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第一章
1-4 彼女の里
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「楓って人は一人で来たのか?」
「そうだよ」
蕾生の中で単身銀騎研究所に乗り込んできた雨都梢賢の姿とまだ見ぬ楓の姿が重なった。
「じゃあ、雨都の代表ってことか」
「違う。彼女の行動は雨都の総意じゃない。あくまで独断でやってきたんだ、家出同然でね」
「なんでそこまでして?」
予想に反した永の答えに蕾生は驚いた。少なくとも雨都梢賢は身内には告げてきていたようだったから。
「詳しくは教えてもらえなかったけど、限界がきてるって言ってた。当時彼女は故郷のことを里って呼んでたんだけど、このままじゃ里は先細りだって」
「雨都の呪いを解けば、故郷が救えるってことか?」
「さあ……。どんな因果関係があるかはわからないな。とにかく慧心弓と翠破を手にした僕は楓サンと一緒に行動することにしたんだ。彼女が現れた直後にリンとも合流できたからね」
「私達は萱獅子刀を探すために、楓は呪いを解くために銀騎に近づく必要があった。目的が一緒ですから、手を組むことにしたんです」
そこまで話すと、永は溜息を吐きながら当時を振り返った。少し納得していないような雰囲気だった。
「それにしても彼女の行動力はとんでもなくってね。なんだかんだあったけど、楓サンがいつの間にか主導権を握ってて、「雨都楓とその一味」みたいになってたよ」
永は常に自分が主導していないと気がすまない性質がある。大勢の臣下を従えた武将だった頃の名残りだろう。
「雨都楓は俺達を利用して、自分達にかけられた呪いを解いたってことか?」
そんな永の雰囲気を察して、雨都楓にかつて利用された可能性を聞いてみる。
だが、即座に鈴心が首を振った。
「結果だけを見れば、そういう見方もできるかもしれません。でも、私達はそうは思っていません」
その言葉に永も追随した。
「まあ、楓サンの目的は達成されて、僕らはまた失敗した。でも僕はせめて楓サンが救われたからいいと思ってる。ずっと雨都の厚意に甘え続けてきたんだ、それくらいの恩返しはしなくちゃならない」
「そうです。だから雨都梢賢と言う男がやって来た時は私は嬉しくもありました。楓のやったことが報われたんだって」
「だねえ」
二人が顔を見合わせて言う様には、嫉妬とか嫌悪とかそういう類のものは全くなかった。
「そうか……。お前らは雨都楓には恩義を感じてて、好意も持ってるってことだよな?」
蕾生の確認にも永は力強く頷いた。
「もちろん。彼女には随分助けてもらったよ。だからその子孫が困ってるなら助けたいんだ」
「俺達に、何ができるんだろうな」
「それも現地に行ってのお楽しみ、だね」
「そろそろ着きそうですね……」
車窓を眺めながら残念そうに呟く鈴心の肩を優しく叩いて、永は立ち上がった。ちょうど列車の走るスピードが落ち、ホームへと入る所だった。
「じゃあ、行こうか。楓サンの故郷。あの時の疑問を解消しにね」
「──?」
最後に付け足したその言葉の意味を、蕾生はまだ理解できなかった。
===============================
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「そうだよ」
蕾生の中で単身銀騎研究所に乗り込んできた雨都梢賢の姿とまだ見ぬ楓の姿が重なった。
「じゃあ、雨都の代表ってことか」
「違う。彼女の行動は雨都の総意じゃない。あくまで独断でやってきたんだ、家出同然でね」
「なんでそこまでして?」
予想に反した永の答えに蕾生は驚いた。少なくとも雨都梢賢は身内には告げてきていたようだったから。
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「さあ……。どんな因果関係があるかはわからないな。とにかく慧心弓と翠破を手にした僕は楓サンと一緒に行動することにしたんだ。彼女が現れた直後にリンとも合流できたからね」
「私達は萱獅子刀を探すために、楓は呪いを解くために銀騎に近づく必要があった。目的が一緒ですから、手を組むことにしたんです」
そこまで話すと、永は溜息を吐きながら当時を振り返った。少し納得していないような雰囲気だった。
「それにしても彼女の行動力はとんでもなくってね。なんだかんだあったけど、楓サンがいつの間にか主導権を握ってて、「雨都楓とその一味」みたいになってたよ」
永は常に自分が主導していないと気がすまない性質がある。大勢の臣下を従えた武将だった頃の名残りだろう。
「雨都楓は俺達を利用して、自分達にかけられた呪いを解いたってことか?」
そんな永の雰囲気を察して、雨都楓にかつて利用された可能性を聞いてみる。
だが、即座に鈴心が首を振った。
「結果だけを見れば、そういう見方もできるかもしれません。でも、私達はそうは思っていません」
その言葉に永も追随した。
「まあ、楓サンの目的は達成されて、僕らはまた失敗した。でも僕はせめて楓サンが救われたからいいと思ってる。ずっと雨都の厚意に甘え続けてきたんだ、それくらいの恩返しはしなくちゃならない」
「そうです。だから雨都梢賢と言う男がやって来た時は私は嬉しくもありました。楓のやったことが報われたんだって」
「だねえ」
二人が顔を見合わせて言う様には、嫉妬とか嫌悪とかそういう類のものは全くなかった。
「そうか……。お前らは雨都楓には恩義を感じてて、好意も持ってるってことだよな?」
蕾生の確認にも永は力強く頷いた。
「もちろん。彼女には随分助けてもらったよ。だからその子孫が困ってるなら助けたいんだ」
「俺達に、何ができるんだろうな」
「それも現地に行ってのお楽しみ、だね」
「そろそろ着きそうですね……」
車窓を眺めながら残念そうに呟く鈴心の肩を優しく叩いて、永は立ち上がった。ちょうど列車の走るスピードが落ち、ホームへと入る所だった。
「じゃあ、行こうか。楓サンの故郷。あの時の疑問を解消しにね」
「──?」
最後に付け足したその言葉の意味を、蕾生はまだ理解できなかった。
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