転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第二章

2-33 珪の事業

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「製法が秘匿された不思議な繊維ってこと?植物性?それとも動物性?」
 
 絹によく似た光沢を思い出しながらはるかが掘り下げようとすると、梢賢しょうけんは肩を竦めて首を振る。
 
「ウチみたいな末端には知る由もないわ。藤生ふじきの他には眞瀬木ませきしか知らんやろね」
 
「確かに、あのハンカチはとても綺麗です。市場に出たら人気が出るかも。お値段次第ですけど」
 
 鈴心すずねの一般的な評価に頷きながら梢賢は続けた。
 
「せやな。正絹よりははるかに安い値段を設定しとる。だから販路さえ確立すれば藤絹を大量生産して大儲け──っていうのがけい兄やんの計画や」
 
「それが村興しの正体ってこと?」
 
 麓紫村ろくしむらで大人達が話し合っているとはこの事だったかと永は確信していた。
 
「そう。話を少し戻すけど、藤絹ふじきぬ──って言うのは珪兄やんがつけた名前やから、里では単に絹って言うて藤生からわけてもらえる糸やった。
 その糸の編み方を藤生から教わって、里のもんは自分らの衣服を作っとった。自給自足の村やからな」
 
 一を聞いて十を知る永は、情報を正確に整理する。
 
「なるほど!眞瀬木ませきけいは村の人の手に職を与えたんだね!」
 
「ビンゴや。それまで藤生と眞瀬木の経済力で生かされとった里人が、絹の製法技術で自分で稼げるようになる。それを珪兄やんが確立するつもりなんや」
 
「え?どういうことだよ?」
 
 永ほど的確に分析できない蕾生が聞くと、梢賢はゆっくりと分かりやすく説明する。
 
「順を追って言うとな、藤生から糸が精製されるやろ、その糸を里人が編んで布にする、珪兄やんがその布を売る。で、里人は報酬がもらえる。するとどうなると思う?」
 
「村人の自立が促せますね」
 
 鈴心の答えに満足しながら梢賢は弾んだ声で結んだ。
 
「その通り!今まで藤生がいないと生きられなかった赤ん坊みたいな連中が、地に足つけて生きていけるようになんねん!」
 
「そりゃすごいな」
 
「もう、それは、ひとつの革命だね」
 
 ようやく理解した蕾生も、永さえも感心しきりだった。
 
「言い得て妙やな。だもんで、今や珪兄やんは時の人。一部の里人の間ではそらもうヒーローやねん」
 
「ああ、やっとさっきの会議での彼の横柄な態度がわかったよ」
 
「お金という実にわかりやすい権力をあの人は持っているんですね」
 
「今の里で珪兄やんに逆らえるのは康乃やすの様ぐらいやろね。墨砥ぼくとのおっちゃんもなあ、押しが弱いから結局兄やんに言い負かされとるな」
 
 梢賢は一種諦めたような顔で現在の状況を憂いていた。







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