅんには朝のお勤めがあるからだ。
 それが終わるのを待つと、普通の家庭よりは朝食の時間が遅くなる。食べ終わる頃には陽も強くなっていた。
 
「そうだ、姉ちゃん。自転車貸してくれへん?」
 
 食べ終えた食器を片付けながら梢賢しょうけんが言うと、姉の優杞ゆうこは怪訝な顔をしていた。
 
「あんた自分のがあるでしょうが」
 
「オレが使うんやないよ。ハル坊達に貸して欲しいねん」
 
「今日はどっか行くの?」
 
 優杞がそう聞くと、梢賢は目を逸らしながら答える。
 
「ああ、うん、まあね。せっかくだから高紫たかむらさきで遊ぼう思て」
 
 すぐに嘘だと姉にはわかった。だが両親がまだそこにいたので、仏心で問い詰めるのは止めた。
 
「……いいけど」
 
「サンキュー!じゃあ、行くか!」
 
 返事を聞くとすぐに梢賢は立ち上がってはるか達を促した。早くこの場から去ろうという気持ちがミエミエであった。
 
「梢賢」
 
「ピッ!」
 
 父の柊達の低い声が梢賢の動きを止める。
 
「蔵の件が解決していないのに遊びに行く、だと?」
 
「だって、大人達の話し合いも終わってへんのやろ?オレ達かてその間ヒマやん!」
 
 苦しい言い訳ではあった。だが柊達は溜息を吐いた後それを許した。
 
「まあ、そうだな。仕方ない、夕方までには客人共々帰って来なさい」
 
「ほーい!行こ行こ!」
 
 これ以上の長居は禁物。梢賢は蕾生らいおの背中を押しながら居間を出る。永と鈴心すずねもそれについて家を出た。


「ふー、危なかったで。なんとか誤魔化せたな」
 
 寺の門まで来たところで、梢賢が汗を拭う仕草で言う。永は苦笑していた。
 
「誤魔化せたのかなあ?」
 
「少なくとも優杞さんは気づいているようでしたよ」
 
 鈴心が言えば、梢賢はイタズラするような笑顔で優杞の自転車を持ってきた。
 
「まあ、姉ちゃんはオレの好きにやらしてくれるからな。さっさと街に出ようや!ハル坊と鈴心ちゃんはこれ使い」
 
「ママチャリなら二人乗りできそうだね。リンが後ろね」
 
 永が荷台に触りながら言うと、鈴心は真顔で首を振った。
 
「いいえ、とんでもない。私が漕ぎますからハル様が後ろに」
 
「何言ってんの、そんな絵面目立つでしょ!いいからリンは後ろ!」
 
 とんでもない想像をさせられて、永は慌てた。それは絶対にやってはならない。やるものかという固い意志を示す。
 
「……御意」
 
 渋々頷いた鈴心を他所に、蕾生は素朴な疑問を投げかける。
 
「てか、二人乗りなんかして大丈夫か?補導されねえ?」
 
「おお……意外な人物から意外なご意見」
 
「なんだと!?」
 
 茶化す梢賢に蕾生は憤慨する。そして少し悪巧みを話すように梢賢は小声で言った。
 
「まあ、里を出るまでは誰にも会わへんから大丈夫やろ。ただし、街に入ったら即自転車降りて引いて歩くで」
 
「うん、わかった」
 
 永が頷いて自転車に乗り込む。鈴心も後ろの荷台に座った。梢賢は続けてマウンテンバイクを持ってくる。これが梢賢のものだろう。
 
「で?俺のは?」
 
 蕾生は辺りを見回して聞いたが、梢賢はヘラヘラと笑っていた。
 
「あーっと……、ライオン君は足も速いやろ?」
 
「おい、ふざけんな。自転車に並走できる訳ねえだろ。梢賢の後ろに立つとこねえの?」
 
 掴み掛かろうとする雰囲気の蕾生に、梢賢は大声で抗議した。
 
「アホちゃうか!オレのヤンバル号はごっつ高いマウンテンバイクやねんぞ!百八十の大男を後ろに乗っけるようにできてへんわ!」
 
「一番年上のお前が走れよ!」
 
「いやや!ヤンバル号はオレ専用やねん!──しかたない、この手だけは使いたくなかった」
 
 駄々をこねた後、梢賢はがっくりと肩を落として三人を眞瀬木ませきの屋敷まで連れて行った。







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

異世界立志伝

小狐丸
ファンタジー
 ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。  さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。

元構造解析研究者の異世界冒険譚

犬社護
ファンタジー
主人公は持水薫、女30歳、独身。趣味はあらゆる物質の立体構造を調べ眺めること、構造解析研究者であったが、地震で後輩を庇い命を落とす。魂となった彼女は女神と出会い、話をした結果、後輩を助けたこともあってスキル2つを持ってすぐに転生することになった。転生先は、地球からはるか遠く離れた惑星ガーランド、エルディア王国のある貴族の娘であった。前世の記憶を持ったまま、持水薫改めシャーロット・エルバランは誕生した。転生の際に選んだスキルは『構造解析』と『構造編集』。2つのスキルと持ち前の知能の高さを生かし、順調な異世界生活を送っていたが、とある女の子と出会った事で、人生が激変することになる。 果たして、シャーロットは新たな人生を生き抜くことが出来るのだろうか? ………………… 7歳序盤まではほのぼのとした話が続きますが、7歳中盤から未開の地へ転移されます。転移以降、物語はスローペースで進んでいきます。読者によっては、早くこの先を知りたいのに、話が進まないよと思う方もおられるかもしれません。のんびりした気持ちで読んで頂けると嬉しいです。 ………………… 主人公シャーロットは、チートスキルを持っていますが、最弱スタートです。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...