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Meets04 毒舌師範

2 汚い声を出せ!

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「貴様は、何者だ? 何故ここにいる……?」

 銀髪のイケおじに凄まれたミチルは口をパクパクさせていた。
 目の前の綺麗な顔と、殺されるかもしれない恐怖で声が出ない。

「立て」

 仁王立ちの男性は、短く、けれどものすっごく怒った顔でミチルに言い放つ。

「あ、ああ……」

 しかしミチルは二重の意味で腰が砕けているので、すぐには立てなかった。

「立て。殺すぞ」

「ひえええっ!」

 冷たい目で、苛立ちをのせてそんな事を言われた日には、もうどうしようもない。
 ミチルはバネが伸びたみたいになって、急いで立ち上がった。

 するとその男性の顔がぐっと近くに見えた。
 と言うのも、ミチルが立ち上がった瞬間に距離をつめられて、顔を覗き込まれたからだ。

 キャアアア! カッコイイッ!!

 恐怖を感じる頭とは別に、ミチルの心臓は思わず興奮してしまった。
 より近くで見たら、助演男優賞並の美貌があるのだから。主演ではないのは若くないから。どちらかと言えばそのカッコ良さで主演を食ってしまうバイプレイヤー的な雰囲気だったのだ。

「ふん……」

 銀髪の男性は、ミチルの顔を凝視した後、不機嫌な顔のままでミチルの右腕を掴んで捻り上げた。

「い、痛いッ!」

 ヤバイ。まじで殺されるかもしれない。
 ミチルが思わず悲鳴を上げるのと同時に、ふわっと体が浮き上がった。

「ええっ!?」

 次の瞬間には、ミチルの体は先ほどまでイヤンな雰囲気だったベッドに投げ出された。

「うわぁっ!」

 少し硬めの布団にミチルの体が沈む。何が起きたのか理解する前に、銀髪男性がその上にのしかかる。

「きえええっ!」

 男性の長い髪が、パサとミチルの顔に落ちた。
 く、くすぐったいっ!

「貴様……何処から忍び込んだか知らないが、邪魔をしたってのはわかっているな……?」

「ご、ごごご、ごめんなさいぃ!」

 ねえ、何これ! 何なのこれ!
 どうしてこんなイケおじに組み敷かれてんの!?

「どうしてくれるんだ……? お前、代わりをするか……?」

 代わりってナニの代わり!?
 ていうか、そんな素敵な声で耳元で囁かないで! ムズムズする!

「まあ……顔は合格点だな、これならいいか」

 オレはナニに合格しちゃったのぉお!!

「あ、ああ……」

 ミチルは恐怖と緊張で体が動かなかった。
 イケおじの細くて綺麗な指が、ミチルの頬をなんか艶かしくなぞる。
 スレスレに触られて、ミチルは全身が泡立つような感覚に襲われた。

「覚悟は、いいか……?」

 その台詞は、ミチルの頬の上で囁かれた。
 甘くて熱い吐息がかかった所から、のぼせてしまうよう。

 オレ史上、最大の、ぱっくんちょ危機!!
 だがミチルに抵抗する隙などない。

 イケおじの手がむんずと掴む!

「うぎゃああ!」

 そのままぐりぐり!!

「ほぎゃああああ!」

 ミチルが出来るのは、前に体得した秘術。「汚い声をあげろ」作戦だけだった。

「黙れ。××殺すぞ」

 イケおじの口から、超弩級のシモネタ&脅しが返ってくる。
 その圧に、ミチルはとうとう観念するしかなかった。

 ああ……ついに、ぱっくんちょ、されるのか……




「先生ぇ!!」

 突然、部屋の扉をバターン!と開けて、誰かが入ってきた。とても慌てた声だった。

「どうした」

 かけられた体重がなくなった。覆い被さっていたイケおじが、ミチルから離れたのである。

「はふ、はふっ……!」

 ミチルは少し過呼吸に陥っていて、目の前がチカチカしていた。

「先生! 黒獣こくじゅうが!」

「何……?」

 慌てる男性の声と、イケおじが訝しむ声。それを聞きながら、ミチルは懸命に呼吸を整える。

「すぐ、そこまで来ています!」

「──チッ」

 コクジュウ、って何だ?
 ミチルは痺れる体を無理矢理起こした。

「お願いします、先生!」

「わかった」

 イケおじはその長い銀髪を一つに束ねながら動く。
 なんて素敵なうなじ。そんな事をミチルはボオっとした頭で考えていた。

 脇机から何かを取って腕にはめたイケおじは、そのまま扉の向こうへと走った。
 急に冷たい空気が入り込む。扉の向こうはもう外だったのかと、ミチルはやはりボケっとした頭で思った。

 ゾクゾクッ!!

 不意に、ミチルは体中に鳥肌が立つ。
 嫌な感じがした。しかも、これまで何度も経験した感覚だ。

 考えるより早く、ミチルはイケおじの後を追って外に出ていた。
 一歩出ただけで、立ち止まる。一束に括った銀髪の背中がすぐ目の前にあったからだ。

 さらにその向こう。ミチルは驚きで目を見開いた。
 コクジュウ、黒い獣ってこと?

 ていうか、それ。
 そいつ。

 イケおじの緊張感が伝わる。
 彼が対峙する黒い影の獣。ちょうど野犬ほどの大きさで低く唸っている。

 ベスティアだった。
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