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第二章
2-18 盗難事件
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沈黙したままの永達の所へ、梢賢が優杞と楠俊を連れて戻って来た。
「く、くく蔵に、ど──どどど、ドドドド」
「優杞さん、落ち着いて」
明らかに狼狽している優杞と楠俊を見て、永は冷静に言った。
「泥棒、だと思うんですか?」
「当たり前やん!」
代わりに答えた梢賢も瞳孔を開いて焦っている。永はその様子に飲まれないようにして更に聞いた。
「ご両親が僕らに見せないように書物を隠したとは?」
「そんなことする訳ないやろ!それはしっかり家族会議済みや!」
バタバタと大きな手振りで言う梢賢の言葉に嘘はないように思えて、永は溜息を吐いた。
「わかった。じゃあ、泥棒に盗まれたんだね」
「こんなん欲しいヤツいんのか?」
蕾生の当然の疑問を置いておいて、鈴心はもう一つの現実的な可能性を探る。
「蔵に金目のものは入れてないんですよね?」
「ああ、そんなん村の全員が知っとる。うちが村で一番貧乏なんはな!」
悔しそうに語る梢賢に永が手を挙げて聞いた。
「でも、寺って寄進とかあるよね?」
「うちは雇われ住職やねん。寺への寄進は全部藤生の方にするんや。うちは藤生から運営費を預かってるだけや」
「ふうん……」
永が形式上だが納得していると、蕾生が珍しく鋭いことを言った。
「でも犯人ってなると村人以外には考えられねえよな」
「そ、それは──」
梢賢が言葉に詰まっていると、楠俊と優杞がそれを引き継いだ。
「うちは寺だからね。門戸はいつも開けてあるし、里人なら誰でも出入りできるし、歩き回っても不審には思わない」
「そして外部からの人間はあんた達しか入っていない……」
全員が沈黙したのを破ったのは鈴心だった。
「矛盾してますね」
「うん。村の誰もがここにお金がないことを知ってる。でもここに出入りするのは村人でなければ不可能だ」
「つまり──」
蕾生が永を見て確認するように聞いた。
永は頷いて答える。
「泥棒の目的は蔵にある資料だった。鵺に興味がある村人がいるってことだね」
梢賢はその結論に衝撃を受けていた。
「そんなのあり得ない……」
優杞は否定するけれど、状況が物語る可能性に困惑していた。
「最後に蔵を開けたのはいつだい?」
すると楠俊が冷静に状況整理を試みる。
「ええ?そんなん覚えてへんわあ」
梢賢が投げやりに答えると、優杞の鉄拳が飛んでくる。
「私達とお母さんは蔵に近寄らないし、こそこそ蔵を出入りしてたのはお前とお父さんだけだろ!」
「ええー……いつだったかなあー、うーんと、うーんと」
「思い出さなかったら、どうなるのかな?梢賢?」
にっこりと拳を鳴らす優杞に梢賢は泣きそうになって抗議した。
「いや、もう一発殴られとるんですけど!?」
「優杞さん、どうどう。梢賢くんは三ヶ月ぶりに帰ってきたところでしょ!帰ってきてから蔵に入ったのは見てないよ?」
「それや!さすがナンちゃん!」
援護射撃に喜んだ梢賢は楠俊の後ろに隠れた。そして優杞はそれを聞くなり体の向きを変える。
「──と言うことは、残るはお父さんだね。ちょっと行ってくる!」
そう言いながら優杞は寺の門を飛び出していった。
「どこへ行くんでしょう?」
「会合場所でしょう。盗難の報告もその場でするはずです。そっちは優杞に任せて、僕らは現場を確認しよう」
鈴心の疑問に答えながら楠俊は蔵の方を見やる。
「ナンちゃん!探偵みたいやね!」
「茶化さないの。この場で蔵の蔵書を知ってるのは君だけだよ。確認して」
「せやな、わかった」
===============================
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「く、くく蔵に、ど──どどど、ドドドド」
「優杞さん、落ち着いて」
明らかに狼狽している優杞と楠俊を見て、永は冷静に言った。
「泥棒、だと思うんですか?」
「当たり前やん!」
代わりに答えた梢賢も瞳孔を開いて焦っている。永はその様子に飲まれないようにして更に聞いた。
「ご両親が僕らに見せないように書物を隠したとは?」
「そんなことする訳ないやろ!それはしっかり家族会議済みや!」
バタバタと大きな手振りで言う梢賢の言葉に嘘はないように思えて、永は溜息を吐いた。
「わかった。じゃあ、泥棒に盗まれたんだね」
「こんなん欲しいヤツいんのか?」
蕾生の当然の疑問を置いておいて、鈴心はもう一つの現実的な可能性を探る。
「蔵に金目のものは入れてないんですよね?」
「ああ、そんなん村の全員が知っとる。うちが村で一番貧乏なんはな!」
悔しそうに語る梢賢に永が手を挙げて聞いた。
「でも、寺って寄進とかあるよね?」
「うちは雇われ住職やねん。寺への寄進は全部藤生の方にするんや。うちは藤生から運営費を預かってるだけや」
「ふうん……」
永が形式上だが納得していると、蕾生が珍しく鋭いことを言った。
「でも犯人ってなると村人以外には考えられねえよな」
「そ、それは──」
梢賢が言葉に詰まっていると、楠俊と優杞がそれを引き継いだ。
「うちは寺だからね。門戸はいつも開けてあるし、里人なら誰でも出入りできるし、歩き回っても不審には思わない」
「そして外部からの人間はあんた達しか入っていない……」
全員が沈黙したのを破ったのは鈴心だった。
「矛盾してますね」
「うん。村の誰もがここにお金がないことを知ってる。でもここに出入りするのは村人でなければ不可能だ」
「つまり──」
蕾生が永を見て確認するように聞いた。
永は頷いて答える。
「泥棒の目的は蔵にある資料だった。鵺に興味がある村人がいるってことだね」
梢賢はその結論に衝撃を受けていた。
「そんなのあり得ない……」
優杞は否定するけれど、状況が物語る可能性に困惑していた。
「最後に蔵を開けたのはいつだい?」
すると楠俊が冷静に状況整理を試みる。
「ええ?そんなん覚えてへんわあ」
梢賢が投げやりに答えると、優杞の鉄拳が飛んでくる。
「私達とお母さんは蔵に近寄らないし、こそこそ蔵を出入りしてたのはお前とお父さんだけだろ!」
「ええー……いつだったかなあー、うーんと、うーんと」
「思い出さなかったら、どうなるのかな?梢賢?」
にっこりと拳を鳴らす優杞に梢賢は泣きそうになって抗議した。
「いや、もう一発殴られとるんですけど!?」
「優杞さん、どうどう。梢賢くんは三ヶ月ぶりに帰ってきたところでしょ!帰ってきてから蔵に入ったのは見てないよ?」
「それや!さすがナンちゃん!」
援護射撃に喜んだ梢賢は楠俊の後ろに隠れた。そして優杞はそれを聞くなり体の向きを変える。
「──と言うことは、残るはお父さんだね。ちょっと行ってくる!」
そう言いながら優杞は寺の門を飛び出していった。
「どこへ行くんでしょう?」
「会合場所でしょう。盗難の報告もその場でするはずです。そっちは優杞に任せて、僕らは現場を確認しよう」
鈴心の疑問に答えながら楠俊は蔵の方を見やる。
「ナンちゃん!探偵みたいやね!」
「茶化さないの。この場で蔵の蔵書を知ってるのは君だけだよ。確認して」
「せやな、わかった」
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