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第一章
1-9 雨都の分家
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「オレが君らをここに呼んだ理由なんやけど」
「話題が変わるほどなんですか?」
梢賢が少し勿体ぶって言うと、永は目を丸くして聞いた。
「うーん、君らの運命に比べたら、サイドストーリーで外野が騒いでるみたいなもんやねん」
「と言うと?」
鈴心も少し身を乗り出して聞くので、梢賢は満を持して──といった体で語り始める。
「雨都の分家に雨辺っていうのがあんねんけど、知ってる?」
「雨辺?」
「初めて聞きました」
永も鈴心も顔を見合わせて首を傾げた。
「楓婆もそこまでは言ってなかったんやね。まあ、身内の恥みたいなもんやから」
「その雨辺がどうしたんだよ」
話の機微など関係ない蕾生が続きをせかす。
「うん、実は雨都と雨辺は犬猿の仲でなあ。雨辺にも関わるとばあちゃんにこっぴどくやられんねん。でも、今の雨辺にはちょっと放っておけない親子がおってな……」
「何故仲が悪いのか聞いても?」
永の質問は想定通りだった。梢賢は頷きながら丁寧に説明していく。
「そやな、そっから話さんとな。君らも知っての通り、ウチは昔に銀騎からの呪いを受けて雨都に改名した後、身を隠した」
「そこが麓紫村ですか?」
鈴心の問いにも頷いてさらに梢賢は続ける。
「そうや。麓紫村──内部のもんは里って言うてるんやけど、里の説明は追い追いするとして、ウチは里の長に匿ってもらう形で住み始めた。雨都って名前も里長がつけてくれたんや」
「うん、なんとなく楓サンの口ぶりからそんな感じかなとは思ってた」
「ほうか、ハル坊は賢いんやな。で、雨都はその時には既に鵺を忌み嫌うまでになってた。けど、そういう極端な感情っちゅうのは時に真逆の感情も生む」
梢賢の話に引き込まれながら蕾生は首を傾げた。
「真逆?」
「簡単に言うと、鵺こそ神だー!って言う奴が雨都の親族の中に現れた」
永はそれまで遠慮がちで聞き役に徹していたけれど、それを聞いて眉を顰めあからさまに嫌悪を表した。
「まま、ハル坊の気持ちはわかる。けどな、団体っていうのはそういう異端を生むもんなんや。ましてや里から一歩も出られず、自由を制限された団体ならな」
梢賢の言葉は少し抽象的だったけれど、鈴心には充分伝わっているらしく、残念そうに俯いた。
「つまり、雨都の中に現れた異端が雨辺?」
永の理解は早かった。
梢賢は満足げに頷く。
「そう言う事。結局雨辺は里を出て行った。鵺を信仰する目的でな」
「どこに行ったんです?」
「当時の隣村。今のここや──高紫市」
「ちかっ」
すぐ足元を指差すように表現した梢賢の言葉に、鈴心も蕾生も驚いていた。
===============================
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「話題が変わるほどなんですか?」
梢賢が少し勿体ぶって言うと、永は目を丸くして聞いた。
「うーん、君らの運命に比べたら、サイドストーリーで外野が騒いでるみたいなもんやねん」
「と言うと?」
鈴心も少し身を乗り出して聞くので、梢賢は満を持して──といった体で語り始める。
「雨都の分家に雨辺っていうのがあんねんけど、知ってる?」
「雨辺?」
「初めて聞きました」
永も鈴心も顔を見合わせて首を傾げた。
「楓婆もそこまでは言ってなかったんやね。まあ、身内の恥みたいなもんやから」
「その雨辺がどうしたんだよ」
話の機微など関係ない蕾生が続きをせかす。
「うん、実は雨都と雨辺は犬猿の仲でなあ。雨辺にも関わるとばあちゃんにこっぴどくやられんねん。でも、今の雨辺にはちょっと放っておけない親子がおってな……」
「何故仲が悪いのか聞いても?」
永の質問は想定通りだった。梢賢は頷きながら丁寧に説明していく。
「そやな、そっから話さんとな。君らも知っての通り、ウチは昔に銀騎からの呪いを受けて雨都に改名した後、身を隠した」
「そこが麓紫村ですか?」
鈴心の問いにも頷いてさらに梢賢は続ける。
「そうや。麓紫村──内部のもんは里って言うてるんやけど、里の説明は追い追いするとして、ウチは里の長に匿ってもらう形で住み始めた。雨都って名前も里長がつけてくれたんや」
「うん、なんとなく楓サンの口ぶりからそんな感じかなとは思ってた」
「ほうか、ハル坊は賢いんやな。で、雨都はその時には既に鵺を忌み嫌うまでになってた。けど、そういう極端な感情っちゅうのは時に真逆の感情も生む」
梢賢の話に引き込まれながら蕾生は首を傾げた。
「真逆?」
「簡単に言うと、鵺こそ神だー!って言う奴が雨都の親族の中に現れた」
永はそれまで遠慮がちで聞き役に徹していたけれど、それを聞いて眉を顰めあからさまに嫌悪を表した。
「まま、ハル坊の気持ちはわかる。けどな、団体っていうのはそういう異端を生むもんなんや。ましてや里から一歩も出られず、自由を制限された団体ならな」
梢賢の言葉は少し抽象的だったけれど、鈴心には充分伝わっているらしく、残念そうに俯いた。
「つまり、雨都の中に現れた異端が雨辺?」
永の理解は早かった。
梢賢は満足げに頷く。
「そう言う事。結局雨辺は里を出て行った。鵺を信仰する目的でな」
「どこに行ったんです?」
「当時の隣村。今のここや──高紫市」
「ちかっ」
すぐ足元を指差すように表現した梢賢の言葉に、鈴心も蕾生も驚いていた。
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