転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
上 下
57 / 174
第二章

2-37 薄情

しおりを挟む
「なんか、気に入らねえ」
 
「うん?」
 
 それまで黙っていた蕾生らいおが少し怒気を孕んだ声で訴える。
 
「お前らの考えが正しければ、あのけいってやつは藤生ふじきの人に無理させて金儲けしようとしてるんだろ。誰かが犠牲になって村を維持するなんておかしい」
 
 はるか鈴心すずねも蕾生らしい考えに頷く。だが、梢賢しょうけんはそれを嘲るように一蹴した。
 
「ライオンくんは優しいなあ。でもここではそういう正論は通らんよ」
 
「え?」
 
「この里はな、藤生の藤生による藤生のための場所なんや。眞瀬木ませき以下里のもん達は藤生の駒であり、藤生に生かされとる存在や。逆もまたしかりで、藤生は里人を生かす義務がある」
 
「……?」
 
 梢賢の割り切った言い方に蕾生は眉を顰めたが、構わずに続けた。
 
「君主は、民のために犠牲になるもんや。だからこそ民も君主に命を賭して従う。それがこの里では当たり前のことなんや」
 
「封建的だなあ。この村は時間が止まってる」
 
 永は溜息を吐いた後、あまり深刻にならないようにフラットな調子で感想を述べた。
 
「否定はせんよ。遠い昔、成実なるみが命からがらわずかな従者を伴ってここに逃げてきてから、何も変わってへん」
 
「……」
 
 全てを諦めているような梢賢の口調は、蕾生の心にモヤモヤを植えつけていく。そんな蕾生の反応を見て、梢賢は笑った。
 
「ははは、ピュアなライオンくんは受け入れがたいよなあ」
 
「お前は何とかしたいとか思わないのか?」
 
「思わんな。何度も言うけど雨都うとはこの里の客人なんや。オレたちにこの里をどうこうしようっていう権利がそもそもない」
 
 はっきりと他人事だと言ってのける梢賢に蕾生は納得がいかなかった。少なくとも、優杞ゆうこと梢賢の姉弟には村の影響が強く出ているのに。それも飲み込んで仕方ないで済ませるつもりなのだろうか。
 
 蕾生が口をへの字に曲げて俯いていると、鈴心が優しい口調で言った。
 
「ライの気持ちはわかります。梢賢の言葉に冷たさを感じているのも。けれどやはり私達部外者にはどうにもなりません」
 
「まあ、村の人達にそれで不満や疑問がないなら周りがどうこう言うことはできないよね。尤も、誰もそれを持たないこの環境は充分異常だけど」
 
 永が皮肉を絡めて言うと、梢賢も軽く息を吐いて何の感情も出さずに言った。
 
「だからよ、この話はただの世間話として聞いといてや。オレも君らに里のことを頼ろうとは思ってへん。雨都もどうせここを出るだろうし」
 
「そうなんですか?」
 
 鈴心が驚いて聞くと、梢賢はあっけらかんとして言ってのけた。
 
「今すぐってことはないけどな。少なくともオレは里を出るよ。銀騎の呪いは解けたんやからここにいる理由はないやろ」
 
 それは薄情にもとれる言い方だった。梢賢は自分さえよければ村のことはいいんだろうか。それは逃げることにならないか。蕾生にはそういう割り切った考えができないので、梢賢の言葉を飲み込むことができなかった。








===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも
ファンタジー
森の奥で元聖女の祖母と暮らすセシルは幼い頃から剣と魔法を教え込まれる。それに加えて彼女は精霊の力を使いこなすことができた。 12才にった彼女は生き別れた祖父を探すために旅立つ。そして冒険者となりその能力を生かしてギルドの依頼を難なくこなしていく。 ある依頼でセシルの前に現れた黒髪の青年は非常に高い戦闘力を持っていた。なんと彼は勇者とともに召喚された異世界人だった。そして2人はチームを組むことになる。 基本冒険ファンタジーですが終盤恋愛要素が入ってきます。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

処理中です...