96 / 109
Interlude03 ミチル is Love …
1 ミチルって愛だよね(挿絵あり)
しおりを挟むすっかり言い忘れていたが、ここは黄の国、フラーウム。ジンが道場を構えているのは、都からほど遠い田舎町カーリア。
役人の目が届かない田舎であれば、荒くれ者がたむろすることもある。だがカーリアは武道が盛んで、ジンを始め多数の熟練者が普通に道を闊歩している。そんな町にケチなチンピラが住み着くはずもないので、カーリアには治安の悪い箇所はない。
そんな中、暗い路地裏に廃墟のようなビルがあれば、そこは唯一、不穏な輩がいるかもしれない。ジンが、追ってきた人影が入るならここだと決めつけて、躊躇いもせずに踏み込んだのはそういう理由であった。
「説明が長いっ!」
ミチルは思わず何かにつっこむ。肩の上でバタバタ騒いだのでジンに怒られた。
「騒ぐな、シウレン。敵地だぞ」
「いや、ていうか……」
ミチルは懐かしい匂いを嗅ぎ分けていた。さっきから心臓が逸っている。
「おい、アニー、アイツの肩に乗ってんの……」
ジンと対峙するおかっぱ頭の男が、仲間の長髪の男の腕を引いた。
──今、アニーって言った!?
「ん? え、ウソでしょ、あの可愛いヒップは……」
言われた長髪の男は、ワナワナと震えながらジンの荷物を指差した。
──臆面もなく「可愛いヒップ」とか言っちゃう変態性!!
て言うか、その声はもう間違いない。あの二人だ。
「ミチルッ!」
三人目の声がした。こちらに近づいてくる、懐かしい声。
ミチルは居ても立っても居られず、さらにバタバタしてジンに訴える。
「せ、せんせ! 先生! 降ろして降ろして!」
「危険だ、シウレン」
「違う! 多分、その人達、オレの知り合い!」
「なに!?」
逸る気持ちを抑えられなくて、ジンが訝しんだ隙に、ミチルはその肩から飛び降りる。
が、運動神経が切れているので、まともな着地は叶わず尻から落ちた。
「ふぎゅっ!」
打ちつけた尻を構わずに、ミチルは振り返る。
目の前には、超絶過ぎるイケメン達。
「やっぱ、ミチル!」
「エリオット!」
大きな瞳を丸くしていたのは、小悪魔のように小生意気なギャル男プリンス。
「ミチルぅう!」
「アニー!」
甘い笑顔を輝かせたのは、国民の彼氏級ホストアサシン。
それから──
「ミチル!」
大きな腕でミチルを抱きしめたのは、頼れるぽんこつナイト。
「ジェイ……!」
ぎゅむっと、スリスリ!
「ふにゃあぁ……っ」
やだあ! 腰と尻が砕ける音がする!
「ああ、良かった! 無事だったのだな、ミチル!」
ジェイの天然スリスリがミチルを翻弄する!
「ふぁああ……っ!」
いやあ! もうどうにかなっちゃう!
「こ、こいつ、なんというテクニシャン!」
百戦錬磨のジンをも唸らせるジェイの手つきに、あわやミチルが昇天しかけた時。
「てめえ、このやろう!」
「第1の男だからって、お前はいつもそう!」
エリオットが後ろからジェイの首根っこを引っ掴み、アニーはその背にしがみついてミチルから引き離す。
「むむ……っ?」
何故怒られたのかわからないジェイは、二人に体をホールドされて固まった。
「はあん……すごかった……」
解放されたミチルは、全然立ち上がれる気がしない。
「なんということだ、儂のシウレン……」
ジェイの行動に触発されたのか、なんかその気になったジンの手がミチルに伸びる。
「ちょ、先生!」
「シウレンは渡さぬ……」
「や、ああ!」
なんならこの場で押し倒して、目の前でわからせようとしてくる毒舌師範の熱い抱擁に、ミチルは全身の力が抜けた。
「ふざけんな、白髪クソジジイ!!」
エリオットの嫉妬に狂った稲妻がジンに向かって走る!
「ふん!」
その雷撃を片手で払ったジンは、ようやく冷静を取り戻してミチルを離し、代わりにエリオットを鋭い視線で睨んだ。
「な……んだ、こいつ……」
軽くあしらわれて、少し自信喪失したエリオットだったが、それでも気丈にジンを睨み返した。
「あのオッサン、なんて危険な変態なんだ……。ミチルのおしりは大丈夫なのか……?」
「む? どういうことだ、アニー殿」
「……お前は黙っとけ」
アニーとジェイのやり取りも聞こえない二人は、ジリジリと睨み合いながら間合いをつめていった。
「おい、この間男が。おれの妻になんてことしやがった」
「妻……? ふっ、若造が。儂のシウレンが貴様などになびくものか」
「シウレンって何だ! おれのミチルだ!」
「ミチル、か。その名は捨てて、シウレンは儂のものになったのだ」
はああああ!?
ジンの爆弾発言に、イケメン三人が声を揃えて奇声を上げた。
「捨ててねえし!!」
そんな一触即発の事態を、ミチルの大声が止めた。
「お前たち、いいかげんにしろぉ! イケメンだからって何でもやっていいワケじゃねえぞぉ!」
「ミ、ミチル……?」
ある意味、ミチルに一番幻想を抱いていたアニーが、驚きに満ちた顔で狼狽えた。
「せっかく皆と会えたのに! 先生のバカッ!」
「シ、シウレン……?」
次にミチルに妄想を抱いていたジンも、目を見張って驚いた。
「ジェイぃい……アニーぃい……エリオットぉお……」
ミチルは三人のイケメンの姿を順番に確認したあと、べしょっと顔を涙で濡らす。
「うわああああん! みんなが無事で良かったよぉおおお!!」
ミチルゥウウウウ!!!
ジェイもアニーもエリオットも、そこに磁石で引かれたかのようにミチルの元に駆け寄った。
それから四人でダンゴになって喜び合う。
ミチルー!
みんなー!
ミチルゥー♡
みんなぁ!
「な、なんだ、これは……」
四人の異様な触れ合いに、ジンは呆気にとられていた。
「シウレン……いや、ミチル。貴様は……愛の化身なのか……?」
ミチル is Love……!
※ 今月のみ更新頻度を上げ、曜日関係なく投稿していきます。
毎18時、曜日ランダム更新でよろしくお願いします!
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生したので異世界でショタコンライフを堪能します
のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。
けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。
どうやら俺は転生してしまったようだ。
元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!!
ショタ最高!ショタは世界を救う!!!
ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!
君の瞳に囚われて
ビスケット
BL
なんちゃって侯爵令息カイン。母子二人、数人の使用人に世話をされながら、ふわふわと惰眠を貪るような平穏な毎日を過ごしている。隔絶された田舎でのんきな暮らしをしていたある日、思い出す。
ここは正に、かつて妹がやっていた乙女ゲーム『貴公子達の花園』の舞台であると。しかも将来豚の餌になる運命にある、モブ令息のカインだ。ううむ、しかし分かったところで、すでにどうしようもない状況である。なぜなら、俺はこの世界のことをほとんど知らないからだ。予備知識は、自分の運命が悪役令嬢の手先となって破滅し、監禁、拷問、豚の餌という事だけ。妹が話す内容はほとんど聞き流していたが、こいつのことだけは悲惨すぎて覚えていたに過ぎない。悪役令嬢が誰かも知らんが、何とか回避できるように俺は、俺の出来ることをすることにする。
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!
あ
BL
16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。
僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。
目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!
しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?
バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!
でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?
嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。
◎体格差、年の差カップル
※てんぱる様の表紙をお借りしました。
変幻自在の領主は美しい両性具有の伴侶を淫らに変える
琴葉悠
BL
遠い未来。
人ならざる者達が、人を支配し、統治する世界。
様々な統治者が居たが、被支配層の間で名前で最も有名なのは四大真祖と呼ばれる統治者たちだった。
だが、統治者たちの間では更に上の存在が有名だった。
誰も彼の存在に逆らうことなかれ――
そう言われる程の存在がいた。
その名はニエンテ――
見る者によって姿を変えると言う謎の存在。
その存在が住まう城に、六本の脚をもつ馬達が走る馬車と、同じような六本脚の無数の馬たちが引く大型の馬車が向かっていた。
その馬車の中にば絶世の美貌を持つ青年が花嫁衣装を纏っていた──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる