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Interlude03 ミチル is Love …
13 透明な光と黒い闇
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奴隷出身の美少年(になる予定のクソガキ)、ミモザに起きたことをおさらいしよう。
①謎の大商人テン・イーにより、ジンと因縁のある怪しい商人ギルド鐘馗会に預けられた。
②ところが奉公させてもらえずに、鐘馗会の知り合いの武人でこれまたジンと因縁のあるガザニア・ビーストから武術を施された。
③修行の仕上げにとガザニアから武道大会に出ることを命じられたミモザは、鐘馗会によって怪しげな宗教施設に連れていかれた。
④そこで、なんか黒い牛の角みたいなもので胸を刺されたミモザは、意識が朦朧となったまま大会に出場した。
「怪しい人と、怪しいモノしか出てこないっ!」
ミチルはミモザからもたらされた情報に、改めて身震いした。
膝の上でニタニタしているミモザに注視する。こんな怪しさ満載の境遇で育てられたら、性癖のひとつやふたつ、ひん曲がって当然かもしれない。
「で、だ。お前は、その大会でベスティアを吐き出したんだろ?」
「はあ、そうなんですか? べすてぃあって何ですか?」
エリオットの問いに、ミモザは全く覚えがないという顔をしていた。それでエリオットは頭を抱える。
「くっそぉ、洗脳が完璧だ。こいつからは肝心の情報が引き出せないようになってやがる……」
「ところで、武道大会はこの街の道場出身者が集う、一種の発表会のようなものなのでは? 何故、部外者の彼が出場できたのです?」
先ほどから急に冴えるようになったジェイからの質問に、ジンが腕を組んだまま答えた。
「──いい質問だ。ここカーリアはフラーウムでも武術家を多く輩出する名門。ゆえに皇帝陛下からの信任厚く、カーリアで武勲を修めれば仕官が可能だ。武道大会はそういう優秀な武人を選出する側面もある。出場者はカーリアの道場出身者がほとんどだが、推薦枠というものがあってな。それを使えば他所の街の出身者も出場が可能だ。これには、カーリアだけに特権が集中することを防ぐ意味合いもある」
大会の優勝者は皇帝の御前試合に出られるとジンが言っていたことを、ミチルは思い出した。
ジンの長く難しい説明をどこまで理解したかはわからないが、ミモザはその中の単語に驚いていた。
「えっ? ここってカーリアなんですか?」
「そうだけど……」
ミチルが答えると、ミモザはまた首を捻っていた。
「おっかしいなあ。僕、カレンデュラにいたんですけど」
「何だと!?」
途端にジンが慌てた声を出す。ミチルは驚いて聞いた。
「どうしたんです、先生?」
「カレンデュラはフラーウムの西端の街だ。ここ、カーリアは東端。つまり、この餓鬼は広大なフラーウムを端から端まで横断したことになる」
「ははあ、それはさぞや長旅でしょうね」
新幹線や飛行機がある世界で育ったミチルには、それが何を意味するのかがわからなかった。
「カレンデュラからここに来るには砂漠を越えなくてはならん。こんな年少の餓鬼が過酷な旅に耐えられるか? しかも、こいつの反応からすると長旅をした実感がないようだが」
「えーっと、それは、洗脳されて意識がなかった……から?」
ミチルがイマイチ理解できない頭で考えていると、横でエリオットが「いや」と神妙な顔で割り込んだ。
「フラーウムを横断するにはほぼ半年かかるぜ。そんなに長い時間しかも子どもの、意識を奪った状態を保てる魔術なんて知らねえよ。現実的じゃねえ」
「ええー、そうなんだ……」
という事はどういうこと? ミチルの頭はだいぶこんがらがっている。
するとエリオットはますます顔を険しくして言った。
「それを解決する手段が、ひとつだけある」
「なに?」
「転移術だよ」
短い、けれどその象徴的な言葉に、その場の全員が息を呑んだ。
「ミチルのくしゃみ、みたいな?」
この場では一番の一般ピーポー、アニーが素朴に疑問を口にする。
それに対して、眉をひそめたままエリオットは答えた。
「ミチルのくしゃみ転移の原理はまだわかんねえから、同じだとは言えない。ただ、カエルラ=プルーマの既存の技術でもフラーウムを横断するくらいなら可能だ」
「なんと。アルブスとは本当に魔法大国なのだな」
ジンが感心したように相槌を打つ。
そういえば、エリィに初めて会った時に聞いた気がする。「転移の魔法は、かなり高位の魔術師が王族の許可を経てやっと使える」と言われたことをミチルは思い出した。
「まあ、例えば父王とウチの魔術最高顧問ならできると思うんだけどさ……」
オルレア王とスノードロップのことだと、ミチルは思う。けれどエリオットの言葉は歯切れが悪い。
「何年か前にクソ法皇が魔術統制をしちまって、転移魔法関係は禁術になってんだよ」
「ほうおう?」
新しいワードにミチルは首を傾げた。ほうおうって、鳥じゃないよね。ロー○法皇とかの方かな?
「西大陸の教義をカエルラ=プルーマ全体に広めるっていう方針の国があってさ。そこは独立宗教国家を名乗ってんだけど、そのトップが法皇」
「西大陸の教義って?」
ミチルの察しが悪いのは当然だが、田舎出身のアニーもよくわからないと言ったような顔をしていた。そこでエリオットはもう少し噛み砕いて説明する。
「アルブスやカエルレウムでいう『チル一族』ってのは、ルブルムでは『プルケリマ』、フラーウムでは『仙人』って呼ばれてるだろ? そんなのまどろっこしいから、『チル一族』で統一しようぜって宣言してるのが、そのクソ法皇だ」
「ふむ……聞いたことはあるな」
ジンが頷くと、エリオットはせせら笑いながら付け足した。
「それで西大陸はほぼ統一されちまったから、アルブスやカエルレウムにおける法皇の影響力はでかい。他の大陸にもそれなりに発言力があるんじゃねえの? 目の上のたんこぶみたいで、まじウザイ国なんだよ」
「つまり、転移術ってのは今は使えないんだよな? じゃあ、結局、このガキがカーリアまで来れた理由は?」
アニーの質問に、エリオットは「だからさ」と前置いたものの、言いにくそうにしていた。
「法皇に逆らってまで転移術を使うことに躊躇がない、そういう組織だってことだよ。そこまでの過激派で、かつ転移術は国レベルの力がないと使えない……って言えばさ」
「アーテル帝国が絡んでいる、と言うのか?」
ジンの言葉に、ジェイの表情が強張った。ミチルとアニーは相変わらず疑問符が浮かんでいる。
緊迫した空気の中、エリオットの言葉が静かに落ちた。
「こいつは、ヤベエことになりそうだぜ……」
①謎の大商人テン・イーにより、ジンと因縁のある怪しい商人ギルド鐘馗会に預けられた。
②ところが奉公させてもらえずに、鐘馗会の知り合いの武人でこれまたジンと因縁のあるガザニア・ビーストから武術を施された。
③修行の仕上げにとガザニアから武道大会に出ることを命じられたミモザは、鐘馗会によって怪しげな宗教施設に連れていかれた。
④そこで、なんか黒い牛の角みたいなもので胸を刺されたミモザは、意識が朦朧となったまま大会に出場した。
「怪しい人と、怪しいモノしか出てこないっ!」
ミチルはミモザからもたらされた情報に、改めて身震いした。
膝の上でニタニタしているミモザに注視する。こんな怪しさ満載の境遇で育てられたら、性癖のひとつやふたつ、ひん曲がって当然かもしれない。
「で、だ。お前は、その大会でベスティアを吐き出したんだろ?」
「はあ、そうなんですか? べすてぃあって何ですか?」
エリオットの問いに、ミモザは全く覚えがないという顔をしていた。それでエリオットは頭を抱える。
「くっそぉ、洗脳が完璧だ。こいつからは肝心の情報が引き出せないようになってやがる……」
「ところで、武道大会はこの街の道場出身者が集う、一種の発表会のようなものなのでは? 何故、部外者の彼が出場できたのです?」
先ほどから急に冴えるようになったジェイからの質問に、ジンが腕を組んだまま答えた。
「──いい質問だ。ここカーリアはフラーウムでも武術家を多く輩出する名門。ゆえに皇帝陛下からの信任厚く、カーリアで武勲を修めれば仕官が可能だ。武道大会はそういう優秀な武人を選出する側面もある。出場者はカーリアの道場出身者がほとんどだが、推薦枠というものがあってな。それを使えば他所の街の出身者も出場が可能だ。これには、カーリアだけに特権が集中することを防ぐ意味合いもある」
大会の優勝者は皇帝の御前試合に出られるとジンが言っていたことを、ミチルは思い出した。
ジンの長く難しい説明をどこまで理解したかはわからないが、ミモザはその中の単語に驚いていた。
「えっ? ここってカーリアなんですか?」
「そうだけど……」
ミチルが答えると、ミモザはまた首を捻っていた。
「おっかしいなあ。僕、カレンデュラにいたんですけど」
「何だと!?」
途端にジンが慌てた声を出す。ミチルは驚いて聞いた。
「どうしたんです、先生?」
「カレンデュラはフラーウムの西端の街だ。ここ、カーリアは東端。つまり、この餓鬼は広大なフラーウムを端から端まで横断したことになる」
「ははあ、それはさぞや長旅でしょうね」
新幹線や飛行機がある世界で育ったミチルには、それが何を意味するのかがわからなかった。
「カレンデュラからここに来るには砂漠を越えなくてはならん。こんな年少の餓鬼が過酷な旅に耐えられるか? しかも、こいつの反応からすると長旅をした実感がないようだが」
「えーっと、それは、洗脳されて意識がなかった……から?」
ミチルがイマイチ理解できない頭で考えていると、横でエリオットが「いや」と神妙な顔で割り込んだ。
「フラーウムを横断するにはほぼ半年かかるぜ。そんなに長い時間しかも子どもの、意識を奪った状態を保てる魔術なんて知らねえよ。現実的じゃねえ」
「ええー、そうなんだ……」
という事はどういうこと? ミチルの頭はだいぶこんがらがっている。
するとエリオットはますます顔を険しくして言った。
「それを解決する手段が、ひとつだけある」
「なに?」
「転移術だよ」
短い、けれどその象徴的な言葉に、その場の全員が息を呑んだ。
「ミチルのくしゃみ、みたいな?」
この場では一番の一般ピーポー、アニーが素朴に疑問を口にする。
それに対して、眉をひそめたままエリオットは答えた。
「ミチルのくしゃみ転移の原理はまだわかんねえから、同じだとは言えない。ただ、カエルラ=プルーマの既存の技術でもフラーウムを横断するくらいなら可能だ」
「なんと。アルブスとは本当に魔法大国なのだな」
ジンが感心したように相槌を打つ。
そういえば、エリィに初めて会った時に聞いた気がする。「転移の魔法は、かなり高位の魔術師が王族の許可を経てやっと使える」と言われたことをミチルは思い出した。
「まあ、例えば父王とウチの魔術最高顧問ならできると思うんだけどさ……」
オルレア王とスノードロップのことだと、ミチルは思う。けれどエリオットの言葉は歯切れが悪い。
「何年か前にクソ法皇が魔術統制をしちまって、転移魔法関係は禁術になってんだよ」
「ほうおう?」
新しいワードにミチルは首を傾げた。ほうおうって、鳥じゃないよね。ロー○法皇とかの方かな?
「西大陸の教義をカエルラ=プルーマ全体に広めるっていう方針の国があってさ。そこは独立宗教国家を名乗ってんだけど、そのトップが法皇」
「西大陸の教義って?」
ミチルの察しが悪いのは当然だが、田舎出身のアニーもよくわからないと言ったような顔をしていた。そこでエリオットはもう少し噛み砕いて説明する。
「アルブスやカエルレウムでいう『チル一族』ってのは、ルブルムでは『プルケリマ』、フラーウムでは『仙人』って呼ばれてるだろ? そんなのまどろっこしいから、『チル一族』で統一しようぜって宣言してるのが、そのクソ法皇だ」
「ふむ……聞いたことはあるな」
ジンが頷くと、エリオットはせせら笑いながら付け足した。
「それで西大陸はほぼ統一されちまったから、アルブスやカエルレウムにおける法皇の影響力はでかい。他の大陸にもそれなりに発言力があるんじゃねえの? 目の上のたんこぶみたいで、まじウザイ国なんだよ」
「つまり、転移術ってのは今は使えないんだよな? じゃあ、結局、このガキがカーリアまで来れた理由は?」
アニーの質問に、エリオットは「だからさ」と前置いたものの、言いにくそうにしていた。
「法皇に逆らってまで転移術を使うことに躊躇がない、そういう組織だってことだよ。そこまでの過激派で、かつ転移術は国レベルの力がないと使えない……って言えばさ」
「アーテル帝国が絡んでいる、と言うのか?」
ジンの言葉に、ジェイの表情が強張った。ミチルとアニーは相変わらず疑問符が浮かんでいる。
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