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第一章
1-19 明日への不安
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「で、どうすんだ?あの菫って人は」
とりあえず空腹が満たされた蕾生は永に今後の方針を問う。
「うーん、困ったなあ。雨都のピンチなら絶対協力しなくちゃって思って来てみれば、なんだかなあって感じだよねえ」
今の所、これは梢賢個人の問題に見える。永は小規模の割にカロリーの高い難問を突きつけられており、その面倒くささから肩を落とした。
「分家とのいざこざ──どこも似たようなものですね」
鈴心の言葉はどこか含みがある。自分が生まれた御堂の家も銀騎の分家だからだ。
そういえば前回の転生で御堂とも揉めたと永が言っていたことを蕾生は思い出した。そのうちその詳細も聞かなければならないが、今は雨辺の問題の方が先だ。
「そうだね、肝心の梢賢くんに何も対策がないからね。丸投げされてもなあ」
「俺達の目的は、梢賢に協力することと、雨都が持つ鵺の情報の収集だよな?」
蕾生が当初の目的を確認すると、永は頷きつつも眉を顰める。
「うん。今の所どっちも暗礁に乗り上げてるけどね」
雨辺の問題はどう手をつけていいかわからない。雨都の家には行けない。これではせっかく遠出したのに何も出来ないかもしれない。永はそれを危惧して深く溜息をついた。
「あと慧心弓のことも探らないと」
鈴心の付け足しに永はますます気が重くなった。
鵺を退治した弓──慧心弓はかつて雨都楓が扱った時に燃えてしまっている。
だが、決定的な末路を見た訳ではない。ここに来れば慧心弓の手がかりもあるかもしれないと思って来たのに。
「てことは、やっぱ麓紫村に行かないと始まらねえな」
蕾生も永につられて溜息をついた。
「そうだね。できれば梢賢くん以外の雨都の人にも会っていろいろ聞きたいな。そこから突破口が見つかるかもしれないし」
「会ってくれるでしょうか……、おばあさん──檀さんは私達のことはお許しになっていない様でしたから」
鈴心は梢賢にされた話を思い出して意気消沈している。
「おばあさんにとっては妹のことだったからねえ。でも梢賢くんの親世代だと叔母さんのことだから少しは緩和されてるかもしれないし」
そんな彼女を元気づけようと、永は一縷の望みを大きな希望のように掲げてわざと明るく言ってやった。
「やっぱり、あいつ次第だよな」
「そうだね。明日の様子に期待しよう」
考えても埒があかないと見た蕾生は永に真顔で聞いた。
「ダメだったら殴ってもいいか?」
「死なない程度なら」
永も真顔で答える。
「──よし」
「冗談ですよね?」
しかし鈴心はやや青ざめていた。蕾生の力で殴ったら梢賢は確実に再起不能になる。
「もちろん」
「なんだ、そうなのか」
笑っている永に対して、蕾生はつまらなさそうに舌打ちした。鈴心の不安はますます大きくなる。
「それも冗談ですよね?」
「まあな」
やっと蕾生も笑ってそう言うと、鈴心は脱力して急に眠くなった。
「──わかりました。もう休みましょう。疲れましたね」
暑い中散々歩いて、振り回されて、鈴心の体力ももう限界だった。
「そうしよう。リン、しっかり施錠するんだよ」
「はい、お休みなさい」
そうして鈴心は永と蕾生が泊まるツインルームを後にして、隣のシングルルームへ入っていった。
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とりあえず空腹が満たされた蕾生は永に今後の方針を問う。
「うーん、困ったなあ。雨都のピンチなら絶対協力しなくちゃって思って来てみれば、なんだかなあって感じだよねえ」
今の所、これは梢賢個人の問題に見える。永は小規模の割にカロリーの高い難問を突きつけられており、その面倒くささから肩を落とした。
「分家とのいざこざ──どこも似たようなものですね」
鈴心の言葉はどこか含みがある。自分が生まれた御堂の家も銀騎の分家だからだ。
そういえば前回の転生で御堂とも揉めたと永が言っていたことを蕾生は思い出した。そのうちその詳細も聞かなければならないが、今は雨辺の問題の方が先だ。
「そうだね、肝心の梢賢くんに何も対策がないからね。丸投げされてもなあ」
「俺達の目的は、梢賢に協力することと、雨都が持つ鵺の情報の収集だよな?」
蕾生が当初の目的を確認すると、永は頷きつつも眉を顰める。
「うん。今の所どっちも暗礁に乗り上げてるけどね」
雨辺の問題はどう手をつけていいかわからない。雨都の家には行けない。これではせっかく遠出したのに何も出来ないかもしれない。永はそれを危惧して深く溜息をついた。
「あと慧心弓のことも探らないと」
鈴心の付け足しに永はますます気が重くなった。
鵺を退治した弓──慧心弓はかつて雨都楓が扱った時に燃えてしまっている。
だが、決定的な末路を見た訳ではない。ここに来れば慧心弓の手がかりもあるかもしれないと思って来たのに。
「てことは、やっぱ麓紫村に行かないと始まらねえな」
蕾生も永につられて溜息をついた。
「そうだね。できれば梢賢くん以外の雨都の人にも会っていろいろ聞きたいな。そこから突破口が見つかるかもしれないし」
「会ってくれるでしょうか……、おばあさん──檀さんは私達のことはお許しになっていない様でしたから」
鈴心は梢賢にされた話を思い出して意気消沈している。
「おばあさんにとっては妹のことだったからねえ。でも梢賢くんの親世代だと叔母さんのことだから少しは緩和されてるかもしれないし」
そんな彼女を元気づけようと、永は一縷の望みを大きな希望のように掲げてわざと明るく言ってやった。
「やっぱり、あいつ次第だよな」
「そうだね。明日の様子に期待しよう」
考えても埒があかないと見た蕾生は永に真顔で聞いた。
「ダメだったら殴ってもいいか?」
「死なない程度なら」
永も真顔で答える。
「──よし」
「冗談ですよね?」
しかし鈴心はやや青ざめていた。蕾生の力で殴ったら梢賢は確実に再起不能になる。
「もちろん」
「なんだ、そうなのか」
笑っている永に対して、蕾生はつまらなさそうに舌打ちした。鈴心の不安はますます大きくなる。
「それも冗談ですよね?」
「まあな」
やっと蕾生も笑ってそう言うと、鈴心は脱力して急に眠くなった。
「──わかりました。もう休みましょう。疲れましたね」
暑い中散々歩いて、振り回されて、鈴心の体力ももう限界だった。
「そうしよう。リン、しっかり施錠するんだよ」
「はい、お休みなさい」
そうして鈴心は永と蕾生が泊まるツインルームを後にして、隣のシングルルームへ入っていった。
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