9 / 122
第一章 夢見るケモノは呪われている
第9話 食堂にて
しおりを挟む
「えー、以上が研究棟の中では主なものであります」
事務的な言葉で案内係の男性が締めくくると、一団の中には微かに溜息を漏らす人もいた。そりゃそうだ、と蕾生は思う。
副所長の講話から受ける壮大な印象のまま研究所の散策が始まったが、結果は期待外れのものだった。
分野ごとに分かれている研究棟を三棟ほど回ったが、どこもエントランスから先は通してもらえず、蕾生ですら期待していたバイオテクノロジー研究の植物だったり、複雑な名前の薬品を使った実験だったり、新生物研究のヒントだったり等の心躍るような光景には全く出会えなかった。
パンフレットに沿ってただ研究所内をウロウロしただけで、せめて庭木や花でも植えてあれば季節柄目にも楽しいのだろうが、それすらも見かけることは叶わなかった。
全体ががっかりした面持ちでいると、いたたまれなくなったのか案内係の男性は少し明るい声で皆に話しかける。
「では、最後に私共の食堂で昼食を召し上がっていただきます。今日は職員の中で一番人気の高いメニューをご用意させていただきました。サラダバーには当研究所が監修しましたドレッシングの全種類をご用意しておりますので、ぜひお楽しみください」
「サラダかあ……」
少し盛り上がった周囲とは逆に蕾生が肩を落とす。それを見た永は嗜めるような口調で言った。
「もう、ライくんもたまには野菜を食べないと。普段、肉と米ばっかりなんだから」
「家では食ってるよ。外食で野菜食べる意味がわからん」
「そんなんだからこーんなにでかくなるんだ? うらやましいわー」
ふざけて言う永の様子は普段通りだった。
講演会が終わって研究所の散策中も特に変わったことはなく、あの変な違和感も蕾生の中では薄れていた。
後は飯を食って帰るだけだ、とほっとする。こんな所はさっさと出て、いつもの日常に戻りたい。そう強く願っていた。
食堂に入ると、さすがに内部は普通だった。椅子もテーブルも簡素ではあるが、窓も研究棟に比べればかなり大きく、陽の光が充分に差している。
休憩に使う施設ならばこれくらいは最低は欲しい所だ。──病院の食堂の様な雰囲気だったとしても。
人気ナンバーワンと謳うだけあって、おかずは豪華だった。ハンバーグにクリームコロッケと唐揚げがつけ合わされている。それにご飯と味噌汁。サラダは各々好きに盛り、おかわり自由だと言うことだった。
事務的な言葉で案内係の男性が締めくくると、一団の中には微かに溜息を漏らす人もいた。そりゃそうだ、と蕾生は思う。
副所長の講話から受ける壮大な印象のまま研究所の散策が始まったが、結果は期待外れのものだった。
分野ごとに分かれている研究棟を三棟ほど回ったが、どこもエントランスから先は通してもらえず、蕾生ですら期待していたバイオテクノロジー研究の植物だったり、複雑な名前の薬品を使った実験だったり、新生物研究のヒントだったり等の心躍るような光景には全く出会えなかった。
パンフレットに沿ってただ研究所内をウロウロしただけで、せめて庭木や花でも植えてあれば季節柄目にも楽しいのだろうが、それすらも見かけることは叶わなかった。
全体ががっかりした面持ちでいると、いたたまれなくなったのか案内係の男性は少し明るい声で皆に話しかける。
「では、最後に私共の食堂で昼食を召し上がっていただきます。今日は職員の中で一番人気の高いメニューをご用意させていただきました。サラダバーには当研究所が監修しましたドレッシングの全種類をご用意しておりますので、ぜひお楽しみください」
「サラダかあ……」
少し盛り上がった周囲とは逆に蕾生が肩を落とす。それを見た永は嗜めるような口調で言った。
「もう、ライくんもたまには野菜を食べないと。普段、肉と米ばっかりなんだから」
「家では食ってるよ。外食で野菜食べる意味がわからん」
「そんなんだからこーんなにでかくなるんだ? うらやましいわー」
ふざけて言う永の様子は普段通りだった。
講演会が終わって研究所の散策中も特に変わったことはなく、あの変な違和感も蕾生の中では薄れていた。
後は飯を食って帰るだけだ、とほっとする。こんな所はさっさと出て、いつもの日常に戻りたい。そう強く願っていた。
食堂に入ると、さすがに内部は普通だった。椅子もテーブルも簡素ではあるが、窓も研究棟に比べればかなり大きく、陽の光が充分に差している。
休憩に使う施設ならばこれくらいは最低は欲しい所だ。──病院の食堂の様な雰囲気だったとしても。
人気ナンバーワンと謳うだけあって、おかずは豪華だった。ハンバーグにクリームコロッケと唐揚げがつけ合わされている。それにご飯と味噌汁。サラダは各々好きに盛り、おかわり自由だと言うことだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
出戻り巫女の日常
饕餮
ファンタジー
転生者であり、転生前にいた世界に巻き込まれ召喚されて逆戻りしてしまった主人公、黒木 桜。桜と呼べない皆の為にセレシェイラと名乗るも、前世である『リーチェ』の記憶があるからか、懐かしさ故か、それにひっついて歩く元騎士団長やら元騎士やら元神官長やら元侍女やら神殿関係者やらとの、「もしかして私、巻き込まれ体質……?」とぼやく日常と冒険。……になる予定。逆ハーではありません。
★本編完結済み。後日談を不定期更新。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~
一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】
悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……?
小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位!
※本作品は他サイトでも連載中です。
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
宙(そら)に願う。
星野そら
ファンタジー
コスモ・サンダーの内部紛争を収めたレイモンドは、組織の立て直しに着手する。紛争中、常に側に居たアレクセイを、破壊し尽くした第四艦隊の司令官として送り出す。ようやく、組織の形が整った頃、レイモンドはコスモ・サンダーの新しい道を付けるために、アレクセイを伴ってケイジ・ラダー氏に会いに行く。
ケイジ・ラダー氏の賛同を得て、メタル・ラダー社の子会社を立ち上げ、そのCEOとして采配をふるうことになった。
メタル・ラダー社の幹部として、クーリエとして一緒に働いていたランディをリクルートした帰り、極東地区に入ったあたりで、アレクセイとレイモンドが乗る宇宙船が宇宙軍に拉致される。
宇宙軍の極東基地からレイモンドを脱出させるため、アレクセイは宇宙軍士官の身分を明かすことになった。しかも脱出の途中で、ルーインが味方であるはずの宇宙軍の戦闘員に撃たれる。
レイモンドは、怪我をしたルーインと共に、リュウが率いるパトロール部隊の艦に乗りコスモ・サンダーへと帰還した。アレクセイを宇宙軍に残したまま…。
※『宙に散る』の最後にも書きましたが!
宙シリーズは、『宙に散る』で終わる予定でしたが、いいところで終わる小説を読むと、「この後、どうなるんだ」とよく思っていたので、続きを書きました。それに、話を広げすぎて、中途半端にほっぽり出した話題も多かったので、できるだけまとめてみました。
乙女ゲームやったことないのに悪役令嬢だそうでスルーした所
宝子
ファンタジー
大学の入学式の帰り、米田菜月は友人の山口彩芽とだべっていたところバスに突っ込まれて異世界転生する。
菜月はそこで乙女ゲームの悪役令嬢オリヴィアとなってしまうが、本人は「ゲーム? スマホの落ちゲーならやったことありますが……そんなことより鯖缶喰いたい」
逆に友人の彩芽の方が入学式の最中にネット小説で悪役令嬢ものばかり読みあさるような強者だった。しかし、彩芽は悪役令嬢オリヴィアの「お取り巻き」で「血縁」のアメリア。で正式なエンディングでは親子共々破産して首つりするというコース。
当然、主人公オリヴィアのへっぽこ具合をたたき直してステータス上げに励むアメリア(彩芽)。どこまでもマイペースなアホ具合をいかんなく発揮するオリヴィア(菜月)。
それに取り囲まれる愉快な仲間達。さあ、凸凹コンビの明日はどっちだ!?
※ 作中にざまぁ展開を否定する描写がありますが、宝子はざまぁ展開の物語も結構読みます。作品(キャラ)=作者という訳ではないことをご留意下さい。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体などとは何の関係もありません。
Alliance Possibility On-line~ロマンプレイのプレーヤーが多すぎる中で、普通にプレイしてたら最強になっていた~
百々 五十六
ファンタジー
極振りしてみたり、弱いとされている職やスキルを使ったり、あえてわき道にそれるプレイをするなど、一見、非効率的なプレイをして、ゲーム内で最強になるような作品が流行りすぎてしまったため、ゲームでみんな変なプレイ、ロマンプレイをするようになってしまった。
この世界初のフルダイブVRMMORPGである『Alliance Possibility On-line』でも皆ロマンを追いたがる。
憧れの、個性あふれるプレイ、一見非効率なプレイ、変なプレイを皆がしだした。
そんな中、実直に地道に普通なプレイをする少年のプレイヤーがいた。
名前は、早乙女 久。
プレイヤー名は オクツ。
運営が想定しているような、正しい順路で少しずつ強くなる彼は、非効率的なプレイをしていくプレイヤーたちを置き去っていく。
何か特別な力も、特別な出会いもないまま進む彼は、回り道なんかよりもよっぽど効率良く先頭をひた走る。
初討伐特典や、先行特典という、優位性を崩さず実直にプレイする彼は、ちゃんと強くなるし、ちゃんと話題になっていく。
ロマンばかり追い求めたプレイヤーの中で”普通”な彼が、目立っていく、新感覚VRMMO物語。
聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜
みおな
ファンタジー
ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。
そして、王太子殿下の婚約者でもあった。
だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。
「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」
父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる