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第二章
2-19 残されたモノ
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梢賢が再び蔵に入ろうとするので、永もそれに続く。
「僕らも入っていい?」
「おう」
そうして改めて四人は蔵に入る。灯りはないが、真夏の日中なので中はそれなりに明るかった。
「ええーっと」
「元々蔵書はどれくらいあったんですか?」
内部をキョロキョロしながら歩く梢賢に鈴心が聞いた。
「蔵書なんて言うほどのもんやないよ。ライオンくんの言った通り、見かけに反して中身は元からスッカスカや。一つにまとめたら段ボール一箱で済むやろうね」
「すると、棚に一冊ずつ、まるで資料館みたいに陳列してた感じかな?」
その話を受けて、蔵内部に設置された多数の棚を見て永が分析する。
「そうやね。婆ちゃんや母ちゃんの目盗んで読むんや。短時間でパッと探せるような置き方をしとった。父ちゃんがな」
「それはとても盗みやすい環境で……」
気持ちはわかるが、ずさんな管理の仕方に永は苦笑した。そして棚を隈なく見て周りながら梢賢が悲嘆に暮れる。
「ああー、うわー!あれもないー!」
「見た感じ、ほとんどやられてねえか?」
近寄って見るまでもなく、入口付近にいる蕾生にすらそれはわかっていた事だった。
「そうだねえ。根こそぎって感じ?」
「あかんわ、昔のやつは全部やられとる。秘伝書も、日記も──」
「秘伝書!?」
梢賢の言葉に鈴心と蕾生が目を光らせた。
「おい、なんだそのワクワクワードは」
「雨都、の前の雲水一族が代々体験した鵺との出来事を記したやつや。八代目と十四代目が纏めたやつがあんねんけど、どっちもないわ」
永が興味を持ったのは別の単語だった。
「日記って言うのは?」
「全員やないけど、何人かの先祖が書いた個人的な日記や。中には鵺のことが書いてあるやつもある。それも全部ない」
「じゃあ、何も残って──」
鈴心ががっくりと肩を落とすと、梢賢は一番隅の棚を指差して言った。そこは一際暗がりだった。
「いや、最近のは残ってる。里に来た時の記録と、雨辺が去っていった時の記録。それから檀婆ちゃんの日記も残ってるな」
「檀さんの、ですか」
「恨み言ばっか書いてある根暗日記や。まてよ、すると──ああ!ない!クッソォ!」
何かを思いたった梢賢はもう一度暗がりに戻って確認すると殊更に悔しがった。
「何だよ?」
「楓婆の日記が、ない」
「楓サンの?」
永はドキリとして梢賢の方を見た。
「死ぬまでの七年間でつけとったもんや。あれこそ──」
梢賢は歯噛みして立ち尽くす。
「楓が何か残してくれていたかもしれない……」
「くそっ!」
鈴心も永も憤りを隠せなくなった。蕾生にも残念な気持ちはあるものの、二人のような感情をまだ共有することができない。別の悔しさを感じて一歩後ずさると、足に何かが触れた。
「うん?なんか落ちてる」
拾い上げたそれは、とても古い書物のようだった。
「ああっ!それ!」
それを見た梢賢が歓喜の声を上げる。
蕾生は表紙のタイトルが平仮名だったので読むことができた。
「うつろがたり……?」
===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
「僕らも入っていい?」
「おう」
そうして改めて四人は蔵に入る。灯りはないが、真夏の日中なので中はそれなりに明るかった。
「ええーっと」
「元々蔵書はどれくらいあったんですか?」
内部をキョロキョロしながら歩く梢賢に鈴心が聞いた。
「蔵書なんて言うほどのもんやないよ。ライオンくんの言った通り、見かけに反して中身は元からスッカスカや。一つにまとめたら段ボール一箱で済むやろうね」
「すると、棚に一冊ずつ、まるで資料館みたいに陳列してた感じかな?」
その話を受けて、蔵内部に設置された多数の棚を見て永が分析する。
「そうやね。婆ちゃんや母ちゃんの目盗んで読むんや。短時間でパッと探せるような置き方をしとった。父ちゃんがな」
「それはとても盗みやすい環境で……」
気持ちはわかるが、ずさんな管理の仕方に永は苦笑した。そして棚を隈なく見て周りながら梢賢が悲嘆に暮れる。
「ああー、うわー!あれもないー!」
「見た感じ、ほとんどやられてねえか?」
近寄って見るまでもなく、入口付近にいる蕾生にすらそれはわかっていた事だった。
「そうだねえ。根こそぎって感じ?」
「あかんわ、昔のやつは全部やられとる。秘伝書も、日記も──」
「秘伝書!?」
梢賢の言葉に鈴心と蕾生が目を光らせた。
「おい、なんだそのワクワクワードは」
「雨都、の前の雲水一族が代々体験した鵺との出来事を記したやつや。八代目と十四代目が纏めたやつがあんねんけど、どっちもないわ」
永が興味を持ったのは別の単語だった。
「日記って言うのは?」
「全員やないけど、何人かの先祖が書いた個人的な日記や。中には鵺のことが書いてあるやつもある。それも全部ない」
「じゃあ、何も残って──」
鈴心ががっくりと肩を落とすと、梢賢は一番隅の棚を指差して言った。そこは一際暗がりだった。
「いや、最近のは残ってる。里に来た時の記録と、雨辺が去っていった時の記録。それから檀婆ちゃんの日記も残ってるな」
「檀さんの、ですか」
「恨み言ばっか書いてある根暗日記や。まてよ、すると──ああ!ない!クッソォ!」
何かを思いたった梢賢はもう一度暗がりに戻って確認すると殊更に悔しがった。
「何だよ?」
「楓婆の日記が、ない」
「楓サンの?」
永はドキリとして梢賢の方を見た。
「死ぬまでの七年間でつけとったもんや。あれこそ──」
梢賢は歯噛みして立ち尽くす。
「楓が何か残してくれていたかもしれない……」
「くそっ!」
鈴心も永も憤りを隠せなくなった。蕾生にも残念な気持ちはあるものの、二人のような感情をまだ共有することができない。別の悔しさを感じて一歩後ずさると、足に何かが触れた。
「うん?なんか落ちてる」
拾い上げたそれは、とても古い書物のようだった。
「ああっ!それ!」
それを見た梢賢が歓喜の声を上げる。
蕾生は表紙のタイトルが平仮名だったので読むことができた。
「うつろがたり……?」
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