転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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第一章

1-5 お調子者

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 高紫市たかむらさきしという駅に到着した三人が改札を出ると、ピンクブロンドの髪を無造作に括り、柄シャツ短パンという派手な格好の男が手を上げながら近づいてきた。雨都うと梢賢しょうけんである。以前会った時はただの金髪だったが、さらに派手に染めてきた様子に、三人は面食らった。
 
「おおーい、こっちや!」
 
「おお……」
 
 はるか蕾生らいおはこのチンピラの風体に引きながらも向かっていったが、鈴心すずねは些かの嫌悪感を抱き、自然と歩みが遅くなった。
 
「いやー長旅お疲れさん!やっと来てくれて嬉しいわあ」
 
「はあ、どうも……」
 
 馴れ馴れしく永の両手を握って歓待を示す姿は、親愛を表してくれているように見えなくもない。永は愛想笑いで一定の心の距離を保とうとした。
 
「ライオンくんもありがとなあ」
 
「ライオンじゃない、蕾生だ」
 
 蕾生が少し憮然となって訂正すると、梢賢は一際明るい声で蕾生の背中を叩きながら笑った。
 
「あだ名やん!どうせ地元でもそう呼ばれとるんやろ?」
 
「──あだ名で呼ばれたことはない」
 
「えっ!ああ……ごめんな、寂しい子やったんやねえ、堪忍やで」
 
 蕾生がさらに不機嫌になって答えると、梢賢は大袈裟に後ずさって、急にしんみりした態度になった。が、どう見てもおちょくっているようだった。
 
「永、こいつ殴りたい」
 
「ダメダメ、死んじゃうでしょ!」
 
「大人になりなさい、ライ」
 
 常人ならざる怪力を持つ蕾生に殴られたら、おそらくこのチンピラはひとたまりもない。永も鈴心も焦って止めに入った。もちろん冗談ではあるけれど。
 
「なんか物騒な話してんね……。ま、まあええわ!ハル坊にライオンくん、それから──」
 
 身の危険を感じた梢賢は慌てて話題を変えようと鈴心に向き直った。
 
御堂みどう鈴心すずねです」
 
「おっ、ちいこいのに礼儀正しいお嬢ちゃんやね。よろしゅうな、鈴心ちゃん」
 
 あきらかに男女で呼び名の差をつける様は、かえって清々しくもあるなと永は思った。
 
「坊、とか呼ぶけど、あんた幾つなんだ?」
 
 だが蕾生の方は、永を子ども扱いされて面白くない。そんな感情を素直に態度に出すと、梢賢はまた大袈裟な手振りで言った。
 
「ええー?見た目によらず細かいこと気にするなあ、ライオンくんは。まあええ、オレは十九歳!大学一年生や!」
 
「──そっスか」
 
 思っていたよりも年齢差があって、蕾生は意気消沈するしかなかった。
 
「おお?年上だって認めてくれたんやねえ!素直な子は好きやでえ!」
 
 そんな蕾生の白旗を敏感に感じ取って子ども扱いに拍車をかける梢賢に、また殴りたい衝動に駆られる。
 
「ライくん、ステイ、ステーイ!」







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