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Interlude03 ミチル is Love …

6 カタキの商人

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「急にどうした、シウレン。テン・イーを知っているのか?」

 ミチルとアニーのただならない雰囲気に、ジンが少し神妙な面持ちで聞く。

「ええっと……」

 だがミチルは自分から言っていいものか、悩んだ。そこでアニーの方を見る。
 アニーは暗い表情で、怒りを押し殺しながら答えた。

「俺の両親は、テン・イーに殺された……」

 アニーの話はそこから、己の幼少期に遡る。
 母親のペンダントをテン・イーが狙い、家に泥棒が押し入ったこと。両親はその泥棒に殺されたこと。
 それからつい最近、テン・イーとボスが取引したこと。そこでベスティアを持ち込まれたことも。
 アニーが怒りを携えながら、ぽつりぽつりと話している間、皆真剣に耳を傾けていた。

「やはりな。テン・イーは、自称世界を股にかける大商人らしいが、ヤツが取り扱う品物は悉く怪しいものばかりだ」

 アニーの話を聞き終えたジンは、腕を組んで難しい顔のまま。ミチルはその隙にようやく質問できた。

「先生は、テン・イーに会ったことがあるの?」

「うむ。ヤツは自身をフラーウム人だと言っているからな、何度か皇帝陛下に品物を献上に来た。だが、その出身も儂は信じられないと思っている」
 
「お前、フラーウム皇帝に仕えてたのか?」

 エリオットが目を丸くして口を挟んだ。それにジンは短く頷く。

「まあな」

「へええ……どうりで偉そうな態度だと思った」

 そんな悪態にいちいち反応してもいられないジンは、構わずに話を続けた。


 
「あの廃屋は、テン・イーが関わっていると儂は見ている。度々目撃されているし、材質のわからない建物なんぞを扱えるのは、フラーウムではヤツくらいだろう。さらに、ヤツが鐘馗しょうき会に出資しているという噂も聞いた」

「……随分と頼りない話だな。噂とか、目撃証言とかさ。確証があるわけじゃねえんだな?」
 
 エリオットの賢いツッコミであった。するとジンは少し言葉に詰まる。

「むう……そう言われると痛いが」

「まあいいや。火のない所に煙は立たねえしな。ここで暮らすお前が言うなら、そのテンってヤツが関わってる可能性は高そうだな」

「うむ。貴様らがいたあの怪しい廃屋には、テンが関わっている。そのテンは鐘馗会とも繋がっている。ゆえに、貴様らは鐘馗会と接点があってもおかしくない状況にいる、と儂は言いたかったのだ」

「なるほどね、でもさ──」

 ジンの言い分に頷きながら、エリオットが反論しようとした所に、アニーがまたテーブルをドンと叩いて叫んだ。

「俺たちがテン・イーと繋がってるワケないだろッ! 繋がった瞬間に、俺があいつを殺してやる!」

 憎しみにアニーの顔が歪む。それは、ミチルが今まで見てきた彼のどの姿よりも、恐ろしかった。
 どんな言葉をかけるべきなのか、怒りに震えるアニーをミチルは見ていることしかできない。

 そんなアニーを宥めるでもなく、エリオットはジンに向けて冷静に言った。

「お前は今、このアニーの怒りと過去の境遇を知った。これでもおれ達がテン・イー、ならびに鐘馗会と繋がってると疑うのか?」

「……」

 ジンは、エリオットの真っ直ぐな眼差しと、燻り続ける怒りと戦うアニーの瞳を見定めた後、肩で大きく息を吐いた。

「……わかった。そういう事なら、貴様らを信じてみよう」

「先生!」

 ミチルが嬉しそうにしていると、ジンはその頬に触れて微笑みながら付け足す。

「まあ、儂のシウレンが貴様らを信用しているからな、いたしかたないだろう」

 なでなでーさわさわー

「ふにゃあああ……!」

 先生の指先がとっても気持ちいい!
 ミチルは指からの熱でとろけそうになった!

「おおい! てめえ、何、ミチルの好感度上げようとしてる! いやらしく触るんじゃねえ!」

 ジンとの交渉術は完璧だったのに、エリオットはもう頭に血が昇って騒ぎ立てた。


 
「アニー殿、大丈夫か」

 ジンとエリオットがぎゃおぎゃお言っている横で、ジェイはずっと怒りに耐えているアニーを気遣った。

「ああ……わりいな、情けない姿、見せちまった」

 アニーは少し表情をいつもの笑顔に戻していた。それを見て、ジェイもふっと笑う。

「気にするな。アニー殿のことを知れて、私は嬉しかった」

 ジェイの純粋スマイルは、他のイケメンにもちょっと効く!

「ばっ! お前の純粋培養さがムカつくんだよっ!」

「む? 何故急に怒るのだ?」

「うるせえ、ばーか!」

 そんな二人のイケメンのやり取りをばっちり見てしまったミチルは。

「やだ……尊い……」

 思わずそんな事を口走っていた。




「とにかく、夜も更けた。続きはまた明日にする。貴様らも仕方ないから泊めてやろう」

 なんかいい感じにまとまった所でジンが言うと、イケメン三人も大きく頷いた。

「まあ、むさ苦しい所だけど我慢してやるか」

「いやいやいや、あの廃屋に比べたら天国だろうが!」

「……お世話になる」

 偉そうなエリオットにアニーがつっこんで、ジェイはマイペースに軽くお辞儀をしていた。
 そんな雰囲気が懐かしくて、ミチルはなんだかやっと安心した気がした。

「ふわ……オレも、なんか眠たくなっちゃった」

「ミチルはどこで寝るんだ?」

 エリオットが何の気無しに聞くと、ジンは当然のような顔をしてミチルの肩を抱く。

「シウレンは、儂と床を共にする」

 ……ん?
 あまりに自然に言われたので、ミチルもよく意味が飲み込めなかった。

「ハアアァアァ!?」

 アニーとエリオットは再び頭が噴火したように、怒り狂った。

「こぉの、白髪クソジジイ! ミチルに何するつもりだぁあ!」

 エリオットがその胸ぐらを掴むが、ジンは涼しい顔で笑った。

「ふ。野暮なことを聞くな」

「きえええ!」

 ミチルはミチルで、大興奮!

「ああああ! 無理ぃいい! ミチルが他の男と同衾するなんて、ムリィイイ!!」

 アニーは真っ青になって狂い叫ぶ!

「む、胸が、胸が焦げるッ!」

 ジェイはもはやそれしか語彙がない!

「貴様らは、奥の雑魚部屋で雑魚寝していろ」

 ジンの平淡な言葉に、三人のイケメンは断固抗議した。

「冗談じゃない!!」



 その夜。
 ジンの部屋は遅くまで怒号と轟音が響いていた。
 弟子達は怖がって眠れぬ夜を過ごしたという……
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