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第一章
1-18 ビジネスホテルにて
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「あー、やっと休めるー」
永は目の前のベッド目がけてダイブする。
声音はふざけているが、ぐったりしている様子を見て蕾生はこの場にいないお調子者に毒づいた。
「ったく、あいつノープランにも程があんだろ」
「……おかげでお兄様に散財させてしまいました」
鈴心の方は予想だにしていなかったトラブルで銀騎皓矢に早くも助けを求めるはめになったことに気落ちしていた。
三人は梢賢の実家に泊まれる算段をしていたので、交通費と食費しか持っていなかった。
急に泊められなくなったと言われて困ってしまった三人が頼れるのは一人しかいない。鈴心が皓矢に電話をして事情を話すと、皓矢はすぐに高紫市駅前のビジネスホテルをとってくれた。
「持つべきものは金持ちの協力者だよねー。未成年だけじゃホテルなんて泊まれないと思ったけど、良かったあ」
そんな鈴心の後ろめたさを他所に、永は満足気にベッドの上をゴロゴロ転がった。
「皓矢が袖の下でも払ったのか?」
「失礼な。ちゃんとお兄様が身元を証明してくださったから泊まれるんです」
蕾生の銀騎に対する感覚はまだ悪代官レベルのようだ。
それに鈴心は憮然となって訂正する。
「むっふふ、前払いでポーンと一週間分払ってくれたんだから、感謝だよねー」
「もっと長引くようなら好きなだけ泊まっていいとおっしゃってくれてます、ホテルにかかる経費は全部持つと」
鈴心の報告を聞いて俄然元気が出た永は弾んだ声を上げた。
「やったあ、ライくん、ルームサービスとろう!」
「ビジネスホテルにそんなもんねえだろ」
「えー」
残念がる永に鈴心は思わず声を荒げてしまう。
「節度は守ってください!」
「はあーい」
仕方なく永は引き下がったが、鈴心は落ち込んだままのテンションでこの先の不安を述べた。
「けれど、こんな調子では本当に麓紫村に行けるのか……」
「まあ、話がうますぎるなあとは思ってたんだよねえ」
「そうですね。楓の時のように梢賢も単独で来た可能性を考えるべきでした」
今の所、梢賢から聞いていた計画通りのことは何一つ達成していない。
「でも、あいつのさっきの電話の感じだと、一応行けることにはなってたぽくないか?」
「そうだね、話が違うじゃん、って言ってたもんね。梢賢くん、あれが素なんだろうね。──へへっ」
先程の慌てふためいて関西弁を忘れていた梢賢を思い出して、永は薄く笑った。
「なんとかしてくるって言ったので、信じるしかないですよね……」
「ま、明日の朝まで待ちましょ」
当の梢賢は三人が無事にホテルに泊まれることになったのを見届けた後、脱兎の勢いで一人実家に帰って行った。「明日の朝までには絶対なんとかするから!」と言う捨て台詞を残して。
「腹減った。メシにしようぜ」
今晩はこれ以上心配しても仕方ない。蕾生は切り替えて二人に言った。
「そうですね、そうしましょう」
「わびしいコンビニ飯だけどね」
万が一、明日以降も梢賢の実家に行けないとなると無駄使いはできなかった。
「節約しないと。どれだけの滞在になるかわかりませんから」
旅費の財布を握っている鈴心が言うと、永は溜息混じりにふざけた。
「はいはい、大蔵大臣」
「ハル様、大蔵省はもうありません」
「情緒あるギャグでしょうが!」
そんな冗談よりも目の前の弁当だ。蕾生はとっくに弁当の蓋を開けて食べ進めていた。
===============================
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永は目の前のベッド目がけてダイブする。
声音はふざけているが、ぐったりしている様子を見て蕾生はこの場にいないお調子者に毒づいた。
「ったく、あいつノープランにも程があんだろ」
「……おかげでお兄様に散財させてしまいました」
鈴心の方は予想だにしていなかったトラブルで銀騎皓矢に早くも助けを求めるはめになったことに気落ちしていた。
三人は梢賢の実家に泊まれる算段をしていたので、交通費と食費しか持っていなかった。
急に泊められなくなったと言われて困ってしまった三人が頼れるのは一人しかいない。鈴心が皓矢に電話をして事情を話すと、皓矢はすぐに高紫市駅前のビジネスホテルをとってくれた。
「持つべきものは金持ちの協力者だよねー。未成年だけじゃホテルなんて泊まれないと思ったけど、良かったあ」
そんな鈴心の後ろめたさを他所に、永は満足気にベッドの上をゴロゴロ転がった。
「皓矢が袖の下でも払ったのか?」
「失礼な。ちゃんとお兄様が身元を証明してくださったから泊まれるんです」
蕾生の銀騎に対する感覚はまだ悪代官レベルのようだ。
それに鈴心は憮然となって訂正する。
「むっふふ、前払いでポーンと一週間分払ってくれたんだから、感謝だよねー」
「もっと長引くようなら好きなだけ泊まっていいとおっしゃってくれてます、ホテルにかかる経費は全部持つと」
鈴心の報告を聞いて俄然元気が出た永は弾んだ声を上げた。
「やったあ、ライくん、ルームサービスとろう!」
「ビジネスホテルにそんなもんねえだろ」
「えー」
残念がる永に鈴心は思わず声を荒げてしまう。
「節度は守ってください!」
「はあーい」
仕方なく永は引き下がったが、鈴心は落ち込んだままのテンションでこの先の不安を述べた。
「けれど、こんな調子では本当に麓紫村に行けるのか……」
「まあ、話がうますぎるなあとは思ってたんだよねえ」
「そうですね。楓の時のように梢賢も単独で来た可能性を考えるべきでした」
今の所、梢賢から聞いていた計画通りのことは何一つ達成していない。
「でも、あいつのさっきの電話の感じだと、一応行けることにはなってたぽくないか?」
「そうだね、話が違うじゃん、って言ってたもんね。梢賢くん、あれが素なんだろうね。──へへっ」
先程の慌てふためいて関西弁を忘れていた梢賢を思い出して、永は薄く笑った。
「なんとかしてくるって言ったので、信じるしかないですよね……」
「ま、明日の朝まで待ちましょ」
当の梢賢は三人が無事にホテルに泊まれることになったのを見届けた後、脱兎の勢いで一人実家に帰って行った。「明日の朝までには絶対なんとかするから!」と言う捨て台詞を残して。
「腹減った。メシにしようぜ」
今晩はこれ以上心配しても仕方ない。蕾生は切り替えて二人に言った。
「そうですね、そうしましょう」
「わびしいコンビニ飯だけどね」
万が一、明日以降も梢賢の実家に行けないとなると無駄使いはできなかった。
「節約しないと。どれだけの滞在になるかわかりませんから」
旅費の財布を握っている鈴心が言うと、永は溜息混じりにふざけた。
「はいはい、大蔵大臣」
「ハル様、大蔵省はもうありません」
「情緒あるギャグでしょうが!」
そんな冗談よりも目の前の弁当だ。蕾生はとっくに弁当の蓋を開けて食べ進めていた。
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