上 下
68 / 109
Interlude02 トライアングルSOS!

4 チル神様

しおりを挟む
 この世界はチル神がまとめた。
 それまで世界中に散在していた人間は、チル神の元でひとつになった。
 秩序を与えられた人間は、次第に考えるようになりいくつかの集団を形成していった。
 国としてまとまっていった人間達は自主性を与えられ、チル神の手を離れる。
 しばらくチル神はそこで人間を守っていたが、その性質に満足すると天に帰っていった。
 それから人間はチル神に日々の感謝を伝え、チル神は天から人間を見守っている。

 

「……と言うのが、クソガキでも知っているカエルラ=プルーマの創世伝説じゃ」

 スノードロップは揺り椅子に深く腰掛けて、その場の若者達──主にミチルに語った。
 後ろで床に座るイケメン三人衆は「何を今更」と言うような顔をしている。

「へえー、この世界だとカミサマってどこでも同じなんだ?」

「うん? どういう意味じゃ?」

 ミチルの言葉に、スノードロップは眉毛をピクリと動かして聞く。あまりミチルを歓迎していない雰囲気を続ける目の前の翁に、ミチルは少し怯えながら辿々しく答えた。

「ええっと、オレのいた世界だとさ、国によって神様って違うんだよね。名前とか姿も違うし、天界? ていうか死後の世界……? みたいな所もその国の宗教によって違うよ」

「何だよそれ、そんなん混乱しねえ? それともミチルの世界はカミサマが何人もいるってのか?」

 エリオットが怪訝な顔で言うと、ミチルも自然と難しい顔になって答える。

「うーん、オレも詳しくはわかんないけど。オレのいた日本は色んな神様がいるよ。あ、でも仏教だと仏様一人なのかな? 神様でも仏様でも、日本では好きなのを信じていいんだ。宗教の自由っていう法律があるから」

「はあ? カミサマが? マジかよ、変わってんな。法律にカミサマのことも書いてあるのか? 信じらんねえ」

「日本はそうでもないけど、外国だと信じる神様の違いで何度も戦争が起きてるよ。だから法律に書くんじゃない? わかんないけど」

 若干18歳のミチルの認識など、こんなものである。そして精神年齢若干15歳(←引き下げられた)のエリオットはそれを聞いてますます変な顔をした。

「カミサマが違うと戦争が起きるのかよ!? ミチルの世界は意味わかんねえな!」

「……王子様よ、理解できないからと言ってそのような暴言を吐くでないぞ」

「う……」

 嗜められたエリオットは肩を竦めて黙ってしまった。

「話が逸れておるわ。小僧の世界の宗教観など、ここでは何の関係もないわい」

 ピシャリと言い放つスノードロップに、ミチルも肩を竦めた。やっぱりこのお爺さんはオレにだけ冷たい。

「重要なのはここからじゃ。チル神様は天にお帰りになったが、人間が困難な場面に遭遇すると時折カミの系譜に連なる者を遣わしてくださる。それが、各国の様々な場所に残されておるチル一族の伝説じゃ」

「カミサマの使い? 天使ってこと?」

 ミチルが聞くと、スノードロップはまた顔を顰めて考えながら答える。

「お前さんの言う天使と言うのがどういうものか、わしは知らん。チル一族はチル一族じゃ。この世界での天使とは別物じゃ」

「ええー? なんか全然わかんないんだけど」

 匙を投げそうになったミチルに、アニーから助け舟が出る。

「ミチルの知ってる天使ってさ、子どもの姿で羽がパタパターってしてる?」

「そうそう、それそれ!」

「ならそれはチル一族じゃないよ。天使は、今はあんまり遭遇できないけど、カエルラ=プルーマではちゃんとした生き物だね。伝説でもなんでもない」

「へええー……さすがファンタジーの世界……」

 アニーの簡単な解説のおかげで、ミチルはやっと思考をどこに向けるべきなのか見えた気がした。
 ここはよくわかんないけどファンタジーの世界なんだ。そういう設定なんだからオレの地球での知識は置いておくべきで、代わりにゲーム脳になればいい!と。

「ここからが厄介な所なんじゃが、チル一族は各国・各地方に数多く伝説を残しておっての。そこでの文化の中で様々な解釈をされて語り継がれているから、チル一族が結局何なのか、本当のところは誰にもわかっておらん」

「へええー……」

「その点を考慮すると、小僧の世界でカミサマが何種類もいると言うのは、カエルラ=プルーマでチル一族伝説が国の数だけ存在するのと似たような事かもしれん」

「おお……! そういう事か!」

 スノードロップの分析に、ミチルは思わず拳を打って感心した。
 チル一族は、地球で言う宗教のそれぞれの神様の姿かも?と思って考えると分かりやすい。

「試しに……そうじゃな、カエルレウムのチル一族伝説を小僧に教えてやれ」

「──私か?」

 スノードロップの視線を受けて、ジェイが自分を指差しながら言った。

「お前さんがいくらぽんこつでもそれくらいは説明できるじゃろ。御伽話なんじゃから」

 おや?どうしてこのお爺さんはジェイがぽんこつだって知ってるんだ?
 さては、会ってすぐに何かやらかしたんだな、ぽんこつだから。
 
 ミチルはそんな事を考えてジェイを思わず生温い目で見た。
 もちろんそんな意図が通じないジェイは頷きながら口を開く。

「わかった。では話そう」

 そうして、カエルレウムでは幼子まで当然知っている御伽話をジェイは語ってみせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!

BL
 16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。    僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。    目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!  しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?  バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!  でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?  嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。 ◎体格差、年の差カップル ※てんぱる様の表紙をお借りしました。

転生したので異世界でショタコンライフを堪能します

のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。 けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。 どうやら俺は転生してしまったようだ。 元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!! ショタ最高!ショタは世界を救う!!! ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです

BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。

処理中です...