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第一章
1-16 コウモリ野郎
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雨辺菫のマンションを後にした四人は、梢賢を筆頭に駅とは逆の方向を歩いていた。
歩くにつれて店などは少なくなり、閑静な住宅街とささやかな農地の景色が続く。
その背中に三人の冷ややかな視線を受け続けて、辛抱できなくなった梢賢は大袈裟に肩で息を吐いて見せた。
「あーしんど」
だが、誰も同情などはしなかった。
鈴心は得意の猛禽類睨みをずっときかせており、永でさえも不審の眼差しで見ている。
「とんだコウモリ野郎だな」
「ちょ、それオレのこと?」
「お前以外に誰がいんだよ」
無言で圧をかけるのが性に合わない蕾生ははっきりと文句を言ってやった。それでやっと梢賢は後ろを振り返ることができた。
「がっかりです」
鈴心の鋭い視線はその肺に穴を空けそうな勢いだった。
「僕はてっきり鵺信仰はやめるように言ってるのかと思ってた……」
永も落胆を隠さずに続けると、梢賢は大袈裟な身振りで答える。
「仕方ないやん!菫さんの目見て、そんなこと言える!?君らも会ってわかったでしょ?」
「まあ、確かに、聞く耳持たない感じの雰囲気ではあった……」
永は雨辺菫の所作などを思い出しながら大きく溜息をつく。
「典型的な盲目でしたね」
「女の趣味、最悪だな」
鈴心と蕾生が口々に言えば、梢賢は泣きそうな顔で訴えた。
「ちゃうねん!昔はあんな感じじゃなかったんだって!」
「梢ちゃんなんて呼ばれて鼻の下伸ばして──」
「ご機嫌の取り方が最悪です」
デコボココンビが珍しく息を合わせて責め立てると、梢賢はますます泣きそうになる。
「ちゃうねんって!!穏便に取り入るためにはああするしかなかってん!」
「それよりも気になることがあるんだけど」
「おお、なんや、ハル坊?」
「あの菫って人、息子は随分大事にしてたけど、娘のことは──気にしてないっていうか……」
時折見せた菫の恐ろしくも激しい形相が、永には強烈に印象に残っている。梢賢は今度は苦悩に顔を歪めて答えた。
「ああ、せやねん。それが一番頭が痛い問題やねん」
「藍ちゃんのことを聞いた時、すごく怖い顔になってました」
続いた鈴心の感想に、梢賢はさらに落ち込んでいる。
「菫さんは、何故か藍ちゃんのことは無視すんねん。藍ちゃんもそれが慣れっこになってもうてて、いっつも一人でおる」
「それって、育児放棄ってやつ?」
永がズバリ言うと、梢賢は慌てて否定した。だがそれはおそらく希望が入っている。
「そんな大げさなもんやないよ!ちゃんとご飯もあげてるし!ただ、藍ちゃんには無関心なだけなんよ」
「その分、葵くんには過保護ですね。愛が重そうです」
「だから最初に言ったやろ?子どもに辛くあたったり、過保護になったりって!」
鈴心と梢賢のやり取りを聞きながら、永と蕾生も感想を述べる。
「一人ずつにそう、って意味だったのね」
「ほんと、タチ悪ぃな。親失格だろ。飯与えりゃいいってもんじゃねえぞ」
それを聞いて梢賢もがっくり肩を落としていた。
「それはほんまにそうなんやけど……」
===============================
お読みいただきありがとうございます
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歩くにつれて店などは少なくなり、閑静な住宅街とささやかな農地の景色が続く。
その背中に三人の冷ややかな視線を受け続けて、辛抱できなくなった梢賢は大袈裟に肩で息を吐いて見せた。
「あーしんど」
だが、誰も同情などはしなかった。
鈴心は得意の猛禽類睨みをずっときかせており、永でさえも不審の眼差しで見ている。
「とんだコウモリ野郎だな」
「ちょ、それオレのこと?」
「お前以外に誰がいんだよ」
無言で圧をかけるのが性に合わない蕾生ははっきりと文句を言ってやった。それでやっと梢賢は後ろを振り返ることができた。
「がっかりです」
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「僕はてっきり鵺信仰はやめるように言ってるのかと思ってた……」
永も落胆を隠さずに続けると、梢賢は大袈裟な身振りで答える。
「仕方ないやん!菫さんの目見て、そんなこと言える!?君らも会ってわかったでしょ?」
「まあ、確かに、聞く耳持たない感じの雰囲気ではあった……」
永は雨辺菫の所作などを思い出しながら大きく溜息をつく。
「典型的な盲目でしたね」
「女の趣味、最悪だな」
鈴心と蕾生が口々に言えば、梢賢は泣きそうな顔で訴えた。
「ちゃうねん!昔はあんな感じじゃなかったんだって!」
「梢ちゃんなんて呼ばれて鼻の下伸ばして──」
「ご機嫌の取り方が最悪です」
デコボココンビが珍しく息を合わせて責め立てると、梢賢はますます泣きそうになる。
「ちゃうねんって!!穏便に取り入るためにはああするしかなかってん!」
「それよりも気になることがあるんだけど」
「おお、なんや、ハル坊?」
「あの菫って人、息子は随分大事にしてたけど、娘のことは──気にしてないっていうか……」
時折見せた菫の恐ろしくも激しい形相が、永には強烈に印象に残っている。梢賢は今度は苦悩に顔を歪めて答えた。
「ああ、せやねん。それが一番頭が痛い問題やねん」
「藍ちゃんのことを聞いた時、すごく怖い顔になってました」
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「菫さんは、何故か藍ちゃんのことは無視すんねん。藍ちゃんもそれが慣れっこになってもうてて、いっつも一人でおる」
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永がズバリ言うと、梢賢は慌てて否定した。だがそれはおそらく希望が入っている。
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「だから最初に言ったやろ?子どもに辛くあたったり、過保護になったりって!」
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「一人ずつにそう、って意味だったのね」
「ほんと、タチ悪ぃな。親失格だろ。飯与えりゃいいってもんじゃねえぞ」
それを聞いて梢賢もがっくり肩を落としていた。
「それはほんまにそうなんやけど……」
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