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第二章
2-6 運転手
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ホテルを出たすぐ前の道路で梢賢がヘラヘラ笑って出迎える。その後ろには黒のバンが止まっていた。
「おいーす!皆さんおはようさん」
「!!」
梢賢の姿と後ろの車に、永は驚きとともに目を見張る。
「いやあ、昨日はごめんなあ。ちいとばっかし里で意思の疎通ができてなくって。でももう大丈夫や、麓紫村は君らを歓迎するで!」
「ほんとかよ」
疑う蕾生を他所に、永は珍しく興奮して声を弾ませた。
「凄ーい!黒い高級ミニバンなんて芸能人みたーい!」
「貴方の車なんですか?」
鈴心が聞くと、梢賢は複雑な表情で苦笑していた。
「そうやで──って言いたいとこなんやけどなあ」
するとその運転席から梢賢よりも年上の、見るからに大人の男性が出てきた。青がかった黒いスーツで身を固め、四角い眼鏡をかけている。茶髪ではあるがすっきりと襟元で切られていて清潔感があった。
「初めまして。この度はうちの者がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたね」
にっこりと笑うその男性の登場に、永達は一瞬固まった。梢賢とは絶対に相入れない格好をしていたからだ。
「この人が車の持ち主で、珪兄やんや!里では結構えらい人なんやで」
「ははは、雑な紹介だ。眞瀬木珪と言います。梢賢がお世話になってます」
眞瀬木珪はビジネスマンのように笑顔を崩さなかった。
「珪兄やんはちっさい頃から兄貴みたいな人でな、運転手をかってでてくれたんや」
梢賢が説明し終わると、永達は順番に挨拶した。少しだけ警戒をしながら。
「こちらこそお世話になります。周防永です」
「唯蕾生っス」
「御堂鈴心です」
珪は鈴心の姿を確認するとさらに微笑んで懐から小さく薄い箱を取り出した。
「これは可愛らしいお嬢さんだ。良かったらどうぞ、お近づきの印に」
「いえ、そんな──」
スマートな珪の所作に鈴心が戸惑っていると、梢賢が横から笑って言う。
「ええって、鈴心ちゃんもらっとき。そんで開けてみ?」
「あ、ありがとうございます。わ……綺麗……」
恐る恐る箱を開けて見ると、中には美しい光沢のある白いハンカチがあった。レースで縁取りされ、飾り刺繍が施されている。
「うちの商品ですよ。試しに使ってみてくださいね」
「は、はあ……」
鈴心の手元を覗き込んだ永はちょっと面白くなかったが、そんな感情は表に出さずに素朴な顔で聞いた。
「デパートか何かにお勤めなんですか?」
「いいえ、うちは問屋です。そのハンカチの材料になっている織物のね」
「へえー……」
見れば見るほど見事な布地だ。かなり高価なものではないかと永は思った。
「さあ、乗って乗って!路上駐車厳禁や!」
梢賢が元気よく急かすので、三人は慌ててバンに乗る。さすがの高級車は音もなく走り出した。
===============================
お読みいただきありがとうございます
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「おいーす!皆さんおはようさん」
「!!」
梢賢の姿と後ろの車に、永は驚きとともに目を見張る。
「いやあ、昨日はごめんなあ。ちいとばっかし里で意思の疎通ができてなくって。でももう大丈夫や、麓紫村は君らを歓迎するで!」
「ほんとかよ」
疑う蕾生を他所に、永は珍しく興奮して声を弾ませた。
「凄ーい!黒い高級ミニバンなんて芸能人みたーい!」
「貴方の車なんですか?」
鈴心が聞くと、梢賢は複雑な表情で苦笑していた。
「そうやで──って言いたいとこなんやけどなあ」
するとその運転席から梢賢よりも年上の、見るからに大人の男性が出てきた。青がかった黒いスーツで身を固め、四角い眼鏡をかけている。茶髪ではあるがすっきりと襟元で切られていて清潔感があった。
「初めまして。この度はうちの者がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたね」
にっこりと笑うその男性の登場に、永達は一瞬固まった。梢賢とは絶対に相入れない格好をしていたからだ。
「この人が車の持ち主で、珪兄やんや!里では結構えらい人なんやで」
「ははは、雑な紹介だ。眞瀬木珪と言います。梢賢がお世話になってます」
眞瀬木珪はビジネスマンのように笑顔を崩さなかった。
「珪兄やんはちっさい頃から兄貴みたいな人でな、運転手をかってでてくれたんや」
梢賢が説明し終わると、永達は順番に挨拶した。少しだけ警戒をしながら。
「こちらこそお世話になります。周防永です」
「唯蕾生っス」
「御堂鈴心です」
珪は鈴心の姿を確認するとさらに微笑んで懐から小さく薄い箱を取り出した。
「これは可愛らしいお嬢さんだ。良かったらどうぞ、お近づきの印に」
「いえ、そんな──」
スマートな珪の所作に鈴心が戸惑っていると、梢賢が横から笑って言う。
「ええって、鈴心ちゃんもらっとき。そんで開けてみ?」
「あ、ありがとうございます。わ……綺麗……」
恐る恐る箱を開けて見ると、中には美しい光沢のある白いハンカチがあった。レースで縁取りされ、飾り刺繍が施されている。
「うちの商品ですよ。試しに使ってみてくださいね」
「は、はあ……」
鈴心の手元を覗き込んだ永はちょっと面白くなかったが、そんな感情は表に出さずに素朴な顔で聞いた。
「デパートか何かにお勤めなんですか?」
「いいえ、うちは問屋です。そのハンカチの材料になっている織物のね」
「へえー……」
見れば見るほど見事な布地だ。かなり高価なものではないかと永は思った。
「さあ、乗って乗って!路上駐車厳禁や!」
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