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第一章
1-14 正反対の二人
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リビングに通された四人は、肩を寄せ合って座った。精神的な理由もあるが、物理的にも男が三人も上がり込めば小さな部屋は鮨詰め状態だった。
「外は暑かったでしょ?良かったらどうぞ、お口汚しですけど」
菫は冷たい麦茶と、素朴な見た目のクッキーを出してくれた。おそらく手作りだろう。
「ありがとうございます」
辛うじて永がそう答えられただけで、蕾生と鈴心は居心地悪そうに黙って座っていた。
「えーっと、葵くんは?お勉強中ですか?」
梢賢が少し足を崩して聞くと、菫はにっこり笑って答える。
「ええ。でもせっかく梢ちゃんが来てくれたから休憩にするわ。呼んでくるわね」
そう言って立ち上がると、菫は玄関の方向へと向かっていった。リビングに来る途中で部屋らしきものがあったのを永は思い出す。
その扉を開けて菫が一言二言声をかけると中から大人しそうな、藍そっくりの少年が出てきた。
少年は恐る恐ると言った体でリビングを覗き込み、少し緊張を孕んだ表情で入ってきた。
「お、葵くん、ごくろーさん!」
「こ、こんにちは」
顔も声も藍そっくりで、違うのは髪の質が葵の方がストレートだと言うくらいだ。ただ、性格は正反対のようだ。
「よーしよしよし、オレの隣に座んなさいな!」
「は、はい……」
梢賢が隣をバンバン叩いて促すと、葵は遠慮がちにそこに座った。
「はい、葵。こぼさないようにね」
菫が持って来たマグカップからは細い湯気が出ていた。その香りから温めの麦茶だと想像がついた。
「お母さん、僕も、冷たいのがいい」
梢賢達のグラスを見て葵は小さな声で言う。だが菫は微笑みながら首を振った。
「だめよ、お腹壊したらどうするの。ちょうどいい具合に冷めてるから飲みなさい」
「はい……」
その様子に永達三人は少し面食らった。十歳にもなれば多少冷たくても大丈夫ではないだろうか。
だがこういう意識の高い母親はわりといる。何より他所の家の方針に口を挟む気も義理もないので、三人は黙っていた。
「あの……女の子の方の、藍ちゃんは?」
最初に会ってから全く姿を見せなくなった藍に対して、鈴心は我慢できずに聞いてしまった。
すると菫はまた一瞬だけ顔を歪ませる。
「ああ──。いいのよ、あの子は。好きにやってるから」
その瞳は恐ろしく冷たくて、鈴心も永も蕾生でさえも、驚きで固まってしまう。
「それよりも、貴方達、うつろ神様に興味があるんですって?」
「え!?」
突然の菫からの本質を孕んだ質問に永は一瞬頭が真っ白になった。慌てて梢賢を見ると、こっそりウィンクをして見せる。話を合わせろ、と言うのだろう。
「ええ、まあ、はい。僕ら民俗学専攻でして──そういうのを調べてまして、ハイ!」
咄嗟に永は大学生らしい単語を並べてみた。あまり自信はなかったが、菫はすんなり受け入れて少し困った表情を見せた。
「あらあ、困ったわあ。うつろ神様はうちだけの神様だから、論文とかに書かれると困るのだけど」
「えっ!?ええと、そうじゃなくて、そういうのを調べてたら個人的に興味がわきまして!もちろん論文にはしませんよ!」
もっと梢賢と打ち合わせをするべきだった、と永は悔やんだ。例え嘘でも自分の発言をすぐに撤回するはめになるとは、些かプライドが傷つく。
「そう?それならいいわ」
だが菫は特に怪しんではいないようだった。そのにこやかな様子を見て、永は胸を撫で下ろした。
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「外は暑かったでしょ?良かったらどうぞ、お口汚しですけど」
菫は冷たい麦茶と、素朴な見た目のクッキーを出してくれた。おそらく手作りだろう。
「ありがとうございます」
辛うじて永がそう答えられただけで、蕾生と鈴心は居心地悪そうに黙って座っていた。
「えーっと、葵くんは?お勉強中ですか?」
梢賢が少し足を崩して聞くと、菫はにっこり笑って答える。
「ええ。でもせっかく梢ちゃんが来てくれたから休憩にするわ。呼んでくるわね」
そう言って立ち上がると、菫は玄関の方向へと向かっていった。リビングに来る途中で部屋らしきものがあったのを永は思い出す。
その扉を開けて菫が一言二言声をかけると中から大人しそうな、藍そっくりの少年が出てきた。
少年は恐る恐ると言った体でリビングを覗き込み、少し緊張を孕んだ表情で入ってきた。
「お、葵くん、ごくろーさん!」
「こ、こんにちは」
顔も声も藍そっくりで、違うのは髪の質が葵の方がストレートだと言うくらいだ。ただ、性格は正反対のようだ。
「よーしよしよし、オレの隣に座んなさいな!」
「は、はい……」
梢賢が隣をバンバン叩いて促すと、葵は遠慮がちにそこに座った。
「はい、葵。こぼさないようにね」
菫が持って来たマグカップからは細い湯気が出ていた。その香りから温めの麦茶だと想像がついた。
「お母さん、僕も、冷たいのがいい」
梢賢達のグラスを見て葵は小さな声で言う。だが菫は微笑みながら首を振った。
「だめよ、お腹壊したらどうするの。ちょうどいい具合に冷めてるから飲みなさい」
「はい……」
その様子に永達三人は少し面食らった。十歳にもなれば多少冷たくても大丈夫ではないだろうか。
だがこういう意識の高い母親はわりといる。何より他所の家の方針に口を挟む気も義理もないので、三人は黙っていた。
「あの……女の子の方の、藍ちゃんは?」
最初に会ってから全く姿を見せなくなった藍に対して、鈴心は我慢できずに聞いてしまった。
すると菫はまた一瞬だけ顔を歪ませる。
「ああ──。いいのよ、あの子は。好きにやってるから」
その瞳は恐ろしく冷たくて、鈴心も永も蕾生でさえも、驚きで固まってしまう。
「それよりも、貴方達、うつろ神様に興味があるんですって?」
「え!?」
突然の菫からの本質を孕んだ質問に永は一瞬頭が真っ白になった。慌てて梢賢を見ると、こっそりウィンクをして見せる。話を合わせろ、と言うのだろう。
「ええ、まあ、はい。僕ら民俗学専攻でして──そういうのを調べてまして、ハイ!」
咄嗟に永は大学生らしい単語を並べてみた。あまり自信はなかったが、菫はすんなり受け入れて少し困った表情を見せた。
「あらあ、困ったわあ。うつろ神様はうちだけの神様だから、論文とかに書かれると困るのだけど」
「えっ!?ええと、そうじゃなくて、そういうのを調べてたら個人的に興味がわきまして!もちろん論文にはしませんよ!」
もっと梢賢と打ち合わせをするべきだった、と永は悔やんだ。例え嘘でも自分の発言をすぐに撤回するはめになるとは、些かプライドが傷つく。
「そう?それならいいわ」
だが菫は特に怪しんではいないようだった。そのにこやかな様子を見て、永は胸を撫で下ろした。
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