転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第二章

2-32 藤絹

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 梢賢しょうけんの部屋に戻ると、鈴心すずね藤生ふじき家でのいきさつを聞きたがった。
 
「ハル様、藤生の家ではどんなお話を?」
 
「ああ、うん。話をしたと言えばしたんだけど……」
 
「なんかけいって人に引っ掻き回されただけな感じだったな」
 
 はるか蕾生らいおも思い出してげんなりしながら言うと、鈴心はきょとんとしていた。
 
「引っ掻き回す?」
 
「うん。蔵の泥棒は銀騎しらきだろってニヤニヤしながら言ってきてさ」
 
 それを聞くなり鈴心は憤慨しながら声を荒げた。
 
「銀騎は、お兄様はそんなことしません!」
 
「うん。だから僕も否定はした。でも僕らがここの所在を銀騎に教えてるんならわかんないだろってずっと疑ってて」
 
「んんん……」
 
 鈴心は今回の転生では銀騎の身内に生まれたため、銀騎しらき皓矢こうや星弥せいやを害するものには大きな嫌悪を示す。
 永の話を聞いて腹に据えかねているようで、珍しくいつまでも唸っていた。
 
「終いには銀騎じゃないなら雨辺うべだろって言って、大人にすげえ怒られてた」
 
「そんなに短絡的な方には見えなかったのに……」
 
 蕾生の付け足しにも鈴心は意外な顔をして聞いていた。
 
「珪兄やんはな、今、コレなんや」
 
 すると梢賢が鼻に拳を立てて口を挟んだ。
 
「天狗になってると?」
 
「そ。里にビジネスで大金を運んできてくれたからな」
 
 鈴心に綺麗なハンカチを贈っていた珪の姿を永は思い出した。
 
楠俊なんしゅんさんが言ってた「今の彼の意見は無視できない」ってそう言うこと?」
 
「そうや。元々里は自給自足が基本の貧乏村やった。村の運営に係る費用は長年、藤生の莫大な貯金と眞瀬木ませきが呪術で稼いでくる日銭で賄っとった」
 
「いつまで?」
 
「いつまでも何も、ほぼ今もや。こんな現代にありえへんっちゅー思うかもしれんけど、事実や」
 
「えええー?」
 
 さすがの永も薄笑いを浮かべずにはいられない。だが梢賢は真面目な顔で言う。
 
「ハル坊の疑問は当たり前や。珪兄やんもそう思ったんやろ。あの人は必死に勉強して一流大学に入った。それを卒業するとすぐ里に帰ってきてビジネスを始めたんや」
 
「もしかして、私がもらったハンカチですか?」
 
「そ。あれの繊維の正体は藤絹ふじきぬ言うてな、この里でしかとれない希少な繊維や。さらに藤絹を編み上げる製法は里の者しか知らん」
 
 そこまで聞いた永は不思議そうに首を傾げていた。
 
「そんな繊維があるなんて聞いたことないけど」
 
「そやろな。藤絹の歴史を遡ると、あれは藤生がこの里に落ち着く前──つまり成実なるみ家に伝わる秘宝やった。
 その製法は帝にすら教えられず、絹よりも美しく丈夫で当時の朝廷では争って買われていたらしいで。
 成実が一度は朝廷の覇権をとったのも、その絹があったからとまで言われとる」







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