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Interlude02 トライアングルSOS!
3 お爺さんがオレにだけ冷たい
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スノードロップの小屋は外見通りの掘立小屋で、内部は小さなテーブルと椅子、奥に本に埋もれたベッドが見えるだけの簡素なゴミ屋敷といった風情だった。
老人の独り暮らしの家に、若者が四名寛げるはずもなく、スノードロップが大きな揺り椅子に座ると、後は切りっぱなしの材木のような椅子が一つだけ。エリオットが座るかと思いきや、そこにはミチルを座らせた。
他三人は立つことになったが、ジェイとアニーは少し生温い視線をエリオットに送る。それをエリオットは居心地悪そうに受けていた。
「こりゃ、デカい男が三人も立ちおって、いたいけな老人を威圧する気か!」
「だって椅子もうねえじゃん」
エリオットが不貞腐れながら言うと、スノードロップはたとえ王子様でも構わずに言い放つ。
「その辺の布でも尻に敷いて、床に座れ」
本やら衣服やらが散乱した床のどこに座るところが!?と全員が突っ込みたかった。
しかしそれをぐっと堪えて、三人の男達はもそもそと床を片付けてなんとか座る場所を作り出した。
「ふむ。やっと人心地がついたわい」
スノードロップは一同を見回してからエリオットを視線で促した。
それで漸くエリオットはウツギの正体を含め、城の礼拝堂で起こった事を説明した。
「なるほどのう……あのクソジジイめ、よくも儂らを謀ってくれたわ」
どう見てもウツギの方が若かった気もするが、それをあえて言うような者はこの場にいなかった。
「ところでジェイとアニーはどうしてここにいるの?」
スノードロップが何やら考え込んでいる隙に、ミチルが二人に向けて言う。
するとジェイがいつも通り淡々と説明してくれた。
「うむ。私達はミチルを探しながら森を横断したようなのだ。あの森は王都コンバラリア管轄の森と繋がっていたようでな、スノードロップ翁の小屋に偶然辿り着いた」
「も、森を横断……!? ごめん、大変だったでしょ?」
「いや、それよりもミチルを見つける方が大事だからな」
やだあ! ミチルの方が大事なんて!
ここが他人の家であることを一瞬忘れたミチルはぽっと照れてしまった。
その様子が面白くないアニーが話題を引き取って更に続ける。
「当たり前でしょ! ミチルより大事なものなんてないんだから! それでね、小屋にアルブス王家の紋章があったからさ、こりゃ国の重要人物が住んでるなって、思い切って相談したんだよ」
「うむ。聞けば、すでに引退はされているが宮廷魔術師の頂点におられた方だと仰るので、ミチルの行方を探せないか尋ねていた所だ」
話題を引き取り返したジェイが言うと、スノードロップはミチルをチラと見てまた冷たい視線を向ける。
「まったく、大の男が二人揃って、たかが少年一人にオロオロしとるとは情けない。色惚けた若者を更生させるのも年長者の勤めじゃ。いっちょ喝を入れてやろうと思ったところに──」
「茂みの奥から変なヤツが襲ってきたんだ」
アニーがそう続けると、ジェイもまた更に続ける。
「咄嗟に取り押さえた所で、ミチルとエリオット王子が現れた、という訳だ」
「……じゃあ、二人もここに来たばっかり、ってこと?」
ミチルが聞くとアニーが頷いて答える。
「そうそう。ほんの一時間くらい前かな?」
「ええー……すごい偶然。会えて良かったぁ」
ミチルが奇跡のようなタイミングに感動すると、二人もうんうんと頷いていた。
しかし、それをスノードロップは冷ややかな顔で見てからエリオットに向き直る。
「──王子様、そなたが最初にグレた理由はなんだったかの?」
急な話題転換だったが、ミチルは文句を言う理由が見つからなかったので黙っていた。
元々はエリオットの説明を聞いていたのだから、脱線したのはミチルの方だったのだ。
問われたエリオットも少し躊躇いながら答える。
「え、おれはいずれ敵国の人質に送られるって……」
「それは、ウツギから聞いたんじゃろ?」
「う……ん」
「それが彼奴からの洗脳の始まりだったんじゃろうの。いや、その下地は生まれた時から……か」
「……」
エリオットはそこで黙ってしまった。反省の色を帯びた瞳に、スノードロップは更に追い打ちをかける。
「全く、王様の最愛の妃であるマーガレット様が残した大切な王子を手放すはずがなかろうに……そんなんじゃから十年も引きこもるはめになるんじゃ」
ブツブツ言うスノードロップの小言を、エリオットはシュンとして聞いていた。それでミチルは思わず口を挟む。
「でもエリオットのせいだけじゃないでしょ。王様だって言葉が足りなかったんじゃない?」
「ミチル……」
エリオットはまるで拾われた子犬のような目でミチルを見つめていた。スノードロップはそんな二人の様子を見て少しシラけていた。
「まあええ、過ぎたことじゃ。それよりも問題は人間がベスティアになったことと──おぬしのことじゃ」
「オレ……?」
また鋭く睨まれてミチルは居心地が悪くなる。
さっきからこの爺さんは何なんだ?
オレを歓迎していない気がする。いやまあ、初見で歓迎しろとは言わないけど……
ミチルは今まで出会ったイケメン達がもれなく優しかったので、このように疑いの眼差しを向けられたのは初めてだった。
しかも「魔性」とか言われた。どういう事なのか、説明が欲しいと思った。
「小僧、名はミチルと言うのか?」
「そうですけど……」
「お前は、チル一族なのか?」
まただ。
また、その呼び方をされた。
しかも、王様のように良い意味ではなく、おそらく悪い意味で。
「そんなの、知りませんけど」
老人に睨まれて面白くないミチルは、不貞腐れながら首を振る。
そしてスノードロップは短く息を吐いた後、呟くように言った。
「カミの再臨か、それとも破滅の予兆か……」
老人の独り暮らしの家に、若者が四名寛げるはずもなく、スノードロップが大きな揺り椅子に座ると、後は切りっぱなしの材木のような椅子が一つだけ。エリオットが座るかと思いきや、そこにはミチルを座らせた。
他三人は立つことになったが、ジェイとアニーは少し生温い視線をエリオットに送る。それをエリオットは居心地悪そうに受けていた。
「こりゃ、デカい男が三人も立ちおって、いたいけな老人を威圧する気か!」
「だって椅子もうねえじゃん」
エリオットが不貞腐れながら言うと、スノードロップはたとえ王子様でも構わずに言い放つ。
「その辺の布でも尻に敷いて、床に座れ」
本やら衣服やらが散乱した床のどこに座るところが!?と全員が突っ込みたかった。
しかしそれをぐっと堪えて、三人の男達はもそもそと床を片付けてなんとか座る場所を作り出した。
「ふむ。やっと人心地がついたわい」
スノードロップは一同を見回してからエリオットを視線で促した。
それで漸くエリオットはウツギの正体を含め、城の礼拝堂で起こった事を説明した。
「なるほどのう……あのクソジジイめ、よくも儂らを謀ってくれたわ」
どう見てもウツギの方が若かった気もするが、それをあえて言うような者はこの場にいなかった。
「ところでジェイとアニーはどうしてここにいるの?」
スノードロップが何やら考え込んでいる隙に、ミチルが二人に向けて言う。
するとジェイがいつも通り淡々と説明してくれた。
「うむ。私達はミチルを探しながら森を横断したようなのだ。あの森は王都コンバラリア管轄の森と繋がっていたようでな、スノードロップ翁の小屋に偶然辿り着いた」
「も、森を横断……!? ごめん、大変だったでしょ?」
「いや、それよりもミチルを見つける方が大事だからな」
やだあ! ミチルの方が大事なんて!
ここが他人の家であることを一瞬忘れたミチルはぽっと照れてしまった。
その様子が面白くないアニーが話題を引き取って更に続ける。
「当たり前でしょ! ミチルより大事なものなんてないんだから! それでね、小屋にアルブス王家の紋章があったからさ、こりゃ国の重要人物が住んでるなって、思い切って相談したんだよ」
「うむ。聞けば、すでに引退はされているが宮廷魔術師の頂点におられた方だと仰るので、ミチルの行方を探せないか尋ねていた所だ」
話題を引き取り返したジェイが言うと、スノードロップはミチルをチラと見てまた冷たい視線を向ける。
「まったく、大の男が二人揃って、たかが少年一人にオロオロしとるとは情けない。色惚けた若者を更生させるのも年長者の勤めじゃ。いっちょ喝を入れてやろうと思ったところに──」
「茂みの奥から変なヤツが襲ってきたんだ」
アニーがそう続けると、ジェイもまた更に続ける。
「咄嗟に取り押さえた所で、ミチルとエリオット王子が現れた、という訳だ」
「……じゃあ、二人もここに来たばっかり、ってこと?」
ミチルが聞くとアニーが頷いて答える。
「そうそう。ほんの一時間くらい前かな?」
「ええー……すごい偶然。会えて良かったぁ」
ミチルが奇跡のようなタイミングに感動すると、二人もうんうんと頷いていた。
しかし、それをスノードロップは冷ややかな顔で見てからエリオットに向き直る。
「──王子様、そなたが最初にグレた理由はなんだったかの?」
急な話題転換だったが、ミチルは文句を言う理由が見つからなかったので黙っていた。
元々はエリオットの説明を聞いていたのだから、脱線したのはミチルの方だったのだ。
問われたエリオットも少し躊躇いながら答える。
「え、おれはいずれ敵国の人質に送られるって……」
「それは、ウツギから聞いたんじゃろ?」
「う……ん」
「それが彼奴からの洗脳の始まりだったんじゃろうの。いや、その下地は生まれた時から……か」
「……」
エリオットはそこで黙ってしまった。反省の色を帯びた瞳に、スノードロップは更に追い打ちをかける。
「全く、王様の最愛の妃であるマーガレット様が残した大切な王子を手放すはずがなかろうに……そんなんじゃから十年も引きこもるはめになるんじゃ」
ブツブツ言うスノードロップの小言を、エリオットはシュンとして聞いていた。それでミチルは思わず口を挟む。
「でもエリオットのせいだけじゃないでしょ。王様だって言葉が足りなかったんじゃない?」
「ミチル……」
エリオットはまるで拾われた子犬のような目でミチルを見つめていた。スノードロップはそんな二人の様子を見て少しシラけていた。
「まあええ、過ぎたことじゃ。それよりも問題は人間がベスティアになったことと──おぬしのことじゃ」
「オレ……?」
また鋭く睨まれてミチルは居心地が悪くなる。
さっきからこの爺さんは何なんだ?
オレを歓迎していない気がする。いやまあ、初見で歓迎しろとは言わないけど……
ミチルは今まで出会ったイケメン達がもれなく優しかったので、このように疑いの眼差しを向けられたのは初めてだった。
しかも「魔性」とか言われた。どういう事なのか、説明が欲しいと思った。
「小僧、名はミチルと言うのか?」
「そうですけど……」
「お前は、チル一族なのか?」
まただ。
また、その呼び方をされた。
しかも、王様のように良い意味ではなく、おそらく悪い意味で。
「そんなの、知りませんけど」
老人に睨まれて面白くないミチルは、不貞腐れながら首を振る。
そしてスノードロップは短く息を吐いた後、呟くように言った。
「カミの再臨か、それとも破滅の予兆か……」
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