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Meets04 毒舌師範
19 弟子を守ることこそ我がホコリ
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ここはフラーウムのとある田舎。今日は武道大会が開かれていたが、決勝戦中にそれは起きた。
黒い影を吐き出した後、昏倒してしまった選手の少年。
その側で黒い影がムクムクと膨れ上がり、天井に届くほどの獣に成り果てる。
「ゴワォオオ!」
その巨大な獣は、虎のようにも見えたため、ミチルの脳裏には「これはベスティガー!」と言う、しょうもないネーミングが浮かんだ。
「先生! ヤバいですよ、これ!」
「うむ……なんと大きな黒獣だ。これだけのものは初めてだ」
これでも、ジンとミチルはこの場の誰よりも冷静だった。
ベスティガーの姿に、他の選手達は騒ぎながら逃げ惑う。観客に至っては阿鼻叫喚。
多数の人が右往左往しているが、ジンの弟子達は師匠がいるのでなんとかその場で踏みとどまっていた。
「お前達、あの倒れた少年を連れて会場の外へ逃げろ」
「そんな、先生はどうなさるんですか!?」
師範代の一人が怒号のような声を上げる。そんな弟子達の方を、ニヤリと笑ってジンは言った。
「ここは、儂とシウレンに任せろ。お前達は観客達の非難誘導に全神経を注げ」
ちょっと! しれっとオレまで数に入れないでよ!
ミチルは文句のひとつも言いたかったが、不思議とここから逃げたいとは思わなかった。
こいつは、宿敵だ。
何度も何度も対峙した。そしてその度に勝ってきた。
まあ、勝ってるのは主にイケメン達だけど。それでも。
オレは、こいつと戦わなくてはならない!
「やりましょう! 先生!」
ミチルは、この異世界に来て初めて自らの意思で敵に立ち向かう。
その気概を見たジンは、満足げに笑った。
「よく言った、シウレン。それでこそ、儂の愛弟子だ」
「はい!」
師範代達が軽やかに倒れた少年を回収し、年少の弟子達とともに会場を去ったのを見た後、ジンはベスティガーに向かって構えた。
「まずは小手調べといくか。シウレン、そこで見ておけ」
構えるジンの腕に、青い石の腕輪が揺れる。
それがとても頼もしく見えて、ミチルの気合も高まった。
「はい、先生!」
「ハァ!」
ジンの見えない蹴りが、ベスティガーの胴に炸裂した。
蹴りの軌道通りに、胴回りからベスティガーは真っ二つになる。
「わっ、すご!」
頭から胸まで、胴から後ろ足に分かれたベスティガーの体は、黒い陽炎のようにそこにユラユラと居続ける。
「セァ!」
そこへすかさず、ジンの見えない拳がベスティガーの胸に叩き込まれた。
するとベスティガーの上半身は勢いよく散って、黒い霧となる。
「すごい! でも……」
ミチルは、武器を持たないジンがここまでベスティアを追いつめたことに驚いていた。
しかし、ここに来た時、野犬ほどの大きさのベスティアを霧散させたような感覚は得られていない。
「まだだ!」
形がまだ残るベスティガーの下半身にも、ジンは再度蹴りを繰り出した。
すると上半身同様、形が崩れるが、黒い霧がそこに漂い続ける。
「これは……」
ミチルはこの感じを見たことがある。
アルブスでオルレア王がベスティフォンを魔法で倒そうとしたけれど、結局復活してしまった時に似ていた。
「むう……やはり、図体が大き過ぎる、か」
ジンも構えを崩さずに、漂う霧を見つめていた。
黒い霧は、次第に濃くなり再び獣の体を形成する。
「ガアアァ!」
「ああっ!」
やはり、ベスティガーは復活してしまった。
その雄叫びが、幾重にも重なって聞こえたような気がした。
それに気づいたジンは、一つの仮説を唱えて、脂汗を流す。
「複数の気がある。しかも、儂はそのどれもを知っている。まさか、今まで儂が倒したと思っていた黒獣の……」
「え?」
ミチルはジンの仮説を聞いて、震え上がった。
「何ということだ、儂は黒獣を倒した訳ではなかったのだ。儂の技で塵となった黒獣どもが、全て合わさって、こいつになったのでは……?」
「ええええ……!?」
その仮説は、ジンにもミチルにも絶望をもたらした。
けれどミチルは心の端で、やはり生身でベスティアは倒せないのだと、納得もしていた。
「ウゴァア!」
ベスティガーの痛烈な前足パンチがジンに向けられた。
「くっ!」
ジンは直撃は免れたものの、ベスティガーと距離を取らざるを得なくなった。
「先生ぇ!」
「シウレン! 儂に気を取られるな! 目の前の黒獣だけを見ていろ!」
「──え?」
今、この瞬間では、ミチルの方がベスティガーに近い。
マンガ的な表現をするなら、「いいのか? そこは俺の間合いだぜ」状態だ。
「ガオオオォッ!」
「シウレン!!」
ベスティガーの前足パンチが、今度はミチルを襲う!
薙ぎ払う鞭のように、それはミチル目がけて振り下ろされた。
「!」
ガキーン!
「せ、先生!?」
間一髪で、ミチルの前にジンが防ぎ立つことに成功していた。
両腕で、ジンはベスティガーの鋭い爪を受け止めていた。
「ぐぐ……シウレン、今のうちに距離を、とれ……ッ!」
「はいいぃ!」
ミチルは反射的に、数メートル走って下がる。
目の前には、ベスティガーの攻撃を防ぎ続けるジンの背中があった。
「先生ぇえ!」
「おおおお……!」
ジンは渾身の力でベスティガーの前足を押し返して、すぐさま後ろに跳ぶ。
だが、その反動で──
パキーン!
「ああっ!」
ジンの、青い石の、腕輪が折れた。
黒い影を吐き出した後、昏倒してしまった選手の少年。
その側で黒い影がムクムクと膨れ上がり、天井に届くほどの獣に成り果てる。
「ゴワォオオ!」
その巨大な獣は、虎のようにも見えたため、ミチルの脳裏には「これはベスティガー!」と言う、しょうもないネーミングが浮かんだ。
「先生! ヤバいですよ、これ!」
「うむ……なんと大きな黒獣だ。これだけのものは初めてだ」
これでも、ジンとミチルはこの場の誰よりも冷静だった。
ベスティガーの姿に、他の選手達は騒ぎながら逃げ惑う。観客に至っては阿鼻叫喚。
多数の人が右往左往しているが、ジンの弟子達は師匠がいるのでなんとかその場で踏みとどまっていた。
「お前達、あの倒れた少年を連れて会場の外へ逃げろ」
「そんな、先生はどうなさるんですか!?」
師範代の一人が怒号のような声を上げる。そんな弟子達の方を、ニヤリと笑ってジンは言った。
「ここは、儂とシウレンに任せろ。お前達は観客達の非難誘導に全神経を注げ」
ちょっと! しれっとオレまで数に入れないでよ!
ミチルは文句のひとつも言いたかったが、不思議とここから逃げたいとは思わなかった。
こいつは、宿敵だ。
何度も何度も対峙した。そしてその度に勝ってきた。
まあ、勝ってるのは主にイケメン達だけど。それでも。
オレは、こいつと戦わなくてはならない!
「やりましょう! 先生!」
ミチルは、この異世界に来て初めて自らの意思で敵に立ち向かう。
その気概を見たジンは、満足げに笑った。
「よく言った、シウレン。それでこそ、儂の愛弟子だ」
「はい!」
師範代達が軽やかに倒れた少年を回収し、年少の弟子達とともに会場を去ったのを見た後、ジンはベスティガーに向かって構えた。
「まずは小手調べといくか。シウレン、そこで見ておけ」
構えるジンの腕に、青い石の腕輪が揺れる。
それがとても頼もしく見えて、ミチルの気合も高まった。
「はい、先生!」
「ハァ!」
ジンの見えない蹴りが、ベスティガーの胴に炸裂した。
蹴りの軌道通りに、胴回りからベスティガーは真っ二つになる。
「わっ、すご!」
頭から胸まで、胴から後ろ足に分かれたベスティガーの体は、黒い陽炎のようにそこにユラユラと居続ける。
「セァ!」
そこへすかさず、ジンの見えない拳がベスティガーの胸に叩き込まれた。
するとベスティガーの上半身は勢いよく散って、黒い霧となる。
「すごい! でも……」
ミチルは、武器を持たないジンがここまでベスティアを追いつめたことに驚いていた。
しかし、ここに来た時、野犬ほどの大きさのベスティアを霧散させたような感覚は得られていない。
「まだだ!」
形がまだ残るベスティガーの下半身にも、ジンは再度蹴りを繰り出した。
すると上半身同様、形が崩れるが、黒い霧がそこに漂い続ける。
「これは……」
ミチルはこの感じを見たことがある。
アルブスでオルレア王がベスティフォンを魔法で倒そうとしたけれど、結局復活してしまった時に似ていた。
「むう……やはり、図体が大き過ぎる、か」
ジンも構えを崩さずに、漂う霧を見つめていた。
黒い霧は、次第に濃くなり再び獣の体を形成する。
「ガアアァ!」
「ああっ!」
やはり、ベスティガーは復活してしまった。
その雄叫びが、幾重にも重なって聞こえたような気がした。
それに気づいたジンは、一つの仮説を唱えて、脂汗を流す。
「複数の気がある。しかも、儂はそのどれもを知っている。まさか、今まで儂が倒したと思っていた黒獣の……」
「え?」
ミチルはジンの仮説を聞いて、震え上がった。
「何ということだ、儂は黒獣を倒した訳ではなかったのだ。儂の技で塵となった黒獣どもが、全て合わさって、こいつになったのでは……?」
「ええええ……!?」
その仮説は、ジンにもミチルにも絶望をもたらした。
けれどミチルは心の端で、やはり生身でベスティアは倒せないのだと、納得もしていた。
「ウゴァア!」
ベスティガーの痛烈な前足パンチがジンに向けられた。
「くっ!」
ジンは直撃は免れたものの、ベスティガーと距離を取らざるを得なくなった。
「先生ぇ!」
「シウレン! 儂に気を取られるな! 目の前の黒獣だけを見ていろ!」
「──え?」
今、この瞬間では、ミチルの方がベスティガーに近い。
マンガ的な表現をするなら、「いいのか? そこは俺の間合いだぜ」状態だ。
「ガオオオォッ!」
「シウレン!!」
ベスティガーの前足パンチが、今度はミチルを襲う!
薙ぎ払う鞭のように、それはミチル目がけて振り下ろされた。
「!」
ガキーン!
「せ、先生!?」
間一髪で、ミチルの前にジンが防ぎ立つことに成功していた。
両腕で、ジンはベスティガーの鋭い爪を受け止めていた。
「ぐぐ……シウレン、今のうちに距離を、とれ……ッ!」
「はいいぃ!」
ミチルは反射的に、数メートル走って下がる。
目の前には、ベスティガーの攻撃を防ぎ続けるジンの背中があった。
「先生ぇえ!」
「おおおお……!」
ジンは渾身の力でベスティガーの前足を押し返して、すぐさま後ろに跳ぶ。
だが、その反動で──
パキーン!
「ああっ!」
ジンの、青い石の、腕輪が折れた。
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